休んだら異動させられました?
「異動…ですか?」
久しぶりに休みを取って出勤した私に待っていたのは、季節外れの異動命令だった。
「そうだ。来週から第一騎士団に異動して貰う」
(はぁあ?だ、第一騎士団って…しかもこの時期に?)
突然の異動命令に、私は直ぐに言葉が出てこなかった。一体どうして…何で…と頭の中を疑問符が飛び回る。こんな時期に異動なんて聞いた事もない。
(ウソ…もしかして、休みを取ったから左遷、とか…?)
私の頭に浮かんだのは、約二か月ぶりに取った昨日の休みだった。騎士団の不正に関わる書類の監査が急に入って、この一月ほどは日付が変わる頃まで仕事をしていた。その山を乗り切ったところで目の前の上司から、顔色が悪いから休めと言われて昨日休みを取ったのだ。それでも同僚たちからサボるのかと小言を言われるくらいには、ブラックな職場だけど…
「もしかして…昨日休んだから、ですか?」
「………そんな理由で異動になる筈がなかろう」
「…その間は何ですか?」
「思いがけない事を言われて…驚いただけだ」
(目泳いでるんだけど!それ、絶対嘘ですよね!)
そう言いたくなったけど、そこはぐっとこらえた。
「じゃあどうしてですか?これまで殆ど休みも取らず、業務だって他の方に負けないくらいの量はこなしてきた筈です。この前だって領地の不正を見つけましたし」
「君の能力に何ら問題はなかったよ」
「だったら…」
「これは上の決定なのだよ。異議があるなら私ではなく上に言ってくれ」
目の前の直属の上司は、神経質な眉を更に神経質そうに歪めた。そう言われてしまったら、こちらとしては返す言葉もない。だって上司の言う「上」とは公爵家のご当主様と言う、しがない貧乏伯爵家の私なんかにしたら雲の上の人だ。そんな人に異議なんか申し立てたらその日のうちに首になりかねない。
「ここの仕事はいいから、異動と引っ越しの準備をしなさい」
「…畏まりました」
私はエリアーヌ=ミュッセ。没落寸前の伯爵家の長女で、既に行き遅れの二十二歳だ。実家が貧乏で容姿も平凡、魔力もない私は、多額の持参金が必要な結婚を早々に諦めて文官になる道を選んだ。文官にしたのは、王宮の侍女は容姿も重要な要素の一つだったからだ。噂では見た目が九割とも言われている。
自分の外見を磨くなどという不確定なものに時間を費やすよりは…と必死に勉強して、国内一難関と言われる王立学園に学費免除の特待生として入学した。その後も恋だ友情だと学園生活を楽しむ周りをよそに、ひたすら勉強に励んで次席で卒業して、この会計監査局に就職したのだ。
本当は宰相府を希望していたけれど希望は通らなかった。私よりも成績が下のクラスメイトが宰相府に入ったから、きっと身分とコネが足りず女だったからだろう…この世は男性に都合がよくて、女性には世知辛い。まだまだ働く女性が少ないのもあるのだろう。今の職場だって、女性は私一人なのだから…
(ここまで頑張ってきたのに…いきなり左遷とか信じられないっ!)
寮の部屋に戻った私は、枕を相手に鬱憤を晴らすしかなかった。上司の決定に異議を唱えても、待っている未来に明るい要素は欠片もない。身分が絶対のこの世界では、上司の言う事は絶対で、それが上の身分ならなおさらだ。下っ端は下っ端らしく大人しく従うのが、この世界では当り前だから。それにしても…
(散々こき使っておいて左遷ってどういう事よ?!男だからって仕事出来るわけじゃないんだけど?第一、ここ数日帰りが遅かったのも、仕事が遅い奴の尻拭いもあったんだから!)
そう、私が在籍している王宮の会計監査局は業務量が多く、過酷で王宮一のブラック職場とも言われている。残業休日出勤は当たり前、マジで休みを取るとサボったと嫌味を言われるような部署なのだ。
それでも…必死に食らいついて男性に負けないくらいには仕事をした。いや、男性に負けたくないと彼ら以上に仕事に打ち込んできた。それなのに…
(あああ、もう!女になんか生まれなきゃよかった!)
そう思わずにはいられないほど、この世界は男性優位で世知辛かった。




