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怪異専門探偵事務所  作者: 燃える積乱雲
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第一話 春は変態が大量発生する季節です


 今日は大学生活スタートの大事な日。

 なのに僕は、さっそくとんでもない失敗を犯してしまったのかもしれない。

 内心でため息をつきながら、引寄ひきよせ 幽太郎ゆうたろうは隣の人物を見る。

 一限にある第二外国語の講義である『フランス語基礎1』はもうそろそろ始まろうという気配を見せている。

 担当講師であろう初老の男性は、さっきから教卓でパソコンをプロジェクターにつなぐのに忙しそうにしているし、幽太郎のまわりの新入生もいそいそと教科書のページをめくってみたり、さっそくできたのであろう友達と会話に花を咲かせながらも、「もうすぐはじまりそうだねー」「ねー」と今から始まるであろう大学に入って最初の講義に少し身構えている人も少なくない。

 少なくない、というか、そういう人が大半である中で、幽太郎の隣に座っている男子学生はそんなことは気にする風でもなしに、一心不乱にTvitterのTLをスクロールしながら、流れてくる画像にいいねを押しているのだった。

 そして幽太郎は気づいていた。その画像すべてがやたらと肌色であり、いわゆるエロ絵やグラビアアイドルのものであることに。

 そしてさらに言うならば、このことに気づいているのは幽太郎だけではない。

 その血走った眼をした男子学生の後ろに座っている女子連中はドン引きの目でそれを見ているし、男子生徒の隣に座っていた、すなわち幽太郎から見て男子生徒を挟んだ位置に座っていた女子学生は、慌てた様子で机の上に広げていた教科書なんかをまとめ、もっと前の方の席へ移動していった。

 いやまだ遅くはないはず、僕も別のどっか空いてるとこに移動しよう。

 幽太郎がそう思いなおして椅子から腰を浮かそうとした直後、しゃがれ声で「時間ですね、それじゃあ講義を始めましょうか」という男性教諭の声が教室に響き渡った。

 くそっ…! 判断が遅かった…!

 これで今期の授業はこいつとずっとペア組まなきゃいