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しいな ここみ様主催企画参加作品

桃源郷


昔から極寒の地にある大雪原の何処かに、異世界に通じる道があると語り継がれてきた。


暴風が吹き荒れ雪に視界が遮られた時、猛吹雪で真っ白な壁の先に桃源郷を思わせる暖かそうな風景が見えると言う。


ただ、見たと言う者は多数いるが、行って帰ってきたと言う者は1人もいない。


桃源郷を思わせる暖かそうな世界に行くことは可能だが、帰って来られない道なのだろう。


此の極寒の地に生きる狩人の家に生まれ育ち祖父や父と同じように狩人になった私も、大雪原で猛吹雪にあった時に幾度となく、暖かそうな風景を見ている。


だが私にはあの世界が桃源郷だとは思えなかった。




今数台のスノーモービルが、雪が降りしきり猛烈な風で舞い上がった雪が視界を遮る大雪原を疾走している。


その数十メートル後方にも十数台のスノーモービルが疾走していて、前方を走る数台のスノーモービルを操縦している者たちに停止するよう繰り返し命令していた。


「止まれー!」


「スノーモービルを停車させろー!」


前方を走る数台のスノーモービルに乗っているのは、強盗殺人事件を繰り返し行っていた犯罪者のグループ。


犯罪者の乗るスノーモービルを追っている十数台のスノーモービルには、此処まで犯罪者のグループを追い詰めた警官隊の警察官たちが乗っている。


犯罪者グループの操る数台のスノーモービルの前方が舞い上がった雪で真っ白になった。


そしてその真っ白な壁の向こう側に暖かそうな世界が透けて見える。


犯罪者グループが操る数台のスノーモービルは歓声を上げる者たちを乗せたまま、その暖かそうな世界に走り込んで行く。


警官隊を案内して、警察官たちが操るスノーモービルの先頭を走っていた私はそれを見てスノーモービルを横滑りさせながら停車させる。


私のスノーモービルに邪魔され、後ろを走っていた警察官たちが操るスノーモービルも停車した。


「「「「退けー!」」」」


私に追跡を邪魔された警察官たちが怒鳴り声を上げる。


「退いて貰えませんか、やっと、やっと、彼奴等を此処まで追い詰める事ができたんです」


私が操っているスノーモービルの後部座席に座っていた、警官隊の指揮官が私に言い聞かせるように言う。


「それは分かってます。


でも、あの暖かそうな世界に行ってしまったら二度と此方に帰って来られません。


此処から見る限りでは桃源郷のような世界に見えます。


でも違うんです。 


私は此の大雪原で暮らしてきて、幾度と無くあの桃源郷のような世界を見ました。


中には本当に桃源郷のような世界もあるかも知れません、でも、殆んどの世界は違うんだ! 


恐竜のような生物が闊歩している世界、人が人を狩り狩った獲物である人を食べてる世界、二足歩行の犬や猫のような生物が人を奴隷としている世界、巨大な虫や蜘蛛が弱肉強食している世界、身体中に火傷痕があったりケロイドで覆われた身体の人たちが屯している世界など、桃源郷には程遠い世界の方が多いんです」


私の話しを聞いた警察官たちは悔しそうに顔を歪ませた。


私は段々と薄れていく真っ白な壁の向こうの桃源郷のような世界に目を向ける。


目を向けた先、桃源郷のような世界の中では、桃源郷の世界に逃げ込んだ連続強盗殺人の犯人たちが右往左往して、二足歩行の豚のような生物に追いかけ回され狩られていく姿があった。


「ほら、あれを見て!」


私はそれを指差しながら警察官たちに声を掛ける。


連続強盗殺人犯たちは持っていた銃器で抵抗しているようだが、多勢に無勢で数に圧倒され男は狩られ女は生け捕りにされていく場面を私たちに見せてから、桃源郷のような世界は私たちの前から消え去った。











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― 新着の感想 ―
[良い点] 語り手はなんでそれを知ってるんだと思っていたら……見えるんですね、雪の降る隙間に(°´˘`°) 甘い幻想で誘い込んで獲物を狩る──なんて賢い蜘蛛のようなやつらなんだ(๑•̀ㅂ•́)و✧ …
[一言] 成る程ねW 此れは確かにW 桃源郷と言えるわ。
[良い点] 桃源郷のような世界。 魑魅魍魎みたいで神出鬼没の妖怪のようです。 で、こういったものの恐ろしさや、それに対する対策といったものは、昔から山村では代々伝わっているとしたものですね。
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