29 うふふ
広い訓練場の一画に移動しミオンは魔法を発動させた。
「サクラギ・ミオンの名の下に。木精よ、数多の柱となれ 『樹木柱』」
スバル達の前に高さ、太さの異なる柱が現れた。
「今日は~初日なので~ちょっとした遊びをしましょ~」
ミオンはスバル、コーネリア、ユーリに虫取り網を手渡し。
「この柱の上で鬼ごっこをしましょ~。鬼はルイさんですよ」
「ちょっと! あたいを虫扱いするわけ?」
「うふふ。三人は柱から落ちたら負け~、三人とも落ちたらルイさんにはご褒美上げちゃいま~す」
「ご褒美!? やるやる。やるります!」
「では、スタ~ト」
ミオンの合図とともにルイが飛び上がり、それを追いかけて三人が柱の上に着地した。
「ルイには悪いけど、ウチは子どもの頃からこういうのはよくやってたから楽勝なんよ!」
三人の周りを飛び回るルイを追ってコーネリアが別の柱を踏むと、連動して何本かの柱の高さが上下した。
「きゃっ!」
「柱が動いた!?」
「言い忘れてました~。誰かが柱を踏むと別の柱の高さが変わるから、気をつけてね~」
柱の上で慌てる三人を見て、わざとらしく説明を付け足してニヤニヤするミオン。
「やり、辛いなぁ……よっと!」
「うわっ!」
「あぁ! ご、ごめん」
スバルが着地しようとした柱が寸前で低くなり、危うく落下しかけた。
「スバル、コーネリア、同時に移動すると危ない! 一人ずつ移動しよう」
「わかった!」
「ユーリ! そっちにいったよ」
「え? あ、このっ!」
足場の柱ばかりに気を取られていると空を飛ぶルイを見逃して遅れを取ってしまう。
「あっひゃっひゃ! 腰が引けてるねぇ、お嬢ちゃん達!」
高さが変わる柱に苦戦するスバル達を嬉々として煽るルイが三人の間を挑発するように飛び回る。
「この……そこだぁ!」
跳び上がったコーネリアが空中でルイを網で捕らえた。そのまま柱に着地しようとしたが、足を乗せる寸前で柱が高くなり、腹を強かに打ち付けた。
「ぐぇ…………」
「え? 何で……私達、動いてないよ!?」
「またまた言い忘れてました~、柱はたま~に私が動かしま~す」
「そんなんあり!?」
「あうう、ミオン先生のいじわるぅ」
柱の上で伸びたコーネリアの網からルイが抜け出してきた。
「ふぅ、危ない危ない。今のうち~」
時間が経過するに比例して柱の動きが活発化していく。
「ほ~らほ~ら、のんびりし過ぎですよ~」
最早移動時の連動など関係無く、ミオンが思うままに柱を動かし、三人を翻弄していく。
◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️
「あぁ……何か、上下に振られ過ぎて酔ったかも」
「落ちないようにバランス取るので精一杯だよ……コーネリアが一番ぶつかってたけど、大丈夫?」
「うぅ……身体のあちこちが痛い」
地面に座り込んで休んでいる三人の傍でニコニコ顔のミオンは表情とは裏腹に全員に苦言を呈した。
「いけませんね~。柱から落ちこそしなかったですけど、ルイさんを捕らえる事には失敗しましたし~、ルイさんはあの状況で三人を落とせなかったのも失敗でしたね~」
「えぇ! あたいもお説教なの?」
「勿論ですよ~。空を飛べるルイさんが断然有利な状況で、まともに動けなかった彼女らを一人も落とせないなんて、ダメダメですよ~。と、言うわけで……全員にペナルティ~、あげちゃいま~す」
ミオンが自分の腕輪を操作するとスバル達が装着していた腕輪が反応した。
「あ……ぐぅ」
「何これ、身体が重い」
「飛ぶの、しんどい~」
「腕輪の効果が……増した?」
疲労していたスバル達の身体に更なる負荷がかかった。
