20 乱入者
影から現れたトロワの短剣をスバルが剣で弾き、コーネリアがトロワを蹴っ飛ばした。
「ちっ……惜しい」
「ミスってんじゃねぇよ、使えねぇ奴だな」
ユーリの背後から転がったトロワが体勢を整え、アクアマリンとフーマの傍に立った。
「ほんのご挨拶ってやつだ。この程度でやられるような奴では詰まらんだろ」
小手調べの不意打ちを防がれてもトロワは余裕の表情で二本の短剣を構え、再び影の中に沈んだ。
「厄介な能力だね。とりあえず先に残りの二人を倒そう! スバル、ユーリ、行くよ!」
コーネリアが突進するとアクアマリンが拳銃で牽制する。放たれた弾丸を素早く躱したコーネリアが大きく回り込む。
拳銃の銃口がコーネリアを追うが続いて接近してくるユーリに向けて二丁目の拳銃を向けて引き金を引いた。
軽い爆発音が響いて二方向に放たれた弾丸をコーネリアは駆け回って躱し、ユーリは盾をかざして防いだ。
「ちぃ……ちょこまかウゼェ!」
駆け回るコーネリアを狙うのは諦めたアクアマリンがスバルを狙う。引き金を引く前にユーリが剣で拳銃を弾き、狙いが外れた弾丸が空中へ飛んでいった。
スバルがフーマと剣を交えつつアクアマリンの背中に蹴りを入れる。バランスを崩したアクアマリンにユーリが迫る。
踏み込んだユーリの足下の影から飛び出すようにトロワの短剣が襲いくる。咄嗟に顔を仰け反らせて短剣は躱したが、ユーリは尻もちをついてしまいその隙を狙ってアクアマリンが拳銃を撃つ。
ユーリが盾を構えて弾丸を防ぎ、コーネリアが追撃を止める為にアクアマリンに勢いを乗せた蹴りを放つが、それをトロワが防ぐ。
アクアマリンの背後に回ったスバルが切り掛かるがフーマの剣が阻む。
「があぁっ! ウッゼエェ!! 『衝撃弾』!」
激しい乱戦状態に苛ついたアクアマリンが地面に向けてスキル技を放ち、周囲に衝撃波を撒き散らして双方とも距離を取った。
戦闘が中断した隙にアクアマリンが空薬莢は排出し、新たな弾丸を装填している。
「どいつもこいつも俺を狙いやがって……」
「弱い所から攻める。定石だな」
「くっくっく、違いない」
「先にぶっ殺されてぇかっ!」
口ではいがみ合いながらも実際の戦闘ではキチンと連携は取れている。
トロワが影に潜り、フーマを先頭にして後ろからアクアマリンが援護射撃で追い掛けてくる。
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さらに数回激突し双方が体力、魔力を消耗して疲労が見え隠れし始めた頃。
攻める手を緩めて睨み合う中、コーネリアが相手から視線を外し廃墟の別方向を見つめた。
「コーネリア? どうしたの」
「何か……来る!」
前方のフーマ達を警戒しつつスバルが声をかけると、神経を集中させて感覚範囲を広げていたコーネリアが鋭く叫んだ。
コーネリアの叫びから数秒後、石壁を突き破って五メートル級の巨大な岩石ゴーレムが出現した。
石の欠片を飛ばしながら現れた乱入者に驚き、反応が遅れたフーマ達は運悪く瓦礫を浴びて倒れ伏した。
大猿のように太く長い腕を振り上げた岩石ゴーレムの次の攻撃を予測して、スバル達の顔から血の気が引く。
「や、やば……」
「メロディエンスの名の下に。地精よ、壁となれ 『石壁』」
「ユーリの名の下に。地精よ、壁となれ 『石壁』」
数百トンの岩石の塊が激しく地面を叩き割る。その凄まじい衝撃でスバルの張った石壁が砕け、ユーリの石壁にもヒビが入った。
立っていられないほどの衝撃が止み、石壁が解除されると土煙が立ち込める中、三人が見たものは変形した地面と地面に空いた大穴だった。
