19 呪い耐性試験
第一試験終了後、続けて第二試験を行った。
「各自に渡した指輪は『強制催眠』が付与されている。指輪を外す以外の方法で制限時間まで呪いに耐えろ」
試験官の合図で受験生達が一斉に指輪を嵌めた。指輪を嵌めた途端、何人かの受験生がその場で倒れた。
「……むぅ。これは……」
呪いの効果で意識が飛びそうになるスバルは片膝をつきながらも必死に睡魔に抗っていた。
急速に全身の力が抜けていくなか隣のコーネリアを見ると、なんとも気持ち良さそうに眠っていた。
「ぅ……あ、もう……だ、め」
コーネリアの安らかな寝顔を見て、気合いが抜けてしまったスバルは睡魔の圧力に負けて倒れてしまった。
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「起きろ~、スバル」
髪の毛を引っ張られた刺激でスバルが目を覚ますと目の前にルイがいた。
指に嵌められていた指輪も外されている。
「ん……ル、イ……あっ! 試験は」
「第二試験は終わって今は受験生を起こしている最中だよ。ほれ、コーネリアも起きろ」
「……むにゅぅ」
「うわぁ、放せコーネリア。つ、潰れるぅ」
丸まって眠っていたコーネリアがルイを掴んで抱き寄せた。寝惚けたコーネリアの胸元に押し込められたルイが助けを求めて踠いている。
「起きて、コーネリア。ルイが窒息する」
「はぅ……あれ? ウチ、寝てた?」
ぼんやりとする頭を振って起き上がる。周りを見れば同じように眠気を振り払う者や呪いにどれだけ耐えたかを話し合っている者達などがいた。
「あ~……指輪を付けたら一瞬で寝ちゃったよ」
「私も数秒しか耐えられなかった。ルイ、この試験に耐えられた受験生なんていたの?」
「おぉ、いたぞ。最後まで耐えたのは、ゴツいおっさんと若い女の二人だな。おっさんは血管が浮き出るほど苦しんでたけど、若い女の方は涼しい顔で立ってたな」
スバルやコーネリアもそれなりに鍛えてきたのだが、世界にはさらに上をいく者もいるようだ。
全ての受験生が起き上がった所で試験官が受験生を一列に並ばせた。
「では最後の試験を行う。最後の試験は受験生同士で三人組となり、三対三のグループ戦を行ってもらう」
試験官が一列に並んだ受験生を端から三人ずつ区切って組を作っていく。
スバルは隣に立ったコーネリアとその隣にいた少女と組む事になった。
「これより転移魔法陣に乗って別々の試験場に転移してもらう。転移した時点で戦闘開始である。対戦相手の受験生グループはズレた場所に現れるから索敵して、相手を発見し戦闘を行え。対戦終了後、再起動した転移魔法陣で帰ってこい」
「質問、よろしいかしら」
受験生の一人が手を上げた。
「勝敗のつけ方は単純に全員戦闘不能にすれば良いのかしら? 誰か一人が負けを宣言しても他の二人が同意しなければ無効なの?」
「そうだ。グループの一人が負けを宣言した場合、その一人だけが戦闘不能と見なす。他の二人は戦闘続行するように」
「では、もう一つ。転移先で戦う相手はひとグループだけですか? 三グループの巴戦になったりはしないので?」
その質問に不敵な笑みを浮かべた試験官は、敢えて口調を強めて言った。
「転移先では対戦相手はひとグループだけだ! 当然、倒すべき相手はそのグループだけなので安心して欲しい! 他に質問は無いかな? では順番に転移魔法陣に乗ってもらおう」
準備を整えたグループから転移魔法陣に乗って別の会場へ跳んでいく。
「さて、とりあえず自己紹介からいこうか。私はスバル、魔法剣士だよ」
「ウチは犬神一族のコーネリア。格闘が得意」
「よろしく。ボクは、お……ユーリ。ステラ教国出身のユーリだよ。剣と魔法が使えるけど魔法はあんまり得意じゃない……まだまだ練習中なの」
長い髪を一括りにして、ステラ教の紋章が入った鎧と盾を装備している。攻撃を重視して盾を持たないスバルと違い、ユーリは防御主体の装備をしている。
「あ、スバルの靴は魔法具なんだね。ボクの剣も魔法具なんだよ」
「そうみたいだね。効果はどんな感じなの? 私のは脚力強化と短時間の空中歩行だよ」
