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47 『奇跡』とは

「ユーリ! 二人を安全な場所へ! このぉ……ちぃちゃん、閉じ込めて!」


 四方の地面から突き出た岩盤が鎧騎士を押し込め、僅かな猶予を作る。


 ユーリがスバルとコーネリアを壁際に運び、手持ちの魔法薬を二人に飲ませてみるが適した薬ではないのか、あるいは呪病の効果が強すぎるのか、回復の兆しが見えない。


 スバルとコーネリアの身体に浮かぶ黒い染みは至近距離で魔力の波動を受けた影響か、島民のものより濃く、そして広範囲に及んでいる。


 黒く染まった手足には力が無く、意識も混濁しているのか呼び掛けに応じる気配も無い。


「スバル……コーネリア……こんな時こそ、あのスキルが使えれば。お願いお願いお願いぃ……」


 必死に祈りを捧げるユーリではあったが、無情にもその祈りに対して何の反応もない。


「何でなのぉ……」


 一体、何が足りないというのか。勇者として授けられた能力を満足に扱えない己れの不甲斐無さを恨めしく思うユーリであった。


 だがいつまでも嘆いている暇は無い。直に鎧騎士は拘束から出てくる。


 ユーリは一つの決心をしてルイに二人を外へ運ぶよう提案した。


「……ルイ、二人を運んで外へ出れる?」

「え? で、出来るけど……あの騎士が見逃してくれるとは思えないよ」

「大丈夫、アイツはボクが足留めをするから。その間にルイは二人をミオン先生の所へ運んで」

「一人で相手しようっての!? スバルやコーネリアみたいになっちゃうって!」

「ボクには奥の手がある。ユニークスキル『奇跡』の発動に必要な強い思いを引き出すには、自分を追い込むしか無いんだよ」

「……うぅ、全速力で戻ってくるから、最後まで諦めないでよ!」


 ルイはスバルとコーネリアを風の球で包み込むと来た道を引き返していった。


 ルイが二人をミオンの下まで運ぶのにどれだけ急いでも数十分は掛かる。その間、鎧騎士をこの場に押し留めておかなければならない。


 岩盤を切り崩し、鎧騎士が出てきた。ユーリは魔力増幅薬と身体強化薬を飲み干し、全身に力が漲るのを感じた。


「ユーリの名の下に。火精よ、敵を縛れ 『火炎鎖(ファイアーチェーン)』」


 地面から飛び出した炎の鎖が鎧騎士の手足に巻き付き、巻き付いた部分を焦がしながら動きを封じた。


「これで少しは時間を……ユーリの名の下に。火精よ……」


 鎧騎士の動きを警戒し、慎重に距離を保ちながらルイが脱出するまでの時間を稼ごうと、ユーリはさらに拘束魔法を重ねようとした。


 だが、ユーリが呪文を唱え終える前に大剣の波動によって鎧騎士を縛っていた炎の鎖が破壊されてしまった。


「鎖がっ!」


 自由になった鎧騎士が距離を詰め、振り上げた大剣がユーリに襲う。


 咄嗟に盾を掲げ、大剣の一撃を防いだユーリは、続けて襲い来る黒い波動を堪えようと全身に力を込めた。しかし予想に反して、大剣から黒い波動が放たれる事はなかった。


 大剣が帯びている魔力にも限界があるのか、大剣から放たれる黒い波動もスバルとコーネリアが受けた時ほどの威力が出ていなかった。


「これなら、いけるかも!」


 大剣の攻撃を防ぎつつタイミングを合わせて攻撃を逸らし、ユーリが反撃に出る。


 大振りの攻撃を逸らして、隙を見せた鎧騎士の右肘の関節部を狙って剣を振り下ろす。


 鎧の耐久力も高いのか一度の攻撃で両断するに至らなかったが二度、三度と同じ場所を切りつける。


 ユーリがさらに攻撃を加えようと振りかぶった時、鎧騎士の蹴りを食らって体勢を崩して大剣の一撃を受けてしまった。