「え、これって……ゴーレムとあっちのグループは地下空間に落ちた?」
「みたいだね。あのゴーレムの攻撃と重量に耐えきれなかったか」
「どう、する? 一応、転移魔法陣は使用可能みたいだけど」
ユーリは光りを放つ魔法陣を確認してスバルとコーネリアに伝えた。
試験の内容が相手グループの撃破という事なら、今のこの状況はその内容をクリアしている。
このまま転移魔法陣で帰還し、試験官に事のあらましを説明して後は任せるのが最良だろう。だが、コーネリアは大穴を覗き込み、スバルは腰のポーチにある薬を確認した。
「結構、深いね。落下ダメージも考えるとあの三人を放置するのってマズいんじゃない?」
「あのゴーレムが下で暴れたら、危な過ぎる。なんとか避難させないと」
「だね。ユーリ、先に戻って試験官にこの事を伝えて。いくら厳しい試験だとしても死人が出かねない状況を放置はしないと思う。救援は出して貰える筈だから、お願いね」
「うぅ、わかった。すぐ戻るから二人とも気を付けてね!」
本音を言えばユーリもこの場に残り手助けをしたいところだが、救援を呼ぶ必要性も理解出来る。揺れる心を自制して、転移魔法陣へと走った。
「メロディエンスの名の下に。風精よ、我に翼を与えよ 『空中機動』」
風の力を纏ったスバルの背中にコーネリアが抱きつき、二人はゆっくりと大穴へと降下していった。
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この廃墟は地下にも相当広がっているようで、ゴーレムの空けた大穴は地下四階部分にまで及んでいた。
「静かだね……」
「やたらと暴れているわけでも無いのが救いだね……あっ、スバル。あそこ」
コーネリアの指差す先に、ゴーレムがいた。
ゆっくりとだが周囲を警戒している。
「このまま下まで降りるのはマズいから、少し上で降りて隠れよう」
「出来ればギリギリまで近付いて。ウチが三人の気配を探ってみるから」
スバルはゴーレムより上の階層に着地して、静かに下を観察する。隣でコーネリアが目を閉じて耳を澄ます。
「…………いる。反応は弱いけど死んではいない。多分、積もってる瓦礫の中だね」
「ゴーレムが索敵状態なのは感知方法が魔力感知じゃなくて、音声か動作感知だからか。だとすれば誘うのは簡単だね」
最初にゴーレムが出現した時、ゴーレムは石壁を突き破って現れた。石壁に遮断されていたから、動くものに反応したのでは無く戦闘音を感知して襲って来た可能性が高い。とはいえ複数の感知方法を持っていてもおかしくは無い。
ここは慎重に行動すべきだろう。
「私が囮をしつつ魔法で重力を一時的に遮断して、瓦礫を浮かせよう。その隙にコーネリアは瓦礫の中から三人を救出して上の階層に避難するってのはどう?」
「待って、囮役なら足の速いウチの方が適任じゃん。ウチがやるよ」
「いや、その速さが救出するのに最適なんだよ。私は魔法の多重発動は出来ないから、重力遮断と高速移動は同時には無理なんだよ」
スバルに説得され、コーネリアは渋々引き下がった。スバルはポーチから三人分の薬をコーネリアに渡して救出後、飲ませるように言った。
「それじゃ私が下の階層で魔法を発動させるから、ゴーレムが移動を開始したらコーネリアも動いて」
コーネリアは頷き、スバルはゴーレムに気付かれないように慎重に通路を移動するとゴーレムを誘い込む為の場所を決めた。
戦闘状態のゴーレムが広範囲で暴れると只でさえ半壊している廃墟が崩落するかもしれない。
囮役として時間を稼ぎつつ建物への破壊も抑えなくてはならない。
「難しいが、やるしか無いね」
スバルは意を決して、ゴーレムの前へと姿を現した。




