31 アスター草原へ
あれから数日経ち、あの夜の騒ぎは街では正体不明の人物によるただの乱闘騒ぎとされ、あの場で死んだ兵士については隠蔽されていた。
「……と、言うわけで例の資料は持ち出せなかったよ」
(それは、仕方ないな。ステラ教団を少々甘く見ていたようだ。一度目の侵入で警戒レベルが上がっていたんだろう……だがあの怪人、クレイジーバニーとかいうフザケた名前だったか。アンデッドなのは間違い無いのか?)
「うん。あの回復……いや、復元か。折れた手足が一瞬で元に戻ってたし、精神状態もまともじゃなかった。中級アンデッドの特徴だよね」
(そうだな……それで精神状態がまともなら上級アンデッドといえる。魔法攻撃も多用してくるほどの厄介な存在だったろう。それにしても曲がり形にも宗教国家の重要施設を、アンデッドが守っているとは……)
「気になるよね。出来ればもう一度……」
(いや、しばらくは止めた方がいい。二度の侵入で奴らも相当に警戒している筈だ。転移魔法陣もすでに見付かって罠を仕掛けられているかもしれん。あそこは破棄しよう)
「そっか、わかった。こっちは勇者について調べる事にするよ、また何かわかったら連絡する」
(うむ、十分に気を付けろ)
交信を終えたスバルは訓練場へと急いだ。今日は外部に出向いての実地訓練だ。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
ミオンとスバル達は訓練の目的地へ出発する前にポラリスの冒険者ギルドへやってきた。
「ではでは~、目的地のアスター草原へ行く前にガイドの冒険者を雇いましょう~」
「ミオン教官、質問いいですか?」
「はい、スバルさんどうぞ~」
「アスター草原って、すぐ近くですよね。わざわざ冒険者を雇う必要は無いのでは?」
スバル達のいるポラリスから目的地のアスター草原まで、せいぜい一時間程度の距離で迷い事もない一本道だ。
スバルの言う通りアスター草原へ行く為だけならば、わざわざ対価を支払ってまで連れていく必要は無い。当然、道案内以外に目的があるからここへ来たのだ。
「いいですか~? 星騎士は任務によっては少数で現地に行き~現地で協力者を募って~任務をこなす事もあります~。現地の冒険者あるいは住民と~行動をともにする可能性があり~それらの人々と上手く連携しなくては~いけませ~ん。今回は初対面の~冒険者とちゃんと組めるかの~訓練も兼ねていま~す」
「なるほどねぇ、ウチらと他の冒険者が揉める事なく課題をクリア出来るかが重要ってわけね」
「そんな難しいもんなわけ? 別にパーティーに入れて一緒に戦えってわけじゃないんでしょ?」
ルイはあまり心配はしていない様子だが、スバルとユーリは難しい顔をしていた。
「う~ん……正直、冒険者の中には騎士とか貴族を毛嫌いする人もいるからなぁ。ボクが聞いた話だと人手どころか道具類の提供さえ断る場所もあるんだって」
「それに冒険者にも信用出来る人ばかりとは限らない。初対面の相手だと、どこまで任せていいのか……」
スバルとユーリは冒険者を雇うリスクを考えると二の足を踏むようだ。その二人とは裏腹にコーネリアとルイは気にしていないようだ。
「それこそ考えてもしょうがないっしょ。ウチらに出来るのは慎重に相手を見極めるだけ。それに何か問題が起こるなら、こういう時に対処法を学んでおけばいいじゃん」
「そうそう、問題なんて起きた時にぶっ飛ばしちゃえばいいんよ」
「いや、流石にそれは……とはいえ、今から悩んでも意味無いか」
「納得しましたか~、では行きますよ~」
ミオンに連れられて、冒険者ギルドへ入って行った。入ってすぐ、ミオンに気付いたギルド職員が笑顔で近付いてきた。
「これはこれは……ミオン様ではありませんか。今日はどういったご用でしょうか」
「今日は~依頼を出しにきたんですよ~。アスター草原まで~同行してくれる冒険者を雇いたいな~と思いまして~」
「そういう事ならば当ギルドの最高ランクの冒険者を……」
「いえいえ~依頼には条件として~ブロンズ級の冒険者に~限らせてもらいます~」
「ブロンズ級……? はぁ、わかりました。ゴールド級のミオン様に釣り合うとは思えませんが、腕利きをご用意させていただきます」
そう言い残し、ギルド職員は名簿を調べ始めた。
「えぇ~、ミオン先生ってゴールド級の冒険者だったんですか?」
「おっほっほ~、そうですよ? ゴールド級となれば~色々と冒険者ギルドも便宜を図ってくれるので~先ほどユーリさんが気にしていたような事も~回避出来るかもしれませよ~」
ギルド職員が冒険者を紹介してくれるまで長椅子に腰掛けて待っていると、先ほどのギルド職員が二人の冒険者を連れて戻ってきた。
一人は魔物素材とおぼしき鎧を身に纏い、不機嫌そうな顔でそっぽを向く背の高い男。もう一人は緊張した顔で、ミオンを見つめるローブ姿で杖を持つ魔法使いの女。
「お待たせしました。こちらが、戦士と魔法使いのオリオン兄妹です。戦士の兄ハロルと魔法使いの妹サリーで、ともにブロンズ級で冒険者歴は数ヶ月ですが実力は保証いたします」
「はい、どうもありがとう~。こちらの二人と契約しますよ~」
ギルド職員が手渡した契約書にミオンがサインして、オリオン兄妹はスバル達に同行する事となった。
「……ゴールド級の我が儘でガキのお守りかよ」
「ちょっと止めてよ、兄さん。折角のミオン様からの依頼にケチつける気?」
「アスター草原へのピクニックなんぞに駆り出されて、こっちはいい迷惑だっつーの」
かなりの不満があるらしいハロルは愚痴りながら溜め息をついた。
「な~んか問題が起こりそうな雰囲気だね」
「うん、これはこれである意味、当たりだね」
スバルとコーネリアが小声で囁いた。




