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41 『奇跡』の使い手

 ユーリに切り刻まれて死んだスライムが液体になり、牙から解放されたスバルが身を起こした。


「ユーリ……今のは」

「はぁ、はぁ……初めて、出来た……やったぁ! スバル、やったよぉ!」

「痛い痛い! 肩、肩、怪我してるぅぅ」


 頬を紅潮させて興奮したユーリがスバルを強く抱き締めた。狼に擬態したスライムの牙が食い込んだ肩から鮮血が滴り落ちている。


「あ、ごめん。回復薬を……」

「うん……ところでユーリ。今の剣撃、普通じゃなかったね。何かのスキルを使ったの?」

「あ、あぁ、あの……えっと、そのぉ……あれは特殊なスキルで強い思いがないと発動しなくて、ボクもさっき初めて使えたんだ。色んな事が出来る凄いスキルらしいんだけど……ボクもまだまだ未熟でさ」

「……ユニークスキル『奇跡』……ユーリ、もしかしてコレ、読める?」


 スバルはポーチの中から、一枚の用紙を取り出してユーリに見せた。以前、セントナードで見付けた勇者の残した本に書かれていた文字を写したメモ用紙だ。


「ん? 『一ヶ月で五キロは痩せ……』って、これ日本語? どうしたのコレ?」

「それはセントナードに保管されていた先代勇者の持ち物に書かれていた文字だよ……そう、ニホンゴっていうんだね」

「あっ! あちゃ~もしかして……バレた? ミオン先生からは秘密にしろって言われてたんだよね」

「ユーリ……君が、新たに召喚された『勇者』なんだね」

「えへへ。まだ修行中の身で、勇者って呼ばれるほどの事もしてないんだけどね」


 勇者と呼ばれる事に抵抗を感じるのか、ユーリは照れ臭そうにしている。その様子を無言で見据えていたスバルは、刃が折れた剣を握り締めてゆっくりとユーリへと近付いていく。


「? どうしたの、スバル」


 無言で見詰めてくるスバルに首を傾げていたユーリが、別方向から聞こえてくる足音に気付いてスバルから視線を外して後ろを向いた。


「あっ、もしかしてコーネリア達かな? お~い」


 完全に無防備な状態。その首目掛け、スバルは剣を振り上げた。


(待て、スバルッ! 逸るなと言っただろう)


 剣を振り下ろす寸前、スバルの心にスバーニャからの交信が飛び込んできた。


「………………」

(ここでユーリを殺せば、教団を調べる事が出来なくなる。今はまだ手を出すな)

「………………」

(それに彼女が完全に魔族の敵となったと見極めたわけでもないだろう? まだ時間はある。焦るな)

「……わかった」


 スバルは振り上げた腕を下ろし、剣を鞘に戻した。


「ん? 何か言った、スバル」

「ユーリが勇者かぁ。今のうちにサインでも貰っておこうかなぁ」

「何言ってんのさ。もうヤダなぁ~……それより早くコーネリア達と合流して帰ろうよ」

「そう…だね」

「お~い、コーネリア、ルイ! こっちこっ……あっ」

「どうしたの……あっ」


 途中でユーリの言葉が途切れた事を不思議に思い、スバルも視線を向けるとそこにはコーネリアとルイを担いだミオンがいた。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「お~ほ~ほ~ほ。まさかまさか、こんな所へ~侵入してくるなんて~今期の候補生は~優秀ですね~」


 スバル達四人は腕輪の効果を最大限に引き上げられて手足に力が入らず、砂浜に打ち上げられたクラゲのように横たわっている。


 通路に転がるスバル達に、怒りの感情を内包した笑顔でミオンが見下ろす。


「あ、あの~……ミオン先生。これは、ですね」

「下手な言い訳は~いりませんよ。すでにルイさんから~聞いてますから~」

「うぅ、ごめ~ん。誤魔化せなかったよ~」

「曲がり角でばったり出会して、逃げ切れなかったんよ」


 ミオンが木魔法で生み出した木の根が四人を巻き取り持ち上げた。


「それじゃ~ルイさんが作った酒……じゃなかった~。隠し部屋に~行きましょうか~」


 木の根に巻かれた四人を連れてミオンは軽い足取りで隠し部屋へと続く大穴へと向かった。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「な~るほど、妖精族の空間魔法が~偶然、あっちのダンジョンと~繋がっちゃったんですね~……ちゅるるぅ~」


 ルイの隠し部屋に置いてあった酒壺の一つを小脇に抱え、管を挿して味見をしながらミオンが部屋の中を歩き回る。


「ちゅるるぅ~……まあ? 勝手に部屋を作ってはいけない~という明確なルールは無いですが~教団が厳重管理しているダンジョンに~抜け穴を作られるのは困るので~、この部屋は閉鎖して下さいね~。ちゅるるぅ~」

「あのミオン教官、質問していいですか?」

「はい~どうぞ~。スバルさん」

「どうして教団施設の真下にダンジョンがあるんですか? 教団が管理していると仰っていましたが危なくないですか?」


 たとえダンジョンから得られる利益が大きくても、ダンジョンが原因で不利益を被ったという話は山ほどある。


 人里から離れた場所にあるダンジョンですら危険なのに、街中にあればその危険度合いは跳ね上がる。


「どうして教団はこのダンジョンを放置するのですか? 星騎士を派遣すればダンジョン最奥まで踏破するのも不可能ではない筈」

「ダンジョンを~放置はしていませんよ~。ちゅるるぅ~……街の人々の害にならないように~ダンジョン内の動向は~常に監視して、管理しているんです~。ちゅるるぅ~……教団がダンジョンの機能を~停止させないのは~ちゃんと理由があるんですよ~。ズズズゥ~」

「理由? それは……」

「それを知る資格は~今のアナタ達にはありませ~ん。……あ、空になった」

「それあたいの酒だぞっ! 飲み過ぎだよ、アンタ!」


 ルイの叫びを無視してミオンは空になった壺を置き、新たな壺を抱えてまた飲み出した。

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