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11 鏡の法

 クレスと対峙したスバルは訓練用の刃引きした剣を構えた。


「魔法とスキルの使用は無しだ。自前の身体能力と技量だけで戦え」

「はい……いきます」


 棒立ちのクレスに向かってスバルが剣を振るう。

 制限された状態とはいえ、決して緩くない攻撃を繰り出してもクレスは僅かに身体を動かすだけで躱し、逆に攻撃後の隙を突いてスバルの手足に一撃を入れてくる。


「そら、どうした! この程度の実力では『鏡の法』など受ける価値もないぞ」


 攻守が交代し、今度はクレスが攻めてスバルは防御に徹するが一撃一撃が重く、受ける度に腕が痺れていく。


 ステラ教国の星騎士と今のスバルとでは仕方のない実力差ではあるが、クレスの猛攻は止まらない。


「ふん、世界を知らないガキが調子に乗った罰だ。治療院で眠ってな!」


 トドメを刺そうと振り下ろされるクレスの剣を防ごうとスバルが剣を構える。それを見てクレスが悪態をつく。


「馬鹿がっ!」


 力の差は歴然なのだ。受けようとしても耐えられる筈がない、なのに受けようとしている。

 選択を間違えたスバルに怒りさえ覚えたクレスが力を込めて剣を振り下ろした。


 剣と剣がぶつかり合った瞬間、あっさりとスバルの剣が飛んだ。予想以上に軽い感触にクレスは一瞬、反応が遅れた。

 クレスの剣が軌道を逸らされ地面を叩くと同時に、スバルはクレスに飛び付き背後に回ると細い腕をクレスの首に絡めて絞め上げた。


「なっ……んだ、と」

「別に剣の勝負ではありませんよね」


 身体能力で圧倒していた為に油断し、スバルの実力を見誤り誘いに気付かなかったのだ。

 未熟者と決めつけ、スバルは追い込まれた末に間違った判断をしたのだと思い込んでしまい、スバルの反撃を許してしまった。


 今なら腕力に物を言わせてスバルの腕を外せるかもしれない。だがクレスはそれを潔しとはしなかった。


「お前の……勝ちだ」


 ゆっくりと腕を解き、スバルが離れた。


「あら、ずいぶんと素直に負けを認めるのね。あそこから形勢を逆転させる事だって出来たでしょうに」


 観戦していたカペラが話し掛けるが、クレスはばつが悪そうにして顔を歪めた。


「天下の星騎士ともあろう者が相手の実力を図り損ねた上に、勝利に固執して足掻くなんて見苦しい真似出来るわけないだろ」

「だったらスバルさんに言う事あるわよね。天下の星騎士さん?」

「うっ……失礼な態度をとってしまい、申し訳なかった」


 素直に頭を下げたクレスに免じて、スバルは謝罪を受け入れた。


「じゃあ次はウチの番だね」


 軽く身体をほぐしながら楽しそうな雰囲気でコーネリアがクレスの前に出た。


「いや、手合わせはもういい。お前達の実力は申し分ないと判断するよ、『鏡の法』を受けるに十分な実力がある」

「えぇ~」


 クレスの言葉に、それまで嬉々として対戦を待ち望んでいたコーネリアが気落ちした。


「まぁまぁ、コーネリア。別の機会でクレスさんに手合わせしてもらえばいいじゃん」

「う~ん……そうしよっか。クレスさん、後日手合わせをお願いします!」

「戦い好きの獣人らしいな。いいだろう、その時は俺もちゃんと相手をしてやる」


◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


 カペラはクレスに二人の案内を託して冒険者ギルドに帰っていった。カペラから案内を引き継いだクレスが二人を連れて建物に入ると、地下へと続く階段を降りていく。

 降りきった先には、広い空間があった。


「ここが『鏡の法』を行う地下訓練場だ」


 石で組まれただけの質素な場所で、『鏡の法』と言われるような鏡の類いも無い。


「一人ずつ受けてもらうが、どっちからだ?」

「今度はウチが行かせてもらうよ」


 コーネリアが前に出るとクレスが広場の中心に立つように指示した。


「今から敵が現れる、ソイツを倒せ」


 コーネリアの立っていた足下に魔法陣が浮かび上がり、魔法陣がコーネリアの身体を通過すると別の場所に移動してゆっくりと下降する。


 下降途中で人の姿が現れ、魔法陣が地面に消えると、そこにはもう一人のコーネリアがいた。


「な~るほど、鏡ってそういう意味なのね」


 二人のコーネリアが同時に駆け出し、上段蹴りが交差する。中段から下段、掌底打ちを防いで肘打ち、手刀を躱して回転蹴り。


 次から次へと技を繰り出しても双方のコーネリアは上手く防いだり、躱したりして食らわないようにしている。


「あれは魔法で作った即席のゴーレムですか」

「そうだ。魔法陣で読み取った者と同じ能力を持ったゴーレムを生み出し、それを超える修行だ」


 激しく立ち位置が変わり最早どちらが本物かわからないが片方のコーネリアの拳が相手の頬を打ち抜き、打たれた方も拳を掴み投げ飛ばした。


「唯一の違いは、ゴーレムにスタミナ切れは無いという事だ。全力でぶつかってもお互いの力は拮抗しているのだから決定打にならず、長引けば本物は疲労が蓄積して隙が生まれる」

「つまり短期決戦で相手の防御をぶち抜くしか無い、と」

「その為には自分の隙を自分自身で見付けるしかない。客観的に自分を観察する事が出来るのがこの修行の利点だな」


 スバルとクレスが話している間にコーネリア同士の戦いが変わった。

 次第に片方が押され始めたのだ、両腕を固めて防御に徹するコーネリアと怒涛のラッシュで潰そうとするコーネリア。

 防御が崩れてよろめいたコーネリアに拳を振り上げるコーネリア。決着がつくかと思われた瞬間、繰り出された拳を受け流し背後を取ったコーネリアが相手の首を極めた。


「あ、さっきの」

「ちっ」


 スバルがクレスに勝利した時と似た状況だ。

 クレスは思わず舌打ちをした。


 先ほどと違うのは首を極めたコーネリアは容赦なく締め上げたという事だ。

 数秒後、首を絞められたコーネリアが光りの粒子となって消滅した。


「はぁ、はぁ……ふぅ、勝った」

「おめでとう、コーネリア」

「ふん、いきなり勝利するとはな。普通は何度か回数を重ねてようやく勝利するもんだが。なかなか優秀じゃないか」


 大の字になって倒れたコーネリアに水を渡して労うスバルと面白くなさそうな顔で評価するクレスであった。

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