「しまっ……た。腕が……」


 切りつけられた二の腕が麻痺して手に力が入らず、剣を手放してしまった。


「くっ……ユーリの名の下に。火精よ、敵を縛れ 『火炎鎖』」


 鎧騎士を捕らえようと周囲に炎の鎖が現れるが、鎧騎士が大剣から黒い波動を放つ事で魔法をかき消してしまった。


「大剣を使えば使うほど、あの波動は弱くなっていく……もっと使わせないと。ユーリの名の……」


 ユーリが魔法攻撃を続けようと呪文を唱えるが、それを阻止しようと鎧騎士がユーリを蹴り上げた。


 さらに倒れたユーリを踏みつけ、大剣の切っ先をユーリの首元へ突きつけた。


「うぅ……」


 鎧騎士の足下で足掻くユーリの首目掛けて、鎧騎士が大剣を突いた。


「せぃりゃあっ!!」


 大剣の切っ先がユーリの首に食い込む寸前、呪病に冒された筈のコーネリアが突撃して鎧騎士に吹き飛ばした。


「すいちゃん、らいちゃん、やっちゃいなっ!」


 ルイの放つ雷を帯びた水鞭が鎧騎士の身体を激しく打ちつけて追撃を加える。


「え、あ……? どうして」

「大丈夫か、ユーリ?」


 この場にいる筈の無いコーネリアとルイ、そして手を差し伸べてくるスバルの姿にユーリは混乱した。


 特にコーネリアとスバルは重度の呪病の影響により命の危機にあった筈なのにそれが完全に回復して戦っている様子にユーリの理解は追い付かず、ただ呆然と立ち尽くすのだった。


「スバル、これはどういう事なの?」

「ふん、せっかく有用なアイテムがあるというのに、使い方を把握しとらんというのは間抜けな話よのぉ」


 少しスバルの雰囲気が違う事に違和感を感じるユーリに、スバルはミオンが持ってきた身代わり人形を手渡した。


「それを使え。状態異常を肩代わりしてくれるアイテムだ。コーネリアとスバルの身体もそれで治した」

「……スバルの身体も、て。アナタはスバルじゃないんだね」

「私はスバー……スバルの身体に宿るもう一つの意思だ。スバルが危険な状態に陥った為、表に出てきた。勇者ユーリよ、さっさとあのアンデッドナイトを倒せ」

「もう一つ意思……? いや、それよりさっさと倒せって言われても、あの黒い波動が厄介だし鎧騎士も手強くて」

「笑止。勇者の『奇跡』ならば容易な筈だ」


 ユーリが身代わり人形を使うと人形の右腕が塵となって崩れ、代わりにユーリの右腕の麻痺が治った。


「そりゃ使えたらもっと優位に戦えたと思うけど……どうしても使えないんだよ。思いが足りないから、私が未熟で弱いから、必死に戦っても発動しないんだよ」

「……やれやれ、私が教えるのもおかしな話だが仕方ない。勇者ユーリよ、よく聞け。勇者の『奇跡』は誰かに願うものでも縋るものでも無い。ただ一心に己れを信じ、形とするものだ。かつて、奴はそうしていた」

「え? 奴って……」

「気にするな。このスキルを発動させるにはもっと傲慢になれ、馬鹿になれ。如何なる事象も超越し、己れで世界の理を築くのだ」

「…………」

「初めてスキルが発動した時を思い起こせ。あの時、鋼鉄の如き魔物の身体を容易く切れたのは切ろうと思ったからではない、お前の邪魔をするモノ全てを否定し我を貫いたからだ」

「……それを聞くと、なんか『奇跡』のスキルって超我が儘な感じがする」

「まさにその通りよ。ユニークスキル『奇跡』は究極の我が儘スキルと言っていい……敵対する身からすれば、いい迷惑だが」

「え、なんか言った?」


 スバーニャの助言によりユーリは自身のスキルの理解を深め、目を閉じて静かに瞑想した。

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