優良物件?不良物件の間違いでは?
あれから湯あみの準備が出来たとドアの外から声がして、奴から離れたかった私は湯あみをさせて貰う事にした。とにかく一人になりたかったのだ。情況を整理したかったし、事後の確認もしたかったのだけど…
「な…な…に、これ…」
鏡に映ったのは、肌のあちこちに付けられた…いわゆるキスマーク、だった。しかも数が半端ない。これって…事後の確認の必要、なくない?
(な、なんて事してくれたのよ…!)
見えるところにも付けられているのを発見した時、殺意が生まれたのは仕方ないだろう。涼しそうな顔してどんだけ盛ってんのよ、と思った私は間違っていない筈だ。学園時代も令嬢を侍らしていたけれど、その本質は変わっていなかったのだ。
(…少しは見直してもいいかと思った…私の気持ちを返せ…)
湯あみを済ませた私は、どこから出してきたのかわからない品のいいディドレスを着せられた。その後侍女が朝食を運んできて、今はソファで奴の膝の上にいるのだけど…この状況は何?今後の話をしようと言われたけれど、それと今の体勢が全く結び付かなかった。
(ナニ、コノしちゅえーしょん…)
もう私の思考の範囲外の展開に、私の脳は完全にフリーズしていた。いや、この状況で喜べる人なんているんだろうか…少なくとも私は喜べない派だ。
「それで、どういう事ですか?」
「どうって何が?」
「何がって…何で結婚するって話になっているんです?私、承諾した覚えはありませんが」
ここまで流されて今更完満載だけど、抵抗しないわけにはいかない。こんな下の緩い男と結婚なんて絶対に嫌だ。
「ええ?だって昨夜、言ったじゃないか」
「…い、言ったって…何、を…」
マジで何を言ったんだ、私…!嫌な汗が背中を流れた気がした。もうこのまま逃げ出したいと思ったけれど、知らない方が怖い気がする。悔しいかな記憶がない以上、こいつから聞き出すしかないのだ不本意だけど。最も、本当のことを言うのかも怪しいけど…
「ずっと一緒にいたいって」
「…は?」
「俺とずっと一緒にいたいって言ってくれただろう?」
「は?」
「それで結婚するかって聞いたら、するって答えた。だから結婚しようと決めた」
「…え?あ、あの…それだけ、で?」
「ああ」
「…そ、それって…酔った上での戯言で…」
「酔ってないって言い張ったの、エリーだけど」
「そ、それを酔っ払いの戯言っていうのよ!!!」
思わず立ち上がりそうになってしまったけど、膝の上で腰をがっしりホールドされてそれは叶わなかった。何言ってんの、こいつ?そんなの、酔っ払いの戯言あるあるじゃない!
「そ、そんなんで結婚だなんて…」
「そうか?でも、エリーは見た目も可愛いし、身体は色っぽいし、しかも優秀でしっかり者じゃないか」
「………は?」
「妻にするのに、こんなに何もかも兼ね備えた逸材、そうそういないぞ?」
何だか予想外に褒められている気がしたけど…これ何?褒め殺しってやつ?どこをどうしたらそんな解釈が出来るのかわからないんだけど…
「で、でも…うちはしがない伯爵家で…」
「それを言うなら俺だって今はしがない伯爵だ。それにミュッセ家は歴史ある由緒正しい家柄だろうが」
「でも、貧乏で持参金も出せないし…」
「そんなの大した事じゃない。金なら援助できるくらいは稼いでいるし」
「で、でも…」
「金は稼げば済むし、外見なんていくらでも誤魔化せる。でも、中身はそうはいかない。俺と引けを取らないほど優秀で努力家で忍耐強い女なんて滅多にいない。エリーは自分で思う以上に優良物件、掘り出し物だよ」
(……優良、物件…って、私、が…?)
好みのイケメンが爽やかさ増し増しで微笑んできたけど…これまでに散々王宮で闇な部分を目にしてきた私は、その言葉を額面通りに受け入れる事は出来なかった。




