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30 怪物

 初日から足腰が立たなくなるほどシゴかれて、その日は気を失うように眠りについた。


 同室の三人が深い眠りについている真夜中、静かな暗闇のなかでスバルは目を覚ました。


「本音を言えば眠っていたいけど……」


 ポーチの中から白い仮面を取り出し、再び分身を作り出した。


 横になったスバルの身体から浮かび上がったモヤが以前作った時と同じ形となり、立ち上がった。


「前に用意した座標へ……」


 初めて塔に侵入した時に書き込んでおいた魔法陣へ仮面を転移させる。

 肉体を持つ人間を魔法で転移させるには大掛かりな準備が必要だが、仮面一枚程度ならば容易い。


 一瞬のうちに分身のスバルは暗闇の物置部屋に転移した。


「よし……『魂接続』」

(どうやらそこは例の塔か……前回は正体不明の怪人にやられたな。あれがここの守護者かもしれん、注意して進め)


 周囲を警戒しながら人気の無い通路を進み、階層を上がっていく。


 似たような作りの部屋の中から表札の付いた扉を見つけた。


「『第一資料室』……ここだ」


 扉の隙間から光りの漏れも無く、聞こえてくる物音もしない。


「……スバーニャ、鍵を送って」

(わかった)


 前回、塔の外でクレイジーバニーに倒された時に消失した道具類の中で、金属スライムだけはスバーニャが契約した魔物の為、魔法で召喚と送還が可能であった。


 扉の前で待機するスバルの下にポーチが出現し、中から金属スライムの入った小瓶を取り出した。


 鍵穴に侵入させた金属スライムを硬化させて扉を開錠すると、ゆっくりと扉を開けて部屋の様子を伺う。


 無人の資料室に入り込んだスバルは棚に陳列されたファイルを手に取り開いた。


「スバーニャ、読める?」

(ああ、内容は……教団の支部関連の報告書だ。別のファイルを見てくれ)


 ファイルを戻し、別の棚からファイルを取り出す。


(教団予算案件……違う。こっちは人員配置……この部屋では無かったか。スバル、他に怪しいものは無いか)

「う~ん……それらしいものは……あっ! ちょっと待って鍵付きの棚がある」


 スバルが金属スライムを使って棚の鍵を開け、中のファイルを開いた。


(これは……『神兵計画』? かなり前に発案されて……失敗? 計画は破棄されている。どういう計画かは、わからんが途中で頓挫して計画は中止されているな。スバル、別のファイルを)


 スバルが別のファイルを手に取り、ページをめくる。


(こっちは……魂に関する研究? 死霊術と召喚術、錬金術も使って何を……)

「スバーニャ、ここに『実験は成功した、次の段階に移行する』って書いてある」

(うむ、魂に関する実験か……ん? 勇者が召喚される少し前だな。何か関係があるのか)

「……魂か。勇者と魂が関係していると言えば、勇者召喚には三人の聖人が必要って話だったよね」

(ああ、こちらが集めた情報では勇者のユニークスキル『奇跡』を生み出すのに聖人の魂を……もしかして、この研究はそこに関係するものか? 詳しく調べる必要がありそうだ。スバル、そのファイルをこちらに転送してくれ)

「わかった。でも、転送するのに魔力を使っちゃうから今回はここまでかな」

(わか…た。…面とポー…は……で回……)

「え、スバーニャ?」


 突如、交信が途切れてスバーニャの声が届かなくなった。


「ヤバい、バレた」


 外との交信が途絶した事で、侵入を察知されたと気付いたスバルが部屋を飛び出すと、通路の先から灯りを手にした兵士が集まってきた。


「居たぞ! こっちだ!」

「逃がすな!」


 前後を挟まれたスバルは咄嗟に窓を破り、外へと飛び出した。


「メロディエンスの名の下に。風精よ、我に翼を与えよ 『空中機動』」


 落下していた身体が魔法によって浮き上がり、街の上空を舞った。


 後ろを振り向くと兵士が数人、同じように魔法で飛翔して追い掛けてきた。


「くっそ~、ファイルを転送し損ねた。もう分身を解除しちゃおうかな」


 だが、宿舎にいる本体から出来るだけ遠くに逃げてから見付からないように分身を解除しないと本体が怪しまれる可能性がある。


 追っ手の兵士達には、賊は街の遠くに隠れ潜んでいると思わせたいので、その距離が遠ければ遠いほど都合がいい。


 眼下の街並みを見て、建物が密集している辺りに身を隠そうとしたスバルに襲い掛かる影があった。


「ひゃっはー!」

「っかはぁ!」


 何処から現れたのか、クレイジーバニーが飛翔しているスバルの背中に膝蹴りを叩き込み、その勢いに押されてスバルとクレイジーバニーは地面へと落下していった。


 魔法の制御を失い、錐揉み状態で落下して地面に叩きつけられた二人が建物を破壊しながらようやく止まった。


「うひひ、あひゃひゃひゃ、おもれー」

「ぐっ……」


 分身の身体が崩れ始めたスバルと、身体のあちこちが折れ曲がったクレイジーバニーが対峙する。


「おめーよぉ、どこまで……み、みたぁ?」

「…………」

「あんまり、ちょろ、ちょろちょろ、してっと……あはは、ころ、ころ……ぶっころす!!」


 クレイジーバニーの折れていた腕が音を立てて元に戻った。大鎌を構えて突進してくる。


「この回復力……コイツ、アンデッドか!」


 ケタケタと笑いながら迫るクレイジーバニーを見て、その正体に気付いたスバルは金属スライムを剣に変化させて大鎌の攻撃を受け流した。


「うぎぃあぁ! きるきるぎるぎるぅ!」

「き、気持ち悪い奴……」


 大鎌を振り回して絶叫するクレイジーバニーに気後れしたスバルは、何とか転げ回りながらも建物の影に隠れた。


「ど、どこにかくれたぁ? あ~ん!?」


 目標を見失ったクレイジーバニーが周囲の建物を破壊し始めた。

 すると、スバルを追い掛けていた兵士達が暴れるクレイジーバニーを制止しようと上空から降りてきた。


「おい、止めろ! これ以上は……」

「じゃまぁ!」


 クレイジーバニーの大鎌が兵士の首を刈り取った。血飛沫をあげて倒れる兵士の身体を返り血で染まったクレイジーバニーが足蹴にする。


「じゃまだぁ! てきぃ、どこぉ…………や~めた」


 急に大人しくなったクレイジーバニーが全てに興味を失くしたかのように暗闇の街中へと消えていった。


 残された兵士達はその惨状に、ただ呆然と立ち尽くした。


「ステラ教団、とんでもない怪物を飼ってる……」


 物陰からクレイジーバニーが消えた暗闇を見つめ、スバルは分身を解除した。

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