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26 働け

「っわ!」

「ぅわぁ!」


 ベッドで眠っていたスバルが跳ね起きて、スバルの上に乗っていたルイが転げ落ちた。


「あ、起きたん? 怖い夢でも見た?」

「……あ、コーネリア。うん、怖い夢、だね」


 白塗り化粧の道化、分身が消滅する寸前に聞いた名前はクレイジーバニー。明らかに通り名だろうが、あの溢れ出る内面の狂気さを表している名前だろう。


 分身の受けたダメージはスバルに影響しない筈だが大鎌の刃が食い込んだ時の感触を思い出し、思わず肩をさすった。


「気分が落ち込む時は旨い物を食うに限る! ほれ、肉串食べな」

「ふふ、ありがとコーネリア。うん、美味しい」


 コーネリアが買ってきた肉串を齧るスバルにルイが話し掛けた。


「怖い夢ってどんな夢だった?」

「え? あ~……起きたら忘れちゃった」

「あはは、あるある。良い夢でも起きたらすぐ忘れちゃう事あるよね」

「ウチは美味しいものを食べ損ねた夢はショックで覚えてるけどな~」


 気分が落ち込んでいたスバルも他愛ないお喋りが弾むうちに気持ちもほぐれ、二人に笑顔を見せた。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「……情報収集は少し控えた方がいいかな」

(そうだな。まさかステラ教団の重要施設にあんな怪人がいるとは思わなかった。直接対峙して、スバルは勝ち目があると思ったか?)

「……駄目だね。少なくとも今のままでは何度挑んでも一分と持たない」


 夜が深まり、皆が寝静まった頃。部屋を抜け出し、スバーニャと交信して今後の行動指針について話し合った。


 分身の身体が消滅し、塔の上層から落下したであろう仮面については問題無い。万が一に備えて脆い作りにしてあり、今頃は落下した衝撃で壊れている筈だ。仮面の予備もまだある。再度あの場所へ侵入するのは可能だろうが、あのクレイジーバニーの存在をどうにかしない限り、先には進めそうにない。


(今、得ている情報は召喚された勇者の性別は女、年若く、髪の色は黒い。背丈はスバルと同じくらい、か)

「召喚されてまだ一年も経っていないから、まだ大して戦闘能力は身に付いてないかな……あ、でもユニークスキル『奇跡』を使えば戦況なんて簡単にひっくり返せるんだっけ」

(確かに『奇跡』の力を使えば、如何なる不可思議な事でも起こりうる。だが先代の勇者でも『奇跡』を連発する事は出来なかったから、戦闘能力は地道に鍛え上げていたぞ。人族の中でも最強と言えるほどの実力を持ち、パーティーメンバーも同程度の実力だった。そこまでしてもパーティーは全滅となったのだがな)

「そっか……当代の勇者が先代と同程度の実力を身に付けるまで、まだ猶予はあるって事だね」

(うむ……だが、スバルよ。以前にも言ったが今回の勇者召喚には疑問点がある。勇者の暗殺に関しても先走る事なく、状況を十分に把握する事を優先するようにな)

「わかってるよ」


 スバーニャとの交信を終えて部屋に戻るとベッドに潜り込んだ。


「アイツ……」


 スバルは眠りにつく前に、塔で襲ってきたクレイジーバニーの事を思い出した。


 塔の上層で侵入者を狩る怪人、やはりあそこには何か重要な秘密があるのかもしれない。

 その秘密と勇者が召喚された事が繋がっているのかもしれない。


 様々な憶測が頭によぎる。一刻も早く解明したい所だが分身は勿論、スバルが全力で挑んでも今は無駄死にするだけ。


 強くなるしかない。


 勇者に近付く為の方便として星騎士を目指してきたが、純粋に強くなる為にも星騎士を目指す事になりそうだ。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「さぁて、今日は何しよっか!」

「残念だけどルイ、今日は試験の合格発表があるから」


 スバルが一通の手紙を取り出した。コーネリアの手元にも同じ手紙がある。

 中身は同じ文章で『星騎士試験の合格発表を行う。試験会場に集合せよ』と書かれていて、宿屋に届けられていたのだ。


「二人ならよゆ~で合格じゃねぇの?」

「さて、どうかな。三つの試験内容次第だから、大丈夫だとは思うけど」

「スバルは心配性だねぇ、きっと受かってるって。朝飯食ったら、確認に行こうよ。すいませ~ん、魔肉トリプルサンドを4つとジャガー芋の揚げ物山盛りでお願いしま~す」

「あっ! あたいはハニーケーキ二つ!」

「私はロングホットサンド、一つ」


 朝から大量の注文を受けて厨房がフル回転で調理をする。

 テーブルで料理を待つコーネリアが鼻をヒクつかせて笑みをこぼしていると食堂に来客が現れた。


「おっ。居やがったな、お前ら」

「あ、アクアマリン先輩。おはよーっす」

「おはようございます、アクアマリンさん」

「アンタも朝飯食いに来たん?」

「ちげーよ、おチビに用があってな」

「あたいに?」


 食堂にやって来たアクアマリンがポケットから手紙を取り出した。


「あれ? これって、あたいが持ってきた親書じゃん」

「お前、これの中身は知ってたのか?」

「中身? 妖精の郷とステラ教国が仲良くしましょーって内容でしょ?」 

「要約するとそんな感じだが、妖精族の女王は親書を届けた使者をステラ教国で働かせて欲しいって書いてあったぞ」

「ぬぁにぃー!」


 アクアマリンの手から親書を奪い取ると広げて読み始めた。読み進めるうちにルイの身体が怒りに震え始めた。


「……んんーっ! 何であたいが働かなきゃならんのよー!」


 身体全体で不服の意思を表すようにジタバタと暴れる。


「頭きた! すいちゃん、ババアのところへ繋いで!」


 ルイの目の前に薄い水の膜が出来上がると表面に波紋が生まれ、その波紋が消えるとそこには一人の妖精が映っていた。

 ルイよりも少し年嵩で、頭の上にティアラを乗せ金の刺繍が入った豪勢なローブを身に纏った姿から、彼女が妖精族の女王のようだ。


「こらぁ、ババア! あの手紙は何! 何であたいがステラ教国で働く事になんのさ!」

『いきなり五月蝿い。その様子だと親書の内容が伝わったようね。ならばその通りになさい、そちらで十年くらい働いて妖精族とステラ教国の役に立つのです』

「いやだぁ! そんなの別の奴がやればいいじゃん! あたいの仕事は手紙を届けるだけでしょ!」

『はぁ……禁錮刑に科されていたお前が自由になる条件が、手紙の配達程度のわけがないでしょ』

「んんーっ! やだやだやだやだやだやだぁ!」

『まったく、いつまでも子どものように……これは決定事項です、いいですね? すいちゃん、しばらくはその子からの連絡は繋げなくていいわ』


 女王が言い終えると水の膜は消滅した。


「………………」

「あらら、大変だねルイ。でもほら、私達がいるからさ、一緒に頑張ろ?」

「そうそう、十年なんてあっという間……いや、結構長いか……とにかくウチもスバルもいるから」

「つーか、禁錮刑食らってるなんてどんな悪さしたんだよ、おチビ」

「んんーっ!」


 衝動のままに手紙を噛み千切るルイであった。

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