「えっとね、魔力を込めると攻撃力が増すんだって」
ユーリの言葉にコーネリアが疑問点を挟んだ。
「だって……? もしかして使った事無いの?」
「うん、実は今日貰ったばかりなの……あっ! でも、剣の修行はちゃんとしてたから大丈夫大丈夫。それより、作戦なんだけど」
ユーリは気を取り直し、転移先での作戦をどうするか提案してきた。
「ボクはまだ修行中の身だからコーネリアの格闘戦には対応出来ないかも」
「そうだね……じゃあウチが速さで相手を撹乱している間にスバルとユーリで相手の一人を戦闘不能にして、後は流れで決めようか」
「わかった。それと相手の出方を見るより、先に乱戦に持って行った方が良いと思うから、発見したら臆せず突っ込もう」
「うわぁ~、スバルってば脳筋なんだね……ボクも見習った方が良いのかも?」
準備を終えたスバル達が試験官の下へ行くとチェックを受けて転移魔法陣へと促された。
「最後に一つ。星騎士たる者、いつ如何なる時でも冷静さを失ってはならん」
転移直前、試験官はそんなアドバイスを残した。次の瞬間、三人は森の中の廃墟へと移っていた。足下の転移魔法陣光を失い、陣は黒く染まっている。再度使用するには少し時間が掛かりそうだ。
「冷静さを失ってはならん、か」
「何かあんのかな」
「かも知れないね。気をつけて進もう」
ユーリは廃墟へと近付き、慎重に辺りを見回した。
「やっぱりこの廃墟に対戦相手はいると思うんだけど、スバルとコーネリアはどう思う?」
「まぁ転移した場所だから近くにいるのは間違い無いだろうね。このまま廃墟を進むか森の中から観察するか、どうするかな……コーネリア?」
スバルがコーネリアの方を見ると、彼女は目を閉じ意識を集中させて何かを探っていた。
「……何か、変な音がする」
「変な音?」
「それってどんな?」
「何かの……重たい音が」
コーネリアが何かを言いかけたが、すぐに険しい顔をしてその場を飛び退いた瞬間、足下で何かが弾けた。
「何っ!」
「やば……先手取られた」
スバルとユーリが周囲を警戒するが、相手の姿が確認出来ない。そうしている間にも続けて地面で何かが弾ける。
「そこだよっ!」
コーネリアが石を拾い、投擲する。命中した壁の一部が砕けた。
「あっぶね! ヤベェな、あの犬女」
「獣人は感覚が鋭いからな、不意打ちが何度も通用する相手では無いぞ。下手くそが」
「うっせぇ! 黙っとけ、ボケが」
コーネリアが投げた方向の物陰から二人の男が出てきた。一人は派手なロングコートを来た赤毛の男で幾つもの装飾品を身に付けている。
もう一人の男は一見すると粗末な身形ではあるが適当に伸ばした白髪から覗く眼光は鋭く、発達した肉体から放たれる威圧、そして剣を握る姿は剣豪そのものである。
「二人……?」
「気をつけて、もう一人どっかにいるよ」
「あの派手な人の武器って……」
スバルとコーネリアが三人目の姿を探す中、ユーリは赤毛の男が持つ筒が気になっていた。
「こうして顔を合わせたんだ。名前くらいは教えてやんよ。俺はアクアマリン、銃士だ」
挨拶代わりに空に向かって無駄弾を撃って威嚇してくるアクアマリン。それを傍で見ていた白髪の男が顔をしかめる。
「限りのある弾を無駄にするな、この馬鹿が。俺はフーマ。せめてもの思い出に覚えておくがいい」
「んだと、このネクラ野郎が。テメエの脳天にぶちこんでやろかぁ、あぁん!」
「……最悪の人選だ。馬鹿の相手などしてられん」
「誰が馬鹿だ! この……」
「あ、あの!!」
放っておくとその内、同士討ちを始めそうな二人をユーリが止めた。
「こんな事聞くのも変かも、だけど……三人目、どうしたの?」
現れて早々にいがみ合う二人にユーリが恐る恐る聞いてみた。まさかとは思いつつ、同士討ちで倒したのではと思ってしまったようだ。
当然、そんなわけは無く。
「三人目はそこにいんぜ」
「え?」
おかしな雰囲気に流されて警戒を解いていたユーリの影が盛り上がり、人の形を取った。
「その通り、『闇討ちのトロワ』とは俺の事だ」
ユーリの影から現れた三人目の男トロワがユーリの首に短剣を振り下ろした。




