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俺の大好きな…

作者: 白井小雪

遼なんて…大っ嫌い。


約3分前に聞いた言葉。

なんで俺が朱里にそんなことを言われて傷ついているのか自分でも訳が分からない。

でも…はっきり分かるのはその言葉が意味していることと、胸に突き刺さる罪悪感。


「俺が何したってんだよ…」


ぶつぶつと独り言を言いながら手に持っていた掃除用のモップを動かす。

別に朱里とは付き合っていたわけじゃない。ただ、隣の席に座っていて掃除の班が一緒なだけ。

もともと優等生な朱里は掃除も真面目にこなしていた。

そんな姿を見てから俺の目に朱里が入ることが多くなった。


「それは、恋ですよ~。遼ちゃん」


俺の行動がばれて、姉貴に言われた何気ない一言。それがなかったら今でも朱里を見れているのかもしれない。

恋ってことに鈍感な俺にそんな言葉、かけて欲しくなかった。


俺の頭の中には『後悔』という文字が浮かんでいた。

どんどんマイナス思考になる俺。そういえば朱里は俺のそんな性格に気づいたんだっけ…。

自分なりにあの日を再現してみる。


空は青く、雲はなかった快晴の日。俺はいつもどおり授業をサボって屋上で寝転んでいた。

髪の毛はまだ黒く染める前だったから茶髪だった。


「こんなところで何してるの?」


不意に聞こえてくる女の声。もちろんすぐに誰の声かは認識できる。


「朱里!?なんでココに…お前授業はどうしたんだよ!」


「別に。私だってたまにはサボりたくなるわ」


隣に座る朱里。俺は思わず体を起こし、顔を見る。

丸い顔、プニプニホッぺ、薄い唇、笑うと細くなる目、サラサラな髪。


「人の顔をそんなにじろじろみないでよ…恥ずかしいじゃない」


「わ、悪い…つい…」


そう言って罰の悪そうな顔をする俺に優しく笑いかける朱里。


はっと現実に戻る。

いつから俺はその笑顔が見たくて授業をサボらなくなったのだろう。

いつから隣の席ということを利用して朱里と話すようになったのだろう。

いつから掃除を真面目にするようになったのだろう。


「それは、恋ですよ~。遼ちゃん」


再び姉貴の声が心に響く。


「そうなのかも…」


初めて感じるキモチ。

今まで姉貴のその言葉に否定し続けていて。

ずっと俺は女になんか興味なくて学校もだるくて。

高校生活なんてこんなものか。と自分に言い聞かせていた。

でも、朱里に出会ったおかげで変わった自分の気持ち。


グッとモップを握りしめ、時計を見上げた。

掃除が終わるまであと3分。

掃除用具入れに乱暴にモップを入れて、走り出した。

周りが驚いてざわついているのがよく分かった。

でも、掃除なんかより今の方がよっぽど大切。自分でそう判断した。


どこに朱里がいるかなんてわからない。

もしかしたらあいつは真面目だし、入れ違いで教室に帰って先生を待っているかもしれない。

でも、キセキを信じたかった。

こんなことをするのは物語や映画の中の話。そんなクサイ演出をしたいわけでもない。

ただ、キセキを信じたかった。


いつの間にか屋上のドアの前に居た。無意識で走っていたから肩で息をしている状態な俺。

普段なら教室からココに来るまでには4分はかかる。

でも、まだ授業開始のチャイムはならない。

ホッとしている暇はない。きっとあと数秒で鳴るだろう。


ガチャ。


ギギギ・・ときしむ音がして簡単にドアが開く。

薄暗い階段の踊り場に光がさした。

足を踏み入れる。それと同時に体は暖かい温度に包まれた。

空を見上げてみる。青の中でまぶしいくらいに輝く太陽。あの日と同じ・・快晴。


少しだけ信じてみる。

キセキというものを信じる。

ゆっくり目を瞑る。そんなことをしている場合じゃないのは頭で分かっている。でも同時に体は余裕を求めているのだ。

今、おとぎ話のようなことを信じている俺はそうとうなアホだ。

それに朱里を傷つけたのだから、俺はもっと最低なアホだ。

でも。


キーンコーンカーンコーン…


授業開始のベル。ゲームオーバー。

やっぱりキセキなんておこらねぇよな。

目をゆっくりと開ける。

下を向いている俺の視界に見慣れた制服のスカートと素足が入っていた。


なぁ、神サマ。俺、最低なヤツだけど、こんな俺にでもキセキを起こしてくれるのか?


「遼…?」


聞きなれた声。


「ごめん」


「え?」


「傷つけて、ごめん」


少し間が空く。

わざと俺は彼女の顔を見ない。ずっとうつむいたまま。

見ないんじゃなくて見れないから。

恐いんだ。いつもの笑顔を見せてくれないで怒ってる顔なんて見たくない。

でも彼女は俺の目の前まで歩いてきて、


「こっち…向いて」


そんなことを言う。

嫌だけど。でもやっぱり顔は見たい。俺は言うとおり彼女を見た。


「私も…ヒドイこと言っちゃってごめんね」


にっこり笑いかける彼女。それを見て驚く俺。

周りは静かで空はかわらず青い。


俺は運がいいのかもしれない。なんてちょっとうぬぼれてみる。

だって今、この瞬間に俺の大好きなお前が見れてるから…。



おわり



ココに投稿する初めての小説です。

なんだか切ない感じになってしまいました…。

まだまだ未熟な私ですが、よかったら感想などください!


読んでいただいてありがとうございました。


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