副団長との話し合い
副団長と話が出来たのは、それから三日後の事だった。翌日帰ってくる予定だったけれど、急な呼び出しがあったとかで帰れなくなったらしい。今日は戻れないとリックさんに言われて感じたのは、落胆よりも安堵感だった。話をしようと思い立ったのはよかったけれど、早まったかも…との思いに塗り替えられていた。
延期になった事で考える時間が出来た私だったけれど、恋愛事をずっと避けていたのもあって、戸惑いが解消する事はなかった。それでも、今向き合わなかったら絶対に後悔するとの思いから、私はかつてないほどに真剣にこれからの事を考えた。
(恋なんて厄介なだけだと思っていたけれど…)
今までは恋の衝動に突き動かされるなんて馬鹿馬鹿しいと、冷めた思いで見ていた。でも、自分がその当事者になってみるとわかる気がした。
(お母様たちは副団長が私を好きだと言っていたけれど…)
それに関しては半信半疑だった。母達の言う事はどこまで本当なのか…
(ただ乗せられているだけだったら…馬鹿みたい)
そう思うけれど、そんな自分が嫌じゃなかった。馬鹿でもいいんじゃないか、と思ってしまったのだ。だったら当たって砕けるのも悪くないかもしれない。
(…ダメでも失うものはないもの。元から独身のつもりだったし…)
そう思ったら変な勇気が出てきた気がした。別に多くを望むつもりはない。でも…誰よりも柵がある副団長が私を少しでも好ましく思ってくれて、その上で側にいる事を許してくれるなら…子供の事や影の事は、私の中ではそれほどの障害とは思えなかった。
「エリアーヌ様、旦那様の元にご案内します」
その日の夜、夕食を終えて寛いでいた私をリックが呼びに来た。思わず身体に緊張が走る。ドキドキと跳ねる鼓動を宥めるように深呼吸をしてからリックの後に続いた。
案内されたのは副団長の私室に繋がる応接室だった。既に副団長がソファで寛いでいた。今は騎士服ではなく貴族の男性が普段着るもので、騎士服ばかり見ているせいか新鮮に思えた。そしてどんな格好でもイケメンは様になるらしい。それだけで人生五割は得しているだろうと思ってしまう。
「昨日は戻れなくてすまなかった、エリアーヌ嬢」
「いえ、任務ですから」
彼の向かい側に案内され、リックはお茶を淹れると静かに出て行った。副官のオブラン殿もいないし、気が付けば部屋に二人きりだった。今更だけど緊張する…
「それで、話とは?」
ストレートに切り出されて、心の準備が整っているつもりがそうではなかったと思い知らされた。思わず変な声がでそうになって、今一度静かに息を吐いた。
「婚約の件で、お聞きしたい事が」
「婚約?」
「はい。私達の婚約はラドン伯達を捕らえるまでのものだったと伺っています。彼らが牢に繋がれた以上、継続する意味はないのではと…」
言葉の最後を濁してしまったのは、私の弱さだろうか。これで白紙撤回しましょうと言えそうになかった。
「そう…だな」
暫くの沈黙の後、副団長はお茶を一口含んでからそう言った。その間はどういう意味を持つのだろうと気になるのは、周りから私達が両思いだと言われたせいだろうか。彼も…解消を望んでいないのでは、と。
「…本来なら、純潔を奪った責任を取るべきだが…話した通り私は子供が出来ない。エリアーヌ嬢はまだ若く子供も望める年だ。私と結婚してその可能性を閉じる事はないと思う」
帰ってきた答えは予想していたものから外れなかった。確かに子供を望む女性は多い。結婚する一番の目的が血を残す事だから当然だけど、最初から石女と言われるような立場を望む女性は稀だろう。男性に原因があっても女性が責められるのが現実だから。
「私は…子供は望んでいません。そう言ったらどうなさいますか?」
「それは…」
私の言葉に副団長が言葉を詰まらせた。それはどうしてだろう。だったら責任を取ると言うだろうか。それとも…
「エリアーヌ嬢、あなたは優秀なだけでなく、とても美しくて魅力的な女性だ。わざわざ訳アリの男に嫁ぐ必要はない。私と居てもあなたが望むような幸せは…」
「それは、副団長が影だからですか?」
副団長が息を飲むのが伝わった。