「私の着けている腕輪とアナタ達が着けている腕輪は繋がっていて~、こちらで操作して減退効果を変化させました~。次の課題で良い成績が出せるまで、そのままで生活してくださ~い」
身体に力が入らず座り込んだり、四つん這いになって起き上がろうとしても手足が震えるばかりで一向に立てないスバル達を、ミオンは満足そうに見下ろし。
「ほらほら~、もっと頑張って? 筋力だけでなく魔力をもっと練り込んで~。プルプルしちゃって可愛いですね~、赤ちゃんみたいですね~」
手拍子をして小馬鹿にしてくるミオンの言葉に苛つきながらも、歯を食い縛り立ち上がるスバル達にミオンが次の課題を言い渡す。
「では次は十メートル走をしましょう~。今の状態だとちょっとキツいかも~? でもでも頑張って一番になった子は腕輪の設定を戻してあげますよ~」
鉛のように重たい身体に鞭を打ち、スバル達が整列する。わずか十メートルではあるがミオンの言う通り今のスバル達には相当にキツい十メートルだ。
「サクラギ・ミオンの名の下に。地精よ、砂粒となれ 『流砂』」
ミオンの魔法でこれから走る地面が砂場になり、さらに進行方向と逆に砂が動いている。
「あ、あのミオン先生。これは……」
「砂の抵抗を振り払って前に進むんですよ~。頑張れユーリさ~ん」
全員の顔がひきつる。砂の動きは緩やかだが走破するにはかなりのスピードで前に出なくてはならない。
「じゃ行きますよ~、スタ~ト」
容赦なくミオンがスタートを宣告し、全員が走り始めた。
一メートルも進まないうちにユーリが倒れスタート位置まで戻された。次いで足が縺れたスバルが倒れ、半分進んだ所でスタミナが切れたルイが落下して戻された。
最後、顔を真っ赤にして走るコーネリアだったが力尽き倒れた。
「あらあら~、たった十メートルなのに情けないですね~。ほら早く立ち上がって? 誰かが一番にならないと永遠に終わらないですよ~」
「う、嘘……」
「こ、これ誰かがゴールしないと終わらないって……事?」
倒れて息が上がるスバル達に告げられる理不尽な言葉に悲鳴が上がる。
「ほらほら~、そんな泣きそうな顔をしてもダメですよ~。頑張って~、立ち上がって~、走って~、コケて~、また走って~」
ヨロヨロと立ち上がるスバル達だったが、立ち上がった所でこの流砂の道を走破出来るとは思えず、立ち尽くしていた。
「体力回復を待ってもすぐには無理だし、こうなったら……皆、聞いて」
スバル達が円になり、スバルが話をする。その内容に皆、苦い顔をするが最後には諦めて受け入れた。
「それじゃいくよ」
スタート位置でユーリが屈んでその肩にコーネリアが片足を乗せた。
その横でスバルが全力で走り、数メートル進む。
「ユーリ! 今だよ!」
「えぇい!」
ユーリが残りの力を振り絞り、コーネリアを前に投げ飛ばした。そのタイミングに合わせてコーネリアも跳び上がる。
上空へと跳び上がったコーネリアが前を走るスバルの背中に着地してもう一度跳んだ。
コーネリアの足場になったスバルは転び、スタート位置まで流されるが残ったコーネリアは半分以上進んだ。そこから走り続け、残り僅かな位置まで来た。
「後は、頼んだよ……ルイ!」
「任せとけぇい!」
コーネリアの肩から飛び出したルイが残り僅かな距離を埋めた。
「よっしゃあ!」
ゴールしたルイを見届けて、コーネリアは派手に転び流されて行った。
「あらら~、まさか初日でクリアされるとは~。なかなかやりますね~」
「こういう方法でもアリですよね、ミオン教官」
「ええ、勿論。課題クリアの為に敢えて捨て石となる選択が出来る……今回の候補生は見所がありますね~………………もっと絞ってやるか」
ミオンが最後に呟いた言葉はスバルの耳には届いていなかった。




