37 秘密部屋
「え~と、ほら、ここってあんまり娯楽無いじゃん……でね、この間美味しい蜂蜜が手に入ってさ。閃いちゃったのよ」
人気の無い倉庫の中でこっそりと酒を密造していたルイを捕まえて問い質すとポロポロと自供し始めた。
ルイの言う通り、教団施設内の食堂では飲酒出来る機会が少なく、訓練で疲れ切った候補生達は一杯の酒を飲む為に我を忘れて争うほど飢えていた。
それはルイも同じようで、人知れず悶々としていた時にアスター草原で樹海蜂の巣を採取しそこから蜂蜜を手に入れたルイは、その蜂蜜を使って酒を密造する事を思い付いたそうだ。
「ふ~ん。だったら倉庫じゃなくて宿舎の部屋で作ればいいんじゃ……」
「ダメダメ! 宿舎なんかに置いてたら酒狂いどもに飲まれちゃうじゃん! それに宿舎だと教官とかに見付かって没収されちゃう可能性が高いんだよ!」
「まぁそれもそうか。でも倉庫を勝手に使うのはダメでしょ、どっか別の場所を探した方がいいんじゃない?」
「え~、別の場所って言ってもなぁ……」
この倉庫より最適な隠し場所など、そうそう都合良く見付からない。
「土の中に埋めるとかダメなの?」
「ダメだよ。まだ製作途中だもん。保管する場所にはある程度の空間がないと精霊達が働きにくくなっちゃう……いや、待てよ。それも有りか……いっそ作っちゃう?」
何かを閃いたルイが不敵な笑みを浮かべた。
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倉庫の荷物整理を終えたスバルは作業をしていた教団員に荷車を借りた。
「ルイ~、荷車借りてきたよ」
「よっしゃ、それじゃ壺を運んじゃって」
たっぷりと中身が入った壺を合計五つ。荷台に積み込むとスバルとルイは宿舎へと運んだ。
「それでこの壺、どうすんの?」
「うひひ、隠し部屋を作るのさ」
「隠し部屋? そんなデカいものすぐ作れるの?」
「大丈夫、普通の隠し部屋とはちょっと違う妖精族の特別製の隠し部屋さ」
宿舎近くの人気の無い場所に到着したスバルとルイは荷台の酒壺を地面に下ろした。
「そんじゃいくよ。水精、地精、火精、風精、光精、闇精。数多の精霊を従えて、ここに悠久無限の起点となせ」
地面に降り立ち呪文を詠唱するルイの周りに瞬く光りが集まり魔法陣が浮かび上がる。
「精霊の友、妖精族のルイが願う 『蜃気楼部屋』」
五つの酒壺が輝く魔法陣に飲み込まれて沈んでいった。
光りがおさまり魔法陣が消えるとそこには何も残っていない。
「ふぅ、これでよし」
「ルイ、今の魔法は?」
「妖精族の固有魔法で空間の隙間を拡げて異空間を作る魔法さ。妖精族の郷も同じ作り方で異空間にあるんだよ……さて、それでは行ってみよー! 『酒宴の誘い』」
スバルの肩に着地したルイが朗らかに片手を突き上げて、合言葉を告げた。
その合言葉に呼応して異空間の入り口が開きスバルとルイの姿がその中へ溶けるように消えていった。
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「うわー……洞窟?」
異空間の先にあったのは洞窟のような岩壁の部屋だった。部屋の片隅に酒壺が置いてある。
「即席で作ったからそんなに広くないけど、酒壺を隠す程度なら十分だよね」
「はー……こんなものが作れるなら最初からこっちで作れば良かったんじゃないの?」
「いやー私も使うのは初めての魔法なんだよね。ちょっと不安だったけど、上手くいって良かった良かった」
「え゛?」
もし異空間を作る魔法が失敗していたら、どれほどの反動が起きていただろうか。
もしかしたら一帯を吹き飛ばしかねないような惨劇に巻き込まれていたかもしれないと背筋に冷や汗が流れるスバルだった。




