28 教官サクラギ・ミオン
試験終了の宣言を聞いた後、スバル達は入団手続きを済ませて施設敷地内にある宿舎の一室を貸与された。
それなりに大きな宿舎だが利用している者も多い為、部屋は四人部屋で二段ベッドが二つ。個人スペースはそのベッドの上だけのようだ。
一応、枕元に小さな棚があり小物程度ならば置けそうだが、普通ならば持ち物がかなり制限されそうだ。
「まぁ私は魔法のポーチがあるお陰で多少マシだが」
スバルは二段ベッドの下のベッドを選び、コーネリアは上のベッドを選んだ。反対側の二段ベッドにはルイが座っている。小さいルイには人族用のベッドは大き過ぎるが、ちゃんと一人分のベッドとして与えられた。
残る一人分のベッドはまだ空のままだ。到着が遅れているようで、まだ誰もいない。
「星騎士の資格を得るまで二年間の訓練かぁ。ウチは身体を動かすのは得意だけど座学がなぁ……」
「コーネリアは座学が苦手? 私も得意ってわけでは無いけど、ちゃんと学んだ事が無いから逆に楽しみだよ」
「故郷でウチに座学を教えてくれてたのがメチャクチャ厳しい婆様で、いつも泣かされてたんよ。お陰ですっかり苦手になっちゃった。ルイは勉強とか……いや、やるわけないか」
「何言っちゃってんの? 面白いイタズラするのにも勉強は必要なんだよ。身体には無害だけど鼻水が止まらなくなる毒ガスとか、食べれば声が変わっちゃう作物とか、娯楽に飢えた妖精族の中には専門的に研究する奴だっているんだから」
「うわぁ……妖精族の牢獄は満員なのかもね」
三人が話を弾ませていると部屋の扉をノックして最後の一人が入ってきた。
「はぁ……はぁ……皆、久しぶり……だね」
「ユーリ、試験以来だね……何で息切れてんの? 走り込みでもしてた?」
最後の部屋の同居人は試験でも同じグループであったユーリだった。部屋に入ってきたユーリは何故か疲れきった様子で空いているベッドに腰掛けた。
「ちょっとね……特訓って言うか……ふぅ」
「ん? ユーリ、その腕輪」
ユーリの左腕には、以前は着けていなかった腕輪があり何かしらの魔法が付与されていた。
「これは『減退の腕輪』といって装着者の体力魔力を三割くらい封じる腕輪なんだよ。星騎士候補生は着ける必要があるんだけど、私はちょっと早めに着けさせてもらったの」
候補生の身体強化目的で作られた物らしく、候補生全員に装着の義務があるらしい。
スバル達も本格的な訓練が始まれば与えられるアイテムなのだろう。ユーリは一足早く手に入れたようだ。
やはり試験官での不甲斐なさを気にしての事だろう。
「前は軽くこなせてた訓練でも、今はこんなんだよ。ルイ、ボクは下のベッドを使っていい?」
「いいよいいよ。そんな様子じゃ梯子から落っこちるからね」
「ありがとう……ふぅ。スバル、コーネリア、ルイ、これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
「頑張ろうな、ユーリ」
「よっろ~」
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明くる日、訓練場に集合したスバル達候補生の前に訓練担当の星騎士が並んだ。
各部屋ごとに四人一組のチームとなり、これからの訓練をこなしていくようだ。
「これから君達は二年間の訓練を同室の候補生と乗り越えていく。星騎士への道のりは厳しく、心が挫ける時もあるだろう。だが同じチームで支え合い、励まし合って困難に立ち向かって欲しい……今、君達の目の前にいるのがこれから君達の指導をしていく教官だ。訓練が進めば教官をリーダーとしてチームで実戦に出る事もある。お互いに理解しあい、チームの絆を育んでくれ」
スバルのチームを担当する教官は桃色の髪に優しげな眼差しの温和な雰囲気を持った女性で微笑みながらスバル達を見ている。
「……?」
ふと教官の桃色の髪に何枚か葉が絡まっているのを見つけたスバルが教官をよく見てみると服の襟から伸びた管を時々、こっそりと口に咥えていた。
(何か……飲んでる?)
教官代表者の演説が続くなか桃色髪の教官は管から何かを吸い上げて飲み込み、ニンマリと微笑んでいる。若干、頬が赤らんでいた。
「ねぇスバル、ウチらの教官さぁ……」
「うん、飲んでるよね」
「くくく、いい性格してるよね。あたいも真似しちゃおうかな~」
「ああ、ミオン先生……」
ひそひそ話すスバル達のなかでユーリだけは面識があるらしく桃色髪の教官をミオン先生と呼んでいた。
やがて演説が終了し、各チームで別れて訓練を開始された。
「はいは~い、私がアナタ達の担当教官のサクラギ・ミオンで~す。樹人族の魔法使いで三十歳の独身で~趣味は~栄養補給と札遊びで~」
「あ、あのミオン先生、その辺で……」
「え、そ~お? じゃあ次はみんなにプレゼント~」
ユーリが着けている物と同じ『減退の腕輪』が配られた。
魔法の腕輪はサイズ調整機能もあり、ルイの大きさに合わせて小型化した。
「その腕輪を着けている間は全力を出せなくなっていると思うけど~限られた力を効率良く使う為の訓練と考えて~頑張りましょ~」
「あの、サクラギ教官」
「ミオンちゃんで~いいよ~、スバルさん」
「……え~と、ではミオン教官。さっきからちょくちょく飲んでるソレ、何ですか?」
襟から伸びる管を指差してスバルが聞いてみた。
「………………ただの栄養剤、よ?」
そっぽを向いてズズズゥと吸い上げると、証拠隠滅とばかりにそそくさと片付けてしまった。
「それ、お酒……」
「さあっ! 訓練開始よ~、頑張って行きましょ~」




