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16 妖精族の使者

 馬車を盗んだ不届き者を縛り上げ、一行は再び馬車の旅を再開した。


 縄で縛られ猿轡まで噛まされた二人は御者が街まで連行し、行政に引き渡してしっかりと賠償される事となった。


 ちなみに二人が馬車を盗んだ理由は、単に時間を惜しんだだけという、つまらない理由だった。


「うほほほ、ピカピカ金貨ちゃん。綺麗に磨いてあげますからね~」

「……あの、さ」

「ん? 何」

「ウチは今までいろんな街に行ったけど妖精族なんて見た事無いんだよね……」

「まぁそりゃ、そうだよね。あたい達妖精族は自分の住み処から滅多に出ないし、人族の街に行く事も無いからあんまり交流はしてないね」

「じゃあ金貨なんて貰ってどうするの? 単純に綺麗だから集めてるだけ?」

「え? そりゃ買い物するのに必要だから貯めてるに決まってんじゃん。大体の妖精族は住み処から出てこないけど、なかにはあたいみたいに好奇心の強い奴だっているんだよ」


 布を手にしたルイは、コーネリアの頭の上に座って報酬として貰った金貨を曇り無く磨き、艶やかに輝く黄金を確認してニンマリと笑った。


「実はあたいら妖精族の女王が人族のステラ教国へ親書を出す事になったんだけど、まともに外界に出たことない奴ばっかでね、なかなか使者が決まらなかったんだよ。そんな時、都合良く牢獄にぶちこまれてたあたいに白羽の矢がたったのさ」

「牢獄って……じゃあルイは罪人って事?」

「まぁそうなるかな? ちょっとイタズラが過ぎてね、あははは」


 ルイは肩掛け鞄に金貨を仕舞うと代わりにドライフルーツを取り出し食べ始めた。

 ルイの肩掛け鞄はスバルのポーチと同じ魔法具のようだ。


「ステラ教国まで飛んでいくのもダルいからこっそり馬車に忍び込むつもりだったけど、都合良くトラブったおかげで小遣いも稼げたしステラ教国までの足も確保出来たし、ラッキーだったわ」

「妖精族の親書かぁ……何か重要な事でも書いてあるのかな。ルイ、こっちの焼き菓子も食べる?」

「食べるぅ。多分、ステラ教国の後ろ盾が欲しいんだよ」


 ルイはスバルから貰った焼き菓子を食べながら答えた。


「あんまウチの頭に食べカス溢さないでよ……それってつまり人族と交流を持とうって事だよね。ずいぶんと大胆な決断をしたんだね」

「これも時代の流れだね。妖精の郷は魔法の結界で守られているんけど、最近貴重な素材を求めて結界を破る連中が出始めたんだよ。今は小規模だから妖精族だけで対処出来るけど、将来的にはどうなるかわからない。欲深な人族の侵略で混乱するくらいなら、強力な後ろ盾を得て緩やかな交流を持とうって考えたんだよ」


 貴重な魔法素材が手に入る場所は限られている。最たる場所は魔族の住む地域だが、人族が容易に入り込める場所ではない。それに比べて妖精族の住み処は魔法の障害さえ突破出来れば得る物が多い土地だ。


 支配階級の人族が、財力に物を言わせて人を集め強引な手段で侵入してくる可能性は否定出来ない。


 年々、人族の力が増していくのを感じた妖精族の女王が行動を起こしたのも無理はない。


「妖精族の中には人族との交流に反対する連中や逆に討って出ようなんて強硬な意見もあるから、スムーズにはいかないかもだけど……まぁ、あたいにはどうでもいいこった。せいぜい遊んで帰るだけさ」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 当初予定していたルートを外れ、近くの街で盗人を引き渡し、そのまま街で一泊する事となった。


「上等な宿を取ったから、お客さん達はゆっくりと休んだくれ。当然、追加料金なんて取りゃしないよ」


 掛かる費用は全て、没収した盗人の財産で賄われた。


「いいのかな? 人のお金を勝手に使って」

「何言ってんの、街の外で悪さしたんだ。あの場に放置されても文句は言えないし、財産だって没収されて当然なんだよ」

「おい、スバル、コーネリア! この宿、風呂がデカいぞ!」


 経験の浅いスバルは盗人とはいえ他人の財布で豪遊する事に少し引け目を感じているようだったが、コーネリアは当然の事であると主張しわざわざ街まで連れて来てやった事はむしろ感謝されると言った。


 街の宿屋が珍しいのか建物の中を飛び回っていたルイが興奮気味で戻ってきた。


 一般的な水準よりも高い宿泊費に見合った施設を有する宿屋らしく、豪華で広々とした石造りの風呂を見付け興奮したルイはスバルとコーネリアを連れ立ってその風呂を満喫した。


 宿屋に併設する食堂で軽く十人前の食事を平らげて周囲の驚きの視線を集めていた。

 それは珍しい妖精の存在か、テーブルに積み上がる食器の量なのかは不明だが。


 小さな身体でもしっかりと一人前の食事を食べてお腹がぽっこりと膨らんだルイは一足先にスバル達の宿泊する部屋で横になった。


「そんじゃウチも休むわ。お休み~」

「うん、お休み」


 コーネリアも柔らかいベッドの上で横になり、ほどなくして静かな寝息をたてた。


(さて……『魂接続』)


 ステラ教国を目前にして、スバルはスバーニャへと連絡を取った。


『スバルか、そちらの様子はどうだ』

(うん、順調に旅は続いているよ。勇者関連の情報も少し手に入れた。『タイ焼き』という勇者の故郷のお菓子と勇者が持ち込んだ異界の本に書かれていた『異界の文字』。どちらも勇者を特定するのに役立ちそう)

『そうか……もう間もなくステラ教国に入るようだな。一応、確認しておくが例え勇者を見付け出しても焦って仕掛けるなよ? 勇者のユニークスキル『奇跡』は扱い方こそ難しいが効果は異常なほど高い。下手に追い詰めてユニークスキルを使われたら、こちらが不利になる』

(うん、わかってる)

『勇者を特定出来たら、味方のフリをして信頼を勝ち取るんだ。そして懐に入り込み、油断を誘え』

(決定的な瞬間を狙うんだよね)

『そうだ。極端な話、私と戦う直前までは勇者の仲間として振る舞うんだぞ』

(わかった)


 『魂接続』を切るとスバルも眠りについた。

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