表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/87

25 ポラリスの夜

 ポラリスに滞在している間の常宿で、スバルは一人ベッドの上で横になっていた。

 同室のコーネリアとルイは食べ歩きに出掛けて不在だ。


「……まずは仮面を」


 スバルはポーチから一枚の仮面を取り出し被った。顔全体を覆う白い仮面にはある特殊な魔法が付与されていた。


 仮面を着け、ベッドに横たわるスバルが瞑想し意識を集中させるとスバルの身体から黒いモヤが立ち込め、仮面を持ち上げながら徐々に人型となり、やがてスバルと同一の姿となった。


「全く同じだと不都合か……髪を長くして、服装は黒一色で……」


 ベッドで目を瞑り横になるスバルとその傍で仮面を着けた長髪のスバルが出来上がった。作り出した分身はいつでも破棄出来るように仮面以外に身に付けていくのは安物の短剣と小瓶を入れた普通のポーチだけ。


「よし、行くか。メロディエンスの名の下に。風精よ、我に翼を与えよ 『空中機動(エアフォース)』」


 夜空に月が登り、暗闇に覆われるポラリスの街並みのなか窓から飛び出したスバルは誰にも気付かれないように静かに飛翔しながら、街の中心に聳え立つ塔を目指した。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 ステラ教国の都市ポラリス。その中心にあるステラ教の重要施設の塔、世界最大級の高さを誇るその姿に人々は畏敬の念を込めて『天地の柱』と呼ぶ者もいる。


 塔の外壁に到着したスバルは、灯りの消えた窓から内部へと侵入した。


「……『魂接続』。スバーニャ、見えてる?」

(ああ、見えてるぞ、スバル。塔の中に入れたようだな。周りに誰もいないな?)

「うん、誰もいないよ。どこから探そうか」

(塔の下層は一般人も出入りする部分だ、そこに重要な資料は置かないだろう……確か、塔の頂上に召喚魔法陣があるという話だったな。立ち入り制限の部屋をあちこちに作るより一ヶ所に纏めた方が効率的だからな、おそらく上層の何処かに目的の資料室がある筈だ)

「上層か……もう少し上だね」


 忍び込んだ部屋の扉を開けて、そっと通路に出ると階段を探し始めた。


 夜間という事もあってまるで人の気配が無い。幾つかの部屋は無人のようで物音一つしない。


 程なくして上下の階層に繋がる階段を見つけ、足音に注意しながら登っていく。


 階段を登っている途中で上の階層から降りてくる足音が響いた。


「ふぅ……メロディエンスの名の下に。地精よ、枷より解き放て 『浮遊』」


 浮かび上がったスバルは建物の隅の暗闇に身を隠し、息を殺して降りてくる人間をやり過ごした。


 さらに上層へ登ると階段は行き止まりになっていた。


「もう、最上階? ……いや、もう少しあるか」


 窓から身を乗り出して上を見るとまだ建物が続いている。


 行き止まりとなっている階段傍の扉をゆっくりと開けると内部は下の階層と似たような作りになっていた。


 その中の一室の扉に近付く。扉の隙間からは光りの漏れが無い。耳を澄ませても物音が無いのを確認して扉に手を掛ける。


「開いてない、と……」

(スバル、ポーチの中に入れた例の小瓶を出せ)


 スバーニャの指示に従ってスバルがポーチの中から銀の粘液が入った小瓶を取り出した。


 これは今のような事態を想定して用意した金属スライムを入れた小瓶だ。


 小瓶を開けて中身の金属スライムを手のひらに乗せて鍵穴に近付ける。すると鍵穴に侵入した金属スライムが硬化して、スバルが捻ると鍵が開いた。


「はい、いい子いい子」


 金属スライムを小瓶に戻し、部屋の中に侵入する。そこは物が詰め込まれた棚が立ち並ぶ部屋だった。


「う~ん、物置き部屋か」

(ちょうどいい、再度調査する時に転移魔法で侵入出来るよう座標をその部屋に書き込んでおけ)


 一度の侵入で勇者関連の情報を見付けられるとは限らない。教団を守護する騎士に発見されて侵入させた分身を破壊される可能性も高い。

 そうなれば周辺の警戒も増して、再度侵入する事が難しい状況になるだろう。


 そうなった時の事を考えて、早めに転移魔法用の座標を塔の何処かに書き込むのも今回の目的の一つだ。


 部屋の奥、埃に塗れた箱を退けて小さな魔法陣を書き込んだ。汚れ具合から察するにこの部屋の奥に人が来る頻度は低いと考え、そこを選んだ。


「これで、よし。他の部屋も調べよう」

(出来れば騒動は避けたい。無理はするなよ)


 部屋を出たスバルは別の部屋を開けて中を調べたがどの部屋も大した物は無かった。


「この階層じゃないね、上に行こう」


 上への階段を見付けて登っていくと夜間でも働いている文官の姿があった。先ほどと同じ方法でやり過ごそうかと思ったが、ここで一つ閃いた。


「催眠であの文官から情報を引き出せないかな?」

(……念の為、姿を見られないようにしろ。それと使うのは『会話(トーク)』ではなく『読み取り(リーディング)』にしておけ)

「なるべく証拠は残さないように?」

(そうだ。『会話』だと深層意識に痕跡が残る可能性がある)


 『読み取り』の場合、得られる情報が断片的であったり、無関係な情報まで拾い上げてしまい手間が掛かってしまう。


 それでも万が一を考えて、文官に痕跡を残さないようにする為、『読み取り』を選択した。


「そんじゃいくよ。メロディエンスの名の下に。風精よ、深き眠りに誘え 『眠り風(スリーピングブリーズ)』」


 そよ風に吹かれた文官が虚ろな目で立ち止まる。文官の背後に立ったスバルが文官の頭に両手を添えた。


「メロディエンスの名の下に。命精よ、魂の深き底へと導け 『読み取り(リーディング)』……よし、準備完了」

(勇者関連の質問をしていけ。年齢、性別、名前、外見の特徴。何でもいい)

「わかった……最近召喚された勇者に関して知ってる事は?」


 スバルの質問に文官の意識が反応する。一瞬の映像が幾つも浮かび上がっていく。


 その中で勇者が召喚された瞬間の記憶があった。

 離れた場所から召喚魔法陣を見つめる文官達の前で、輝く魔法陣から一人の少女が現れる。文官の位置からは顔がわからない。細身で年若い印象、戸惑いながら立ち並ぶ人々に近付いてくる。

 読み取れる情報はそこまでだった。


「この辺が限界か……」


 魔法を解き文官から離れて様子を伺う。意識がハッキリした文官が何があったのかと首を捻り不審に思いながらも騒ぐ気配は無かった。


(今日はここまでにしよう。多少なりとも情報が得られたんだ、十分だ)

「わかった。撤退するよ」


 近くの窓から外に出て魔法を発動させようとした瞬間。


「だ~れだ、そこにいるのは?」


 不意に声を掛けられ、スバルが声のした方向に視線を送るとそこには外壁を地面のように踏みしめて横向きに直立する白塗り化粧の道化姿をした人族がいた。


 身長を越える大鎌を手にしてこちらを見つめるその目は血走っていた。


 背筋が凍るような不気味さを纏っている。


 スバルは問答無用で短剣を投げようとしたが、短剣を手放す前に腕が飛んだ。


 切り落とされた腕が煙りとなって消えた。


「あ~? なんだ? つかいま、か。つまんね」


 道化が大鎌を振るうと風切り音がしてスバルの肩から胸にかけて大きな傷が走った。


「くれいじーばにーちゃんのかちぃ~」


 道化姿の怪人クレイジーバニーの攻撃でスバルの分身が消滅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