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21 魔王の介入

「メロディエンスの名の下に。地精よ、枷より解き放て 『浮遊(フロート)』」


 魔法範囲内の瓦礫が徐々に浮き上がるなか、ゴーレムはスバルの方へ向き直った。

 予想していた事だがスバルの魔法では、ゴーレムほどの超重量級の物質を動かす力は無かった。


 浮かぶ瓦礫を押し退けてゴーレムがスバルに突進してくる。

 

 浮遊の魔法を維持する為、他の魔法は使えない。素の身体能力だけでゴーレムを躱さなくてはならない。


 ゴーレムの動き自体はさほど速くはなく、よく見て動けば躱せる。だがゴーレムが攻撃する度にその威力で発生する衝撃や、砕かれた壁や床の破片が飛び散ってスバルを襲う。


「うっ、く……あ、危ない」


 ゴーレムの攻撃で壁が崩れ、天井の一部が崩落してスバルの近くに落下する。


 死角から落ちてきた瓦礫に気を取られていた所為でゴーレムの攻撃に対して反応が遅れ、ギリギリで躱せたが体勢を崩して転んでしまった。


「しまった! ……ヤツはどこに」


 すぐさま起き上がるが周囲に舞い上がった土煙で視界が悪く、ゴーレムの姿が見えにくくなっていた。


「次の攻撃は……上、左、それとも右……ま、前!」


 前方の影が濃くなり迫る巨大な岩石の腕に回避が間に合わないと悟ったスバルは、咄嗟に左腕で防御をするが呆気なく壁に吹き飛ばされた。


 防御した腕は砕け、叩きつけられた壁からずり落ちる身体に力は無く、呼吸すら儘ならない。


「……かっはぁ」


 喉の奥から吹き出した血が口の端から溢れ落ちる。


 地面を振るわせる重低音、巨岩石の塊が意識を失ったスバルの下へ近付いてくる。


「………………やれやれ」


 力無く伏せるスバルの口からハッキリとした言葉が紡がれた。


 足を止めたゴーレムがトドメを刺そうと腕を振り上げた。目の前のスバルは身動き一つ取る気配は無い。


「身体のあちこちが壊れて動かんな。『王殻』」


 倒れるスバルを覆うように球状の赤いエネルギーが生まれた。轟音とともに振り下ろされたゴーレムの腕がスバルを守る赤い球体に触れると攻撃した腕の方が粉々に砕け散った。その勢いに押されてゴーレムが仰向けに倒れる。


「メロディエンスの名の下に。時空神よ、過ぎ去りし時を戻せ 『修復(リストア)』」


 スバルの身体が浮き上がると変形した腕や身体の傷が瞬く間に怪我を負う前に戻り、閉じられた瞼を開くと、黒かったスバルの瞳が黄金に変わっていた。


「……崩れそうだな、補強しておくか。メロディエンスの名の下に。地神よ、形を保ち庇護を与えよ 『地系守護(アースプロテクション)』」


 スバルが指を鳴らすと魔法効果が広がり、瓦礫の落下が止まった。


 倒れていたゴーレムが起き上がり、残された片方の腕でスバルを攻撃しようと動き出す。


「ふん、ゴーレム如きにこれ以上やらせんよ。メロディエンスの名の下に。地神よ、その力を刃となせ 『超重刃断(グラビティカッター)』」


 スバルが指を鳴らすと地面の上を三つの閃光が走り、線上にいたゴーレムの硬い岩石の身体をも切り裂いた。滑らかな断面を晒して、ゴーレムは崩れ落ちた。


「さて、スバルよ。あまり無茶を、する、な……よ」


 頭をぐらつかせて倒れかけたスバルが意識を取り戻すと、黄金の瞳は元の黒色に戻っていた。


「うん、ありがと。スバーニャ」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


「スバルぅ! 大丈……ぅうわわ! 何これ……」


 上の階層から飛び降りてきたコーネリアが辺りに散らばるゴーレムの破片を見て驚きの声を上げた。


「まさか……倒したの?」

「まぁ、反則技を使ってね」

「反則技? それより、大丈夫なの? 顔色が悪いよ」


 疲労が蓄積して座り込んでいるスバルを心配したコーネリアが血色の悪くなったスバルの顔を覗き込んだ。


「傷は治したけど身体が怠いよ……コーネリア、運んでちょーだい」

「ほいほい、任せんしゃい」


 力無くコーネリアの背中にもたれるように抱えられてスバルは地上へと戻った。


 薄暗い地下から明るい地上に戻ると、横たわり眠っているフーマ達と試験官を連れてきたユーリがいた。


「スバル、大丈夫?」

「平気だよ、ちょっと疲れただけだから。それより、三人の容態は?」

「こっちも大丈夫。命に別状は無いって」


 担架で運ばれる寸前で気を失っていたアクアマリンが目を覚ました。


「ちぃ……情けねぇな。不意打ち食らって、無様に寝てたのか……おい、お前らが助けてくれたのか」


 戦闘中のような高圧的な態度とは打って変わって、怪我をしているだけとは思えないほど大人しい。


「迷惑をかけて、悪かったな。あいつらの分も含めて礼を言うぜ。この借りは必ず返すからよ」

「試験が中途半端に終わって残念だったね。合否がどうなるかわからないけど、お互い受かってるといいね」

「いや、試験は……まぁいいか。またな」

「? うん、またね」


 アクアマリンは最後に何かを言いかけたが、手を振り別れを告げた。

 スバルもそれに応え、三人を見送った。


「ゴーレムを倒したのは君達二人か?」


 廃墟に空いた大穴を調査していた試験官がスバルとコーネリアに近付いてきた。


「あのゴーレムをたった二人で倒すとは……詳しい話を聞かせて欲しいんだが、いいかな」

「そんな事より、先にスバルを休ませたいんだけど? どうしても話をしなきゃいけないんならウチが残るから、スバルを休ませてよ!」

「大丈夫だよ、ありがとコーネリア。それほど身体が痛むわけじゃないし、話をするくらい問題ないから」

「すまんな、手短に済ませる。あのゴーレムは本当に二人で倒したのか?」

「違うよ。ウチは瓦礫に埋もれた三人の救助に専念してた。ゴーレムの相手をしたのはスバル一人だよ」


 試験官はゴーレムが倒されたという事実に驚きが隠せなかったようだが、それをたった一人で成したというのが信じられないようで頻りに首を捻っていた。


「正直、信じられん……あのゴーレムは星騎士でも小隊を組んで対処せねばならない高性能な代物なのに」

「やっぱりあのゴーレムは試験の為に用意された物だったんですね」

「信じらんない! 一歩間違えれば皆殺しになっていたかも知れないのに!!」


 激昂したコーネリアが試験官に詰め寄った。

 スバルも同感ではあったが、コーネリアを宥めて止めた。


「落ち着いて、コーネリア。あのゴーレム、もしかして制限付きで出す筈だったのでは?」

「あ、あぁ。言い訳に聞こえるかも知れないが不殺設定にして能力も落とした状態で乱入したゴーレムをどう対処するかを見る試験だったんだ。間違っても……あんな出力で出す予定では無かった」


 試験官は大穴に視線を送り、息を呑んだ。

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