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第一騎士団初出勤日

 一週間後、私は新しい職場の第一騎士団にいた。一週間の半分は引継ぎをして、残りは引っ越しのため私は生まれて初めて連続で休暇を取った。左遷されて仕事をする気になれなかった、と言うのが正しいかもしれない。上司が許可したんだから問題ないだろう。ない筈だ。

 ちなみに…退職するなんて道は私にはなかった。私が文官になったのは、実家を支えるためなのだ。母の負担を減らし、弟の学費と結婚資金も溜めるのが私の目標だ。まだ文官として四年目で平だけど、いずれは結果を出して出世だってしたい。既に婚期を逃した私には、もうその道しかないとも言えた。


(はぁ…せめて騎士団で好みのイケメンでも眺めて頑張ろう…)


 枯れた私の癒しは、天使のような弟とイケメン鑑賞だ。見るだけならタダだし、妄想なら傷つく事もないのだから。ついでに市井で流行っている恋愛小説も秘かに好きだったりする。生きる糧は何も現実でなくてもいいだろう。




「第一騎士団長のレニエ=グランデだ。よろしく頼む」

(うわぁ…ワイルド系のイケメン、だわ…)


 騎士団長室に通された私は、騎士団長でもあるグランデ様ににこやかな笑顔で迎えられた。三十代前半の彼は、銀色の艶やかな髪と澄んだ水色の瞳、優しそうな顔立ちだが身体はしっかりと鍛えられて、俗にいうマッチョの部類に入るだろう。それでも暑苦しく感じないのは、その色合いと洗練された所作のせいだろうか。彼からは騎士の荒々しさは感じられないから。王宮ではお目にかかる事のなかった、筋肉が素晴らしそうなイケメンが目の前にいた。ちょっとだけ頑張れそうな気がした。


「エリアーヌ=ミュッセです。浅学非才の身ではございますが、誠心誠意務めさせて頂きます」

「ああ、そんなに畏まらなくていいよ。こちらこそ急に来てもらって申し訳ない」


 そう言って騎士団長は軽く頭を下げた。彼は公爵家の後継者だと聞いていたけれど、とてもそうとは見えない腰の低さに驚いた。温厚で誠実な人柄だとの噂は本当らしい。前の職場では経験がなかった温かい歓迎に、少しだけギスギスしていた気持ちが解れた。


「前任者の事は?」

「…一応は」


 そう、私が急に異動になったのは、前任者が急に仕事に来られなくなったからだった。それも横領で懲戒免職という曰く付きだ。急な異動にはこのような理由があったのだ。そして私が前職場で連日残業三昧だったのは、こいつの不正を調べるためだった。二重の意味で許し難い人物と言えよう。もう牢の外には一生出られないだろうけど。


「すまないね、こちらの都合に振り回してしまって」

「いえ、仕事ですので」

「だが急な異動で負担をかけたのは事実だ。無理のない程度でやっていってくれ」

「ありがとうございます」


 そうは言ってもその言葉を鵜呑みにするほど私も馬鹿でも正直でもなかった。そんなのは最初の数日だけの話だろう。既に仕事が溜まっていて、今日から残業三昧かもしれない。うん、その可能性の方が高いと思った方がよさそうな気がする。


「失礼します」


 私が一人初日からの残業を覚悟していると、ノックの後に一人の男性が入室してきて、私は思わず息を飲んだ。黄金のように煌めく髪、切れ長の目と空の青さを閉じ込めたような瞳、スッと通った鼻筋に薄い唇。全てのパーツが完璧な形で、配置も完璧と言えばいいのだろうか。そこには爽やかさ満載のとんでもないイケメンがいた。しかも顔だけではなく、長身で服の上からも鍛えられているとわかる引き締まった身体付きだ。騎士にしておくのが惜しいくらいの逸材と言えるだろう。

 私の姿に気が付くと、その麗しい顔に笑顔を浮かべた。妙齢の女性が見たらそれだけで黄色い悲鳴が上がる事間違いなしだろう。だが私はそんな彼を冷めた目で見ていた。


「ああ、ミュッセ嬢。彼が君の上司になるアレクサンドル=ブーランジェ。第一騎士団の副団長だ」

「アレクサンドル=ブーランジェです。お久しぶりですね、エリアーヌ=ミュッセ伯爵令嬢」


 にこやかに声をかけられた私だったが…私の心には厳冬のブリザードが吹き荒れていた。




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