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44 ミーノ島

 翌日、準備を整えて再び港にやってきたミオン達は馬車の荷物を自前の魔法鞄に詰め込み、停泊しているバランの船に向かった。


 一人黙々と準備しているバランを見付けたミオンが声を掛けた。


「ど~もど~も。バランさん、おはようございます~」

「あんたか……本当に行くんだな」

「はい~私とこの子達を途中までお願いしま~すね」


 スバル達とバランの顔合わせを済ませると早速船を出港させた。


「ミオン教官、ミーノ島へは途中までこの船で運んでもらって最後は自分達で小舟を漕ぐんですか」

「そうですよ~魔法も併用すれば~数キロくらいの距離は~大丈夫でしょ~」

「数キロ……魔物とかって出ませんか?」


 スバルは四人乗りの小舟を足場にして海の魔物と戦う事に不安を感じている。


 コーネリアやスバル、ユーリのような接近戦を得意とする戦士系はあまり戦力にならないだろう。


「いざとなったらルイが頼りか……」

「おう! あたいに任せとけ。それにミオン教官もいるんだし、そんなに怖がんなって!」

「うふふ~期待してますよ~ルイさん」


 港を出港してしばらくは波も穏やかで快適な船旅であった。海上を吹く風を受けて、船の帆が大きく張ると一気に船足が伸びた。


 周囲に目印になるような物が何もない沖合いの海まで出るとバランが話し掛けてきた。


「ミーノ島の流行り病はステラ教の僧侶でも治さなかったと聞いているんだが、アンタらは治す方法を知っているのか?」

「ご心配なく~ある程度は~目星を付けてますので~」

「えっ? そうなんですか! 凄いですね、ミオン先生!」

「うふふ~確かにステラ教の聖魔法使いは~病を完治させられ無かったですけど~それなりに情報を分析しているんですよ~」

「そうか……あの島は俺の故郷なんだ。今は離れて暮らす家族も友人もいる。どうか、どうか……よろしく頼む」


 深々と頭を下げてバランは仕事に戻って行った。きっとアルスタの町にはバラン以外にもミーノ島の住民を心配する者達は多いだろう。


 魔族の側に属するスバルであっても戦場でならいざ知らず、平穏に暮らす人族に仇なすつもりは無い。


 今はステラ教団の聖騎士候補生として目の前の事に集中している。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 順調に海原を快走していた船の先に島の姿が見え、予定していた距離まで近付いた所で帆を畳み、船を止めた。


「ここら辺が限界だ。後は頼んだぞ」

「は~い、どうもでした~。では、皆さ~んしっかり掴まって下さいね~。サクラギ・ミオンの名の下に。水精よ、水面を走れ 『激走水流(ウォータージェット)』」


 小舟の後部から勢いよく水が噴射し、小舟を半分浮き上がらせて疾走させた。


 水面を爆走する小舟の勢いに負けて体勢を崩したスバル達が、危うく小舟から落ちそうになりながらもギリギリで耐えて、一路ミーノ島を目指した。


「ミオン教官、オールがふっ飛びました!」

「ちょ、ちょっとミオン先生……は、速すぎ」

「うっほぅ! すっげぇ速い! 気っ持ち良いぃ!」

「と、飛べないぃ」

「あ、これはダメかも~」


 小舟の勢いは衰えぬまま、どんどん島へと近付いていく。島付近で小波が立った瞬間、スバル達を乗せた小舟がその僅かな小波に弾かれて水面から飛び立った。


「ひぃぁあ!」

「飛んだぁ!」

「す、すいちゃん!」


 島の岸壁に激突する直前、ルイの叫びに応えて直下から水柱が沸き立ち小舟をさらに上へと押し上げた。


「んああぁぁ!」

「ふぎぃい!」

「ふうちゃん、お願いぃ!」


 上空へと飛ばされた小舟が地面に落下する最中、風のクッションに受け止められてゆっくりと着地した。


「…………吐きそう」

「あぁ……地面だぁ」

「うっひょお! 凄かったね!」

「あ~大変だった」


 青白い顔で這うように小舟から降りてきたスバルやユーリとは対照的に、軽い足取りで降りてきたコーネリアは満面の笑みを浮かべていた。


「は~い、それじゃ移動しますよ~。この島には~島民の住む村が一つだけ~あります~。病に冒された病人は~そこにいる筈で~す」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 ミーノ島はそれほど大きな島ではないようで、小舟が墜落した場所のすぐ近くに島民の使う小道があり、その小道を進むと程なくして建物が密集する村が見えた。


 村の中に活気は無く、出歩く人の姿は無かった。村の様子を探るように歩いていくとようやく村人を見付けた。


「すみません。ちょっとよろしいですか」

「……っ! な、なんだアンタらは? どこから来た?」


 アルスタとミーノ島の往き来が無くなり、事実上の封鎖状態に陥っている村人の男は、見知らぬスバル達を見て不審がりながら問い詰めてきた。


「私達はステラ教団の者です。この島で蔓延している病に対処する為に来ました」

「ステラ教団!? では、ディーネ様のお仲間で?」


 スバルはディーネという名前に聞き覚えは無いが、最初に病に対処したステラ教団の聖魔法使いの事だろうと見当がついた。


「今彼女は~どこに居ますか~? 案内をして下さい~な」

「へ、へい! こちらです」


 慌てた様子で男は駆け出し、倉庫のような建物へとスバル達を案内した。


 開け放たれた入り口から中に入ると、地面の上に広げられた布の上に数十人の病人が力無く横たわり、苦しそうに呻いていた。


 病を発症していない数人が看護にあたっているが出来る事は苦しむ病人の汗を拭う事ぐらいのようだ。


「ディーネ様!」


 スバル達を建物まで案内した男が、項垂れるように椅子に座っている女の下へ駆けていった。


 疲れ切っているのか長い髪は乱れ、目の下にくっきりと隈が浮き出ている。名前を呼ばれても反応が鈍い。


「ディーネ様、ステラ教団からお仲間の人が来ましたよ!」

「……本国から……」

「ステラ教団星騎士~サクラギ・ミオンです~。あなたが~救援要請を出したアルラ・ディーネさんですか~」


 人に支えてもらいながらディーネは立ち上がりミオンの下へ来た。


「はい、私がアルラ・ディーネです。良かっ……た、私が力尽きる前に……間に合った」

「詳しい話をする前に~あなたは少し休んだ方が~良いですね~」


 ミオンに休息を勧められたディーネだったが首を振り休息を取る事を拒否した。


「もう皆、ギリギリです。一刻の猶予もありません。私の知り得た情報を全てお伝えします」

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