40 硬い身体
「させないよ!」
盾をかざしたユーリがスライムに体当たりをしてスバルの顔を狙った拳を食い止めた。
「ありがと、ユーリ! でも気を付けて、コイツ剣が効かないよ」
「みたいだね。だったら……ユーリの名の下に。火精よ、敵を討て 『火炎球』」
物理攻撃が効かない相手に対して魔法攻撃をぶつけるというのは効果的な方法ではある。
しかし、人型スライムは迫る火炎球に怯むこと無く突進し、火炎の前に身を晒した。
燃え盛る火炎球をまともに食らっても表面に焦げ痕一つ付かず、スライムがユーリに肉迫する。
「わわっ!」
煙りを帯びた拳を盾で防ぐが、重い拳打の一撃で盾に大きな亀裂が走った。
「火魔法が効いてない? なら、逆に冷やす! メロディエンスの名の下に。水精よ、氷結の波動となれ 『冷凍光線』」
スバルの指先から照射された冷気の一閃がスライムの半身を凍りつかせた。身動きが出来ず完全に捕らえたかと思われたが、スライムは強引に身を捩り氷の枷だけを砕いてしまった。
「む、無傷なの……」
「急激な温度変化にも耐性があり、物理攻撃も無効……どうしたもんかな」
「別系統の魔法も試してみる?」
「と言っても私は基本的に補助系の方が得意で、直接攻撃で一番威力があるのは水系なんだよね」
「ボクは炎系……」
「むむ……こりゃダメか」
目の前にいるスライムの高い防御力を突破してダメージを与えるには、それ以上の攻撃力で力押しするか耐性の無い魔法で攻撃するかの二択しかない。
「仕方ない。ここは逃げた方が良さそうだ」
「そうだね。スバル、何か足止めの方法ある?」
「水魔法で止めるよ。メロディエンスの名の下に。水精よ、絡めとれ 『水粘包膜』」
放たれた水球をスライムが払い除けようと触れた瞬間、蜘蛛の巣状に広がってスライムを巻き込んで地面に吸着した。
「もう一丁っ! メロディエンスの名の下に。地精よ、覆い被され 『岩石球状』」
水魔法で動きを止めたスライムを巨大な岩盤で完全に閉じ込めた。
「今のうち、逃げろぉ!」
「コーネリア達は戻ってきてるかなぁ、あっちにも厄介な魔物が出てなければ……あぁ!」
閉じ込めたスライムが気になってユーリが後ろを振り向くと、スライムを閉じ込めた岩盤から灰色の液体が漏れ出ていた。
「もう出てきたかっ! ユーリ、足を止めちゃダメだ! メロディエンスの名の下に。水精よ、氷結の波動となれ 『冷凍光線』」
岩盤から漏れ出た液体に氷の魔法をぶつけ、再度閉じ込めた。液体の時では人型の時ほどの力を発揮出来ないのか、即座に砕かれる様子は無い。
「それ急げぇ! 長くは保たないよっ!」
「あっ! 前方にゴブリンナイトがいるぅ!」
角を曲がった先にゴブリンナイトが現れた。二人に気付いたゴブリンナイトが威嚇の咆哮を上げた。
「まともに相手してる暇は無い。ユーリ、脇をすり抜けるよ」
「わかった!」
通路の中央に立つゴブリンナイトの横を左右に分かれて駆ける。
攻撃が警戒して身構えていたゴブリンナイトが左右に分かれた二人の行動に動揺して狼狽えているが、それを無視して二人は走り抜ける。
相手にされなかったゴブリンナイトが怒りの声を上げて二人を追い掛ける。だがその後ろに新たな影が近付く。
「あれはっ!?」
「灰色の……狼?」
ゴブリンナイトの後ろから狼に擬態したスライムが追い着いてきた。
牙を剥き出しにして距離を詰めて来たスライムがその口を開き、噛みついたのはゴブリンナイトの首だった。
スライムが噛みついた首筋から血が吹き出し、ゴブリンナイトが悲鳴を上げて地面を転がる。砕ける骨、千切れる肉、絶命したゴブリンナイトを食らっていたスライムが次の標的に狙いを定めた。
「あれもスライムの擬態なんだ。人型の時より速い!」
「危ない、スバルッ!」
スバルの背中に向かってスライムが飛び掛かってくる。スバルは咄嗟に身を捻り、剣をスライムの口に噛ませてギリギリで防いだ。
「くっ! ……このぉ」
「コイツゥ……スバルから離れろぉ!」
ユーリの剣がスライムの胴体を切りつけるが鈍い音がして弾かれた。やはり硬い表面を切る事が出来ない。
スライムの牙を防いでいた剣が、強烈な咬合力の圧力に負けて亀裂が走る。
一瞬の間の後、細かな破片を飛び散らせてスバルの剣が砕けた。
自由になったスライムの牙がスバルの肩に食い込み、鮮血が噴き出す。
「うぅあ……!」
「スバルゥ!!」
苦痛に顔を歪めるスバルを見て、青褪めたユーリがスライムに切りかかるがそんなユーリを脅威と見做していないのか、スライムは目の前のスバルの身体に牙を突き立て続ける。
「このっ! このぉ! くっそぉ!」
何度剣を振り下ろしても、剣は火花を散らして弾かれる。
「に……逃げ…ろ、ユー…」
「……くっ……『奇跡』を起こせぇ!」
一瞬ユーリの剣が煌めき、一切の攻撃が通用しなかったそれまでの攻防が嘘のように、ユーリの振り下ろした剣がスライムの胴体を真っ二つに両断した。
「ユー……リ」
「せぇやああぁぁ!」
スライムの鋼鉄並みに硬い身体が、まるで煙りを切っているかのように抵抗無く切り刻まれた。




