49 釣り
「少し予定を変更して~私は一足先にポラリスへ戻りま~す。皆さんは~休暇も兼ねてゆっくりと~別ルートで戻って下さ~い。ではでは~」
港町アルスタに戻ってきた途端、ミオンは馬車を走らせて去っていった。
「何だか知らんけど、休みだ休みぃ! ウチは魚料理が食べたいんよ!」
「ふっふぅ! 港町なら交易品もありそう。あたいはたっぷり土産物買って帰りたいなぁ!」
「私は……ん? ユーリ、どうかした? 私の顔をジッと見て」
降って湧いた突然の休みに浮かれているコーネリア達とは違って、ユーリは地下ダンジョンで出会ったスバルのもう一つの存在、スバーニャの事が気になっていた。
あの時は余裕がなく、有耶無耶になっていたがユーリでさえ上手く扱えないユニークスキル『奇跡』についてアドバイスをくれたスバーニャの事が、ユーリはどうしても気になってしまうのだった。
「あのさ、スバ……」
「ほれほれ、スバルとユーリも行こうよ! あっちに美味しい匂いのする店があんだって!」
「はいはい、今後の予定も決めなきゃだし、ご飯を食べながら話そうか」
コーネリアがスバルとユーリの背を強引に押して店へと誘導した。
コーネリアは店先のオープン席に陣取ると早速大量の注文をすると、周囲の人間から戸惑いの声が上がるが気にせず注文を追加していった。
「なんかこの店にチャレンジメニューがあるんだって、でも予約が必要みたいだし数日はアルスタに滞在しようよ」
「いや、流石に何日もアルスタにいるより他の街へ行こうよ。他の街には別の美味しいものがあるかも知れないじゃん」
「え~、チャレンジメニューを前にして背中を向けるなんて獣人の名折れだよ。絶対、食う!」
「名折れって……大袈裟な」
次々と運ばれてくる料理を食べながらコーネリアは執拗にチャレンジメニューへの挑戦を主張した。
その勢いに押されて、半ば呆れながらもアルスタの滞在が決まった。
「もう、仕方ないなぁ。で、そのチャレンジメニュー、いつ挑戦するの?」
「それがさぁ、メイン食材のメガロルパって魚が不漁で入荷未定だから挑戦できんのよ~」
「なぁ~んだ。じゃあ諦めなよ」
ルイは細切れにした魚の切り身を頬張りながらコーネリアに挑戦辞退を勧めた。
だがコーネリアは諦めない。
「そこで皆に協力して欲しい事があんのよ」
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食事を終えたスバル達は港へとやってきた。
チャレンジメニューへの挑戦を諦めないコーネリアは不漁となっているメイン食材、メガロルパを自力で釣り上げようと画策し、港にいるバランを訪ねてきた。
「バランさ~ん」
「ん? おぉ! どうした、嬢ちゃん達。何か用かい」
「実はウチら、メガロルパって魚を手に入れたいんよ。バランさんの船を出してくんない?」
「え? メガロルパかい。確かに今、獲れないんだよな……漁場へ連れていくのは構わんが、釣れるとは限らんぞ?」
「それでもいいから連れていって! お願いっ!」
「わかった。嬢ちゃん達には世話になったからな。とっておきのポイントに連れてってやるよ」
バランの協力を取り付けて船に乗り込んだコーネリア達は港を出発し、意気揚々とメガロルパの生息する漁場へ向かった。
「コーネリア、これでメガロルパが釣れなかったら流石に諦めてよね」
「釣れなかったらしゃーないんだから、何日も粘るんじゃないぞ」
スバルとルイが前もって釘を刺す。そうしておかないと諦めの悪いコーネリアが何日も粘りかねない。
「うっ……わかってるよぉ。だけど皆も手伝ってよね、はい釣り針に餌付けて、釣り糸垂らして」
大きめの針に魚の切り身を刺して海底に投下していく。太い釣り糸を動かしながらメガロルパが掛かるのを待ち続ける。
「…………来ないね」
「本職の漁師が獲れないのに、素人が急に挑戦しても無理なんじゃね?」
「う~ん……まだ続けるの、コーネリア?」
「まだ始めたばっかじゃん! せめて今日一日くらい付き合ってよ!」
ただ待つ事に飽きたルイが欠伸をしながら船べりで寝転がり、コーネリア達が黙々と釣り糸を動かしている。
釣果の無いまま二時間ほど経ち、諦めて港へ帰ろうかとした時、コーネリアの釣り糸に強烈な反応があった。
「! き、来た! 来た来た来たあぁっ!」
「え、何?」
「嘘、来たの?」
「……むにゃ」
スルスルと引っ張られていく釣り糸を握り締めて、コーネリアが釣り針に掛かった魚と格闘していく。
ビンッと張り詰めた釣り糸を巻き取りながらコーネリアは獲物の大きさに思いを馳せる。
「にっしっしっし、この強さ……相当な大物に違いないよ!」
「バランさ~ん、掛かったみたい! どうしたら良い?」
「マジか……そこにある滑車に釣り糸を巻いて引っ張るんだが……コーネリアの嬢ちゃんには不要か?」
常人ならば力負けして引き摺りこまれるような場面でも、獣人のコーネリアは腕力に物を言わせてどんどん釣り糸を巻き取っていく。
バランが鉤爪棒を用意して釣り針に掛かった獲物が上がってくるのを待ち受ける。
「……き、来た。上がって来た! ぅわ、デッカ……」
水面の下に船の半分ほどの大きさの魚が見える。あまりの大きさにユーリの声が尻すぼみしていく。




