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35 大綿兎

 ダナートの呪われた剣を両断し、剣に付与されていた呪いの魔法の無効化に成功したスバル達はダナートの冒険者登録証を回収し、念の為剣の残骸も持ち帰る事にした。


「この剣の呪いは基本的に装備者だけにしか効かないと思うが、万が一の可能性もあるし冒険者ギルドに報告しておいた方が良いだろう。そっちの方は後で俺がやっとくよ」

「分かりました。あと、ダナートさんの遺体はどうしますか?」

「別にどうもしねぇよ。ソロの冒険者なんて死んだらそのまま土に帰るだけさ、生死不明で忘れられるよりギルドに報告が行くだけコイツはマシだよ」

「そうなんですか……それは少し寂しいですね」

「気にしてもしょうがねぇよ。むしろあのままアンデッドとなって彷徨い続けて、他の人間を手にかけるような事にならなくてダナートは感謝してると思うぜ」


 気持ちの切り替えが早いのか、顔見知りの死を目の当たりにしてもハロルはそれほど動揺した様子もなかった。


「さて、どうする? 時間を食っちまったが、他の魔物を探すか? そろそろ制限時間だとは思うが……」


 軽い破裂音とともに、空に赤い狼煙が上がった。ミオンからの終了の合図だ。


「戻りましょう。迷彩鳥だけでも、多分大丈夫だと思います」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「ではでは~、結果を発表してもらいましょ~。まずはユーリさんとサリーさんから~」

「はい、ボク達が倒した魔物は大綿兎です」


 ユーリが持って来たのはメートル越えの茶色い兎で、大きさの割に体重は軽いらしくユーリが片手で楽々と持ち上げた。


「おお、食べ応えありそう!」

「ざんね~ん、大綿兎は~その大きさとは裏腹に~可食部位は通常の兎と~大差無いんですよ~」

「何だ、そっか……」


 丸々とした見た目に食い付いたコーネリアにミオンが大綿兎の説明をすると、コーネリアのテンションが急降下した。


 大綿兎の身体で大部分を占めているのが体内の浮き袋で、生成したガスを浮き袋に溜めて跳躍の補助にしているのだ。


「浮き袋は小さい子どもの~玩具としても人気なんですよね~。はい、次は~スバルさ~ん」

「私達は捕獲したのは迷彩鳥です」

「ほほ~、迷彩鳥を捕獲ですか~。やりますね~」


 木の籠の中で捕まっている迷彩鳥を見て、ミオンが小枝を差し込んで迷彩鳥をつつくと蔦に巻かれていた迷彩鳥の姿が消えた。


「あれ、逃げた!?」

「いえいえ、羽毛が透明になっただけで~良く見ればそこにいますよ~」

「え~……あっ本当だ」


 色が変化するのは羽毛だけなので小さな嘴や目、脚は残ったままで多少不自然な状態になっている。だが、もしこれが自由に飛んでいる最中だったなら、急激な変化についていけず簡単に見失ってしまうだろう。


「迷彩鳥は~羽根が錬金素材として人気で~す。生きたままだから~上手くいけば定期的に~素材が採れるかも~ですね~。では~最後に~コーネリアさんとルイさ~ん」

「うふふ、あたい達の獲物は……これだ!」


 コーネリアが大きめの袋から取り出したのは水の膜に覆われた蜂の巣だった。


「巣をまるごとあたいの水魔法で覆って採ってきたんだよね。中には甘~い蜜がたんまり入ってるに違いないよ!」

「蜜だけじゃなくて幼虫も美味しいよ。ウチも良く食べてた。森のスイーツだね」

「ほうほう。これは樹海蜂の巣ですね~、中の蜜が~これまた人気の品で~なかなか手に入らない逸品なんですよね~。幼虫の方は保存食の材料になります~」


 冒険者ギルドにも巣の回収依頼が出される事があるがなかなか引き受ける冒険者がいない、希少素材なのだ。


「大綿兎、迷彩鳥、樹海蜂の巣……この中でペナルティを受けるのは~……ユーリさんで~す」

「あうぅ……ダメだったぁ」


 三組の中で素材に優劣をつけるとしたら、ユーリが持ってきた大綿兎が一番手軽で手に入りやすい素材と言えるだろう。


 腕輪の効果が変更されて、ユーリの身体にかなりの負荷が掛けられた。


 数日の訓練で初日のような無様な姿を晒す事は無くなったが、それでも立ち上がるのに苦労していた。


「ついでに~荷物運びとして~全員分の素材も持って帰って下さ~いね」

「うぐぐ。が、頑張ります……」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「そうですか、ダナートさんがアスター草原で亡くなっていましたか……確かにダナートさんは四日前にギルドで依頼を受けて以降、達成報告がありませんでしたね。まさか呪いで衰弱死していたとは……ご報告、ありがとうございました」


 冒険者ギルドに帰って来たスバル達は素材売却とハロル達への報酬支払いを終えた後、ハロルはギルド職員に草原で見付けた剣とダナートの死亡を報告した。


「で、コイツが問題のアイテムだ。付与されていた魔法は破壊出来たと思うが、一応気を付けてくれ」

「拝見します……う~ん、今は何の影響もありませんね。ここでは何も分からないので専門家に回して調査してみます。それでは冒険者登録証と危険物の回収について、些少ですが報酬をお渡しします」


 そう言うとギルド職員が数枚の銀貨を渡してきた。それを受け取ったハロルは半分をスバルに手渡した。


「ほれ、お前の分」

「えっと、いいんですか? 迷彩鳥の分は全部、私が貰っちゃいましたけど」

「構わねぇよ。素材の金は全部やるって言っただろ。俺は追加分で貰ったあの鉱石だけで十分だ」


 強引に渡された銀貨を受け取ったスバルは帰りに菓子でも買って行こうかと考えた。


「じゃあな、スバル。縁があったら待たな。今度は素直に協力してやるからよ」

「はい、お疲れ様でした。では、またよろしくお願いします」


 ハロルと別れ、冒険者ギルドを出たスバルは傾く夕日に目を細めて屋台が立ち並ぶ通りを歩き始めた。

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