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27 足掻く

 妖精族の女王からステラ教国で働く事を言い渡されたルイは、五分ほどテーブルの上で女王への暴言を吐きながら暴れた。


 用が済んだアクアマリンは早々に立ち去り、荒れていたルイもある程度は気持ちが落ち着いたのか、運ばれてきた料理を大人しく食べた。


「むぐむぐ……んぐ。ちくしょー、あのババアに嵌められた」

「ところでさぁ、ちょっと気になってたんだけど……」

「ん? 何」


 両手に肉厚サンドを持ち、強靭な顎で頬張りながらコーネリアがルイに話し掛けた。


「妖精族の郷で禁錮刑になってたらしいけど、いったい何をやらかしたの? 妖精族が外の世界で十年働いてこいってのは、結構重い罰のように思えるんだけど」

「ん~……あのバ、妖精の女王は植物を操る特別な杖を持っててね、それをちょっと拝借して妖精族の郷だけに生えている特別な果樹に使ったんよ。年に一個だけしか果実を付けないその樹を操って何個も果実を収穫してたら、無理が祟って樹が枯れちゃってぇ……」

「それで投獄された、と」


 女王の持ち物を勝手に持ち出して妖精族にとって特別な樹まで枯らした罪で牢獄に放り込まれたのだろうが、今のルイを見る限りあまり反省しているようには見えない。他の妖精族達も閉じ込めるだけでは、あまり効果が無いと判断して外の世界に出したのだろう。


「あ~あ、十年かぁ……厨房の味見係とか訓練所での声援係とかで過ごそっかな」

「いや、そんな限定的な仕事は無いっしょ。ルイは魔法が得意なんだから、それを活かして仕事すればいいじゃん」

「う~ん、自分であれこれ決めてやる分には頑張れるんだけどぉ……罰として他人に強要されると、途端にやる気が無くなるんだよね。はぁ」


 皿の上でハニーケーキの最後の一切れを食べ終えてルイが溜め息をついた。


 やる気は無いようだが課せられた労働自体は逃げずにこなすつもりらしい。


「ほら、元気だして。真面目に頑張れば女王陛下も恩赦して期間を短くしてくれるかもしれないじゃない」

「ん~……まぁ手土産の一つもあれば女王も機嫌を直すかなぁ。人族の世界は美味しい物がいっぱいだから賄賂には困んないし」


 悪い顔でニヤリと笑うルイであった。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 食事を終えた三人は試験結果の確認の為、会場へとやって来た。三人が試験会場に到着するとすでに多くの受験生が集まっていて、掲示板の前でざわついる。


「え~と、どれどれ……」


 コーネリアが爪先立ちになって掲示板を見詰めている。


「……あっ! あるよ、スバル! ウチらの名前がある」

「本当!?」

「うん! 間違いよぉ、ウチら受かったんよぉ!」


 スバルとコーネリアが手を取り合って喜び、ルイが光りをばら蒔いて祝福していると受験生の集団の中で騒ぎが起きた。


 見ると貴族の子弟と思われる青年が試験官に噛みついていた。


「何で俺が不合格なんだ、納得いかん! 俺を誰だと思っているんだ! 教団に多額の寄付しているオーバーバンク家の者だぞ、わかっているのか?」

「この試験が自身の生まれや教団との関係で有利不利になる事は無い。純粋に試験内容だけで判断されている。不合格というなら基準に満たなかったという事だ。修行し直し、再び挑戦するんだな」

「ふざけるな! 知ってるんだぞ、一部の受験生が試験を受け直しているって事をな。不公平じゃないか、この俺が基準以下だと言うなら試験の受け直しを要求する!」


 どこから漏れたのかは知らないがスバル達が第三試験をやり直した事がバレたらしい。事情をよく知らない他の受験生から不公平だと文句が出た。


「それについては一部の受験生の試験に不備が生じた為、再試験が行われただけだ。それに再試験の内容は君達が受けたものより難易度が高くなった。不公平だと言うなら、その再試験を受けた受験生の方が文句を言いたいだろうよ」


 試験官が説明しても納得出来ないのか、抗議を続ける貴族の男は近くにいた虎獣人を指差した。


「だいたい、魔法もろくに使えないような獣が受かって、何で優秀な俺が駄目なんだ!? 納得いくように説明しろ!」

「何だ、テメェ……人を獣呼ばわりしやがって」

「五月蝿い! 獣が人族の真似をして言葉なんか喋るな!」


 試験官に噛みついていた貴族の男が今度は他の受験生に喧嘩を売り始めた。一部の国では獣人を排斥し同族だけで国家を運営している所もある。またその逆のパターンも存在する。


 人族と獣人族では持っている能力が違う為、片寄った価値観に染まってしまうと他者を正常に判断出来ないばかりか、その命さえ価値が無いと考えるようになってしまう。


「止めろ! これ以上騒ぐようなら貴様を捕らえる事になるぞ」

「何だと! お前みたいな下っ端が偉そうにぃ……オーバーバンク家の名誉にかけて、この不当な判断に断固抗議する! 大星師ベガを呼べ、試験のやり直しを要求する!」

「貴様……」


 興奮して頭に血が上り、ついには教団トップの名前さえ呼び捨てにして喚く男に我慢の限界を感じた試験官は抜剣しようと剣に手が伸びた。


 その時。


「騒がしいですね」


 数人の共をつれて豪華なローブを身に纏った恰幅の良い初老の男が現れた。


「だ、大星師様。お騒がせして申し訳ございません」


 その姿を見た試験官は慌てて下がり、大星師ベガの前に道を開けた。


「何事かな? どうやら試験結果に不満があるような声が聞こえていましたが」

「そ、そうだ……いや、そうです。お、私はオーバーバンク家三男、テーツ・オーバーバンクと言います。大星師様にお会い出来て光栄です。大星師様、お願いです! どうか、お慈悲を……私にもう一度チャンスをお与え下さい!」


 それまでの威勢は消え、騒いでいた男はすがりつくようにベガの前に膝をついた。


「ふむ……オーバーバンク家の方には色々と助けてもらっていましたね。わかりました、星騎士候補生とはいきませんが私直属の付き人として採用するというのはどうですか?」

「え、わ、私を大星師のお傍に置いてくださるのですか! ありがとうございます!」


 ベガの言葉に周囲の者が何かを言いかけたがベガはそれを無言で制し、貴族の男を連れて立ち去っていった。


 男は立ち去る寸前、見下すような目で他の受験生、特に試験に落ちた者達を見て鼻で笑った。


 周囲がざわつくなか試験官は声を張り上げて受験生達を落ち着かせた。


「合格した者はこの場に残り手続きをしてくれ! 試験に落ちた者のなかで教団で働きたい者も同様に残れ! ……これで星騎士候補生試験は終了とする!」


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