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「貴女が…あの方の専属文官?」


 それから数日後、仕事を終えて寮に戻ろうと騎士団の建物から出た私は、三人の女性に取り囲まれた。年齢的には同じくらいか…少し下、だろうか。揃いも揃って派手で浮いている感満載だけど、彼女達の事は記憶にない。勝ち誇った表情は、学園時代の上位貴族のお馬鹿さんたちのそれによく似ていた。


(人違いじゃない?そもそも…あの方って誰よ…)


 いきなり名乗りもせずに話しかけてくるなど、随分とマナー違反ではないだろうか?まぁ、頭の中もそれ相応に見えるから仕方がないのかもしれない。こっちは仕事を終えて疲れているし、早く帰りたいのだけど…


「…どちら様でしょう?それに…お人違いでは?」


 暗に貴女達なんか知らないんだけどと言ってやれば、三人は揃って表情を歪めた。何?そんなに有名人なわけ?でも、こっちはどうでもいい人間の顔を覚えるなんて無駄な事に頭を使いたくないのだけど。


「な、生意気ね!」

「全く、こんな地味で貧相で女を捨てているようなのが…」

「あの方もどうしてこんな者をお側に置くのかしら」


 あの方が誰かは知らないけど、彼女達のターゲットが私で正解なら、あの方とはあの天敵の事だろうか。となると…


(彼女たちは…奴のファンとかそういうの?)


 そう言えば学生時代、奴にはファンだの親衛隊だのがいたと聞いた事がある。学生のくせに女を侍らせている貞操観念と常識のない男のどこがいいんだ?顔か?と思っていたけれど、この年になってもまだそんなのをぶら下げていたのか…面倒。それに気持ち悪い。少しは真っ当になったかと思っていたが、水面下では変わっていなかったらしい。


「言いたい事はそれだけでしょうか?」

「な?」

「貴女方がどなたの事を仰っているのかは存じませんが、私は上司の命令で働いているだけです」


 私が感情を入れずに淡々と答えると、彼女たちがたじろいだ。私が言い返すと思わなかったみたいだ。となると、相手は私よりも上の身分なのだろう。


「嘘言わないで!」

「どうせあんたがアレクサンドル様の下で働きたいって言ったんでしょう?」

「そうよ!でなければ女の文官なんかが騎士団に配属されるわけないじゃない!」


 どうやら私で間違ってはいないらしい。しかし、一介の平職員の希望が通るなら、私は今ここにはいない。それだったら宰相府にいる筈だ。


「人事に関しては下っ端の私には何の権限もありませんし、これまでも私の希望が通った事は一度たりともありません」

「嘘!」

「そうよ!だったら何であんたが専属文官なのよ?」

「それは私の方こそ知りたいくらいです。私としても急な異動で大変な目に遭いましたので」


 半分は嘘だけど、季節外れの異動はそれなりに負担だったから、これくらい言っても罰は当たらないだろう。


「人事に関してご不満がおありでしたら、騎士団長か…王宮の人事院に問い合わせをお願いします」


 そう言うと、さすがに三人はそれ以上何も言い返してこなかった。実際、人事は騎士団長か人事院の管轄で、それに口を挟むのは越権行為で、大変に無礼な事だと言われている。それを理解したのか、言い返す材料がなくなったのか、文句を言って気が済んだのか知らないけど、私は無事その場から離れることが出来た。出来たのだけど…


『さっさと辞めろ』

『ブス』

『調子に乗るな』


 それから程なくして、私宛に変な手紙が届くようになった。内容は子供か?と言いたくなるほどの稚拙な罵詈雑言で、笑ってしまいそうなレベルだった。


(さすがに…これだけじゃぁね…)


 いっそ殺害予告なら脅迫として届ける事も出来るけど、これだけでは調べて貰うのは難しそうに思えた。時期的に出しているのはあの三人のような気がするし…


(まぁ、しばらくすれば飽きるでしょ)


 騒ぎ立てる方が面倒だと感じた私は、証拠として残すに留めてそれを放置する事にした。




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