39 探索開始
隠し部屋に開いた大穴の前に、装備を整えたスバル達が集結した。
「それじゃ皆、準備はいいね」
「これだけ用心して、ただの行き止まりだったら笑えるな」
「それならそれで笑い話で済んで良かったって事だけど、多分そうはならないと思うよ」
ユーリは足下の小石を拾うと、暗闇の大穴に向かって力一杯放り投げた。
風を切って飛んでいった小石は暗闇の中へと消えていき、少しして軽い音が鳴った。
「ずいぶん遠くまで飛んでいったね」
「この音……壁にぶつからず、勢いが無くなって地面を転がった音だね。かなり奥行きがある」
「う~ん、本来ならあたいが作った異空間が勝手に広がる筈無いのになぁ」
「ほらほら、行こうよ。ルイ、灯りをお願い」
待ちきれず、コーネリアが先頭に立って大穴の先へと進んでいく。
ルイの魔法で光りの玉が先行し、薄暗い通路を照らす。
「やっぱり相当深いね、この通路。ルイ、この通路は精霊が勝手に作った可能性は無いの? 精霊ってルイの意思に反応して動いてくれるんでしょ」
「簡単な事なら何も言わなくても動いてくれるけど、隠し部屋を作る時はきっちり制御してたから範囲外には広がらないんだよ……私があの隠し部屋を長期間放置していたらこういう変化が起きたかもしれないけどね」
「じょあ、この通路が出来た理由は?」
しばらく考え込んでいたルイが何かを思いつき、恐る恐る答えた。
「一つの可能性として、すぐ近くに強い魔力を持ったダンジョンがあって、そこに飲み込まれる形で繋がっちゃった……かも?」
「小さい異空間が大きい異空間の一部になっちゃったわけ?」
「たぶん……」
「だとしたら、この先にあるのはダンジョンって事? ステラ教団の施設の下にダンジョンって……そんなバカな」
「いや、分かんないよ。ステラ教団の象徴たる塔は『天地の柱』として崇められてるし、人の祈りと魔力は密接に関係しているって聞いた事がある。数百年も存在し続ければ何かしらの変化があってもおかしくないんじゃない?」
コーネリアは施設内にダンジョンが存在する可能性に否定的だったが、ユーリは逆にダンジョンの存在に肯定的だ。
どちらにせよ、実際こうして創造者の意に反して異空間が拡張した以上、進む先には影響を与えた原因がある筈だ。
「……出口だ」
先頭を行くコーネリアの前にルイの隠し部屋とは様子の違う、城や砦のようなしっかりとした石造りの通路が広がっていた。
「結構な広さだよ、この通路」
「さて、どっちに行く? 右か、左か」
「いっそ二手に別れようか。コーネリアとルイは右、私とユーリは左」
「わかった、気を付けてね。探索時間は短めにして、あまり深入りしないように」
コーネリア達と別れたスバルとユーリは通路を進んだ。
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「ユーリ、トドメを!」
「任せて!」
スバルとユーリの前に立ち塞がったゴブリンナイトの片腕をスバルが切り落とし、続けてユーリがゴブリンナイトの首に剣を突き刺した。
「ふぅ、ゴブリンの騎士か。そこそこ強いね」
「スバル、この先に部屋があるよ」
スバル達が二手に別れて探索を進めると何度か魔物の襲撃があった。
通路に徘徊するのは魔物の中にはゴブリン系やスライム系の上位種が混じっていた。
「街中のダンジョンで上位種が出てくるなんてね。ここって魔力が濃いのかな」
「やっぱりユーリの言ってた通り、祈りが集まる場所には魔力も集まるって事なのかもね」
ユーリの見付けた部屋は不思議な石柱が立ち並んでいた。
「これは……何だろ。迂闊に触るのはマズそうだね。ユーリ、探索はこの辺で切り上げてそろそろ戻ろうか」
「そうだね……」
探索を中止して来た道を戻ろうとしたユーリの前に灰色のスライムが現れた。
「あ、またスライムが出た」
帰り道を遮るように現れた灰色のスライムを排除しようとユーリが剣先を向けるとスライムの身体が小刻みに震えだした。
「え?」
警戒して様子を見ていたユーリの目の前で、スライムの身体から一本の足が飛び出した。
「きゃっ!」
「ユーリ!」
スライムから飛び出した足に蹴られてユーリが吹き飛んだ。スライムの身体から灰色の足に続いて右腕、左腕、左足が出現した。
そして、二本の足で床を踏み締めてスライムが人型となって立ち上がった。
「このっ!」
呆然と立ち尽くす灰色の人型にスバルが切り掛かる。
だが刃はスライムの表面で止まった。
「か、硬い……」
柔軟な動きをするスライムの異常な硬度に負け、スバルは反動で両手が痺れて顔をしかめた。
スライムが反撃で回し蹴りを繰り出してくる。スバルは腕を上げて防御するが、まるで鋼鉄のような蹴りを食らって吹き飛んだ。
「痛ぁ……金属系スライムの強化体って感じか。だったら……メロディエンスの名の下に。火精よ、刃に宿れ 『熱刃』!」
魔法強化で高熱となった刃が赤く染まる。
スライムの中心目掛けて、必殺の剣を振り下ろす。
スバルの剣がスライムの肩に触れた瞬間、轟音が鳴り響いた。刃が表面で止められて食い込んでいなかった。
「う、嘘……硬すぎるでしょっ!」
剣を掴まれて地面に叩き付けられたスバルの顔にスライムの鋼鉄と化した拳が振り下ろされる。




