侍女達に遊ばれています
副団長に命令されたら拒否出来ない術をかけられた私だったけれど、その後も変わりない生活を送っていた。唯一、副団長が陛下のお子だという事は絶対に他言するなとは言われたけど、それは最初から誰にも話すつもりはなかったから命令にもならないだろう。それよりもそんな重要な事を話す軽い人間だと思われたような気がして、何となく嫌な気分になった。
変な事を命じられたら嫌だなぁと思っていたけど、本人はそんなつもりはないと言うし、なんなら誓約魔法とやらをかけて誓ってもいいと言われた。さすがにそこまでする必要はないんじゃないかと思って、それは辞退した。
(何というか…色々と苦労していそうな気がするのよね…)
これまでは公爵家の三男として何の憂いもない薔薇色の人生送っているのだろうと思っていたのだけど、国王陛下の実子だったとなれば話は変わる。迎えた公爵家の方々の心情を想像するに、あまり幸せじゃなかったのかも…と思わないでもないのだ。どんな幼少期だったのか知らないけど、私が公爵家の方だったら凄く扱いに悩むだろう。そんな彼に新たな縛りを増やすのは、何となく気が引けたのだ。
それとあの後、副団長からネックレスを貰った。何でも魔術を使ったお守りだそうで、この件が終わるまでは肌身離さず持っているように言われた。
(お守りねぇ…そういうの、信じるタイプには見えなかったけど…)
そうは言っても上司命令だから仕方がない。それは深みのある青の中に金の粒が星の様に散りばめられた石で出来ていて、こんな宝石は見た事も聞いた事もない。魔術で作ったというのも納得だ。アクセサリーは着けない主義だけど、服の下に付けて見えなくしておけば問題ないだろう。
あの襲撃から一月ほど過ごした休日、私は侍女達に囲まれていた。最初は遠巻きにされていた私も、今では家令や侍女達とも仲良くなったのだけど…
「まぁ!お似合いですわ!」
「ええ、ええ。やっぱりプロポーションがいいとドレスも映えますわね」
「今日は情熱的で妖艶な深紅の薔薇のイメージですわ」
最近の侍女たちのお気に入りの遊びは、私を着飾らせる事だった。この屋敷に住むのは副団長一人で、しかも滅多に帰ってこなかったらしい。そんな中で婚約者として私が来て、侍女達がいいおもちゃを見つけたとはしゃぐのは想像に難くなかった。仕事中の小太りコルセット装着時とのギャップが一層燃えるらしい。よくわからないけど…
今日は深みのある赤に金糸の刺繍がアクセントになったドレスだった。身体の線を出すタイプで、スカートはその分広がりが抑えられている。確かに出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいないと残念だろう…
着飾らされた後は、サロンか庭でお茶をするのがいつもの流れだ。この屋敷の侍女頭のオブラン夫人は副団長の乳母であのラザール殿の母君だそうだ。今は私の教育係でもある。いずれお茶会に出る事もあるだろうと、侍女達を相手に模擬茶会という訳だ。練習なのでバンバン指摘が入って気楽にお茶も飲めないが、長い人生どこかで役に立つかもしれないと思って受けている。侍女達も貴族出身だから、彼女たちの勉強も兼ねているらしい。
「エリアーヌ様は所作もお綺麗ですわね」
「そ、そうかしら?マナーは苦手だったのだけど…」
これは事実だ。そもそも勉強に力を入れていてから、マナーは二の次三の次だった。
「それでは、お母様の教えがよろしかったのでしょうね」
「母の?」
「エリアーヌ様のお母様は王妃様の侍女をなさっていたとか?」
「ええ、そう聞いています」
「では、きっとその影響でございましょう」
オブラン夫人にそう言われて、確かにそうかも、と思った。子供の頃の母はマナーに厳しく容赦がなかった。叱られないように必死に頑張ったっけ…母のお陰で恥をかかずに済んだとなると感謝しかない。
その時、家令のリュックが現れた。何やらオブラン夫人に耳打ちすると、夫人の表情が曇った。何かあったのだろうか…
「どうかしましたか?」
「…申し上げにくいのですが…」
「もしかして…また?」
「ええ…」
眉をしかめるオブラン夫人に、私もまたため息が出た。




