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24 レッドサイクロプス

「ちぃちゃん! 隠れてる魔物を掘り出してちょーだい!」


 ルイの呼び掛けに応じるように地面が小刻みに揺れ始めた。


「おい、何だあのふざけた……呪文? 呪文とも呼べねぇか、何でアレで魔法が発動すんだよ」

「そりゃルイは妖精族なんだから、人族とは違うんじゃない? それよりスバル、ユーリ、準備はいい?」


 地面に亀裂が入って盛り上がり、目的のサイクロプス出現まで秒読み段階となって全員が身構える。


「完全に地面から出る前にスバル、ユーリ、俺で遠距離攻撃をぶちかます。巨人相手に手加減は無用だが捕まらないように注意しろ、サイクロプスは巨人系魔物の中では小柄な方だが、身のこなしは俊敏だ。巨人系魔物の攻撃はどれも即死級だから回避は怠るな!」


 アクアマリンが指示を飛ばし、全員の視線が地面の亀裂に集中する。スバルとユーリが呪文を詠唱し、発動待機状態で待ち構える。


 徐々に露出してくる赤い肌にスバル達が狙いをつける。


「……いくぞ、『爆裂全放射(ブレイズフルバースト)』!」

「『氷崩断(アイスエッジ)』!」

「『火炎球(ファイアーボール)』!」


 三方向から撃ち込まれた攻撃が地面を吹き飛ばし、激しい攻撃に晒されたサイクロプスが悲鳴を上げた。


「『獣性解放』!」


 土煙の先に四メートルほどの人影が見える。

 

 進化を終える前に地上に引きずり出されて攻撃を受けた所為で重傷を負ったサイクロプスが駆け出した。


 土煙の中から赤い肌のサイクロプスが血塗れの状態で奇声を発して飛び出してくるが、強化形態になったコーネリアの爪に引き裂かれて倒れた。


「赤い肌のサイクロプス……火属性を得たレッドサイクロプスだ。火炎攻撃に注意しろ!」


 最初の攻撃で全弾を消費してしまったアクアマリンが再装填しつつ、サイクロプスの見た目や噛み締めた牙から吹き出す火の粉を見て、レッドサイクロプスの攻撃を予測した。


 起き上がったレッドサイクロプスの足を高速で走り回るコーネリアが去り際に爪をたてていく。怒り狂ったレッドサイクロプスが大きく息を吸い、真下の地面に向かって火炎を吐いた。


 地面から放射状に広がる火炎を避けて飛び上がったコーネリアにレッドサイクロプスが追撃の火炎放射を放つ。


「メロディエンスの名の下に。風精よ、我に翼を与えよ 『空中機動』」


 放たれた火炎が空中のコーネリアを焼く寸前、風の翼を得たスバルが拾い上げた。


 地上でアクアマリンの銃弾とユーリの魔法が牽制の為にレッドサイクロプスの顔を狙い、怯んだ隙にルイが風の刃を飛ばした。


 深く切り裂かれた傷口から血を垂れ流し、片膝をついたレッドサイクロプスは荒い呼吸で、今度はユーリに向かって火炎を吐いた。


「……あっ」

「すいちゃん、守って!」


 水精が張った氷壁に守られたユーリとルイだったが、溶けかけた氷壁は突進してきたレッドサイクロプスの体当たりで砕け、その勢いで二人は吹き飛ばされた。


「この野郎がっ! こっちへ来やがれ!」


 倒れた二人に追撃しようとするレッドサイクロプスの注意を引く為にアクアマリンが接近して攻撃する。


 大きなダメージにはならないが煩わしい攻撃にレッドサイクロプスの怒りの矛先が変わる。


「てりゃあっ!」


 上空から飛び降りてきたコーネリアがレッドサイクロプスの背中に大きな傷をつけた。


 度重なるダメージに膝をつき、全身からの大量の出血で四肢に力が入らないのか動きを止めたレッドサイクロプスを全員で包囲する。


「よし、トドメだ」


 アクアマリンが銃口を向けた瞬間、レッドサイクロプスは空を仰ぎ見て咆哮を上げた。


 レッドサイクロプスの胸が内部から盛り上がり、光りを発しながら赤く変色していく。


「ヤ、ヤバい……」


 レッドサイクロプスの異常行動の目的を察知したアクアマリンが急いで頭と胸に向かって銃弾を放つが、命中しても胸の発光は止まらなかった。


「コイツ、自爆するつもりだ! 逃げろ!」


 アクアマリンは退避を叫んだが自爆までの猶予は短く、拓けた場所で戦っていた為、身を隠せる遮蔽物も無い。魔法による防壁でも自爆の威力を防ぎきれない。


 アクアマリンの脳裏に全滅の未来がよぎる。


「コーネリア、ルイ!」


 スバルが二人の名を呼び、手にした剣でレッドサイクロプスの首をはねた。


 切断された頭が血飛沫を上げて空を舞い、身体が力を失ってもレッドサイクロプスの胸部の輝きは消えない。


「おりゃああぁ!」


 倒れかけたレッドサイクロプスの身体をコーネリアがある地点へ押し込んでいく。


 その場所はレッドサイクロプスを地中から掘り出した所だ。


「ちぃちゃん! ソイツを深い所まで落として!」


 レッドサイクロプスを無理矢理引っ張り上げて通した部分は岩石のように硬い他の部分と異なり、少ない抵抗でレッドサイクロプスの身体を地面深くまで移動させた。


 数秒後、激しい揺れと共にレッドサイクロプスを引きずり込んだ割れ目から火山噴火の如く火柱が吹き出した。


「……ふぅ、危なかった」


 砂埃を払い、起き上がったスバルは黒く焦げた穴を見て疲れたように溜め息をついた。


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「レッドサイクロプスの魔石は回収出来なかったが、頭だけは手に入った。これで冒険者ギルドの依頼達成には十分だ。それに試験のクリアも間違いない、すげぇよお前ら。最後の自爆には俺も打つ手無しだったからな」


 転移魔法陣を使ってポラリスに戻ってきた一行は待機していた試験官に報告をした。

 報告を聞いた試験官はサイクロプスの進化に驚き、詳細な情報を求めた。その役目はアクアマリンが担う事となり、他の四人は冒険者ギルドへ向かう事にした。

 別れ際、アクアマリンは素直に称賛の言葉を送った。


「ボクはあんまり役に立ってなかったなぁ」

「そんな事ないでしょ。それにチームで戦ったわけだし、誰かが欠けてたら結果も変わってたんじゃない?」

「そうそう、チームの勝利なんだから胸を張ってりゃいいのさ」

「あたいも頑張ったよ!」

「そうだね、ルイのお陰だよ。お礼にルイの好きな物を買ってあげるよ」

「やっふぅ~! じゃあじゃあ、ベリーのタルトとドライフルーツと……」


 冒険者ギルドへの道すがら、食べ物の話で盛り上がるなか、一人落ち込むユーリは歯痒い思いをしていた。


 今日のレッドサイクロプス戦、特に最後の自爆に対してユーリは何も出来なかった。ただ呆然と目の前の光景を見ているしかなかった事に無力感を感じていた。


「こんなんじゃ駄目だ……」

「どうしたのユーリ、置いてくよ~」

「あ、うん。今行く」


 いつの間にか一人だけ遅れていたユーリは三人に追いつこうと駆け出した。

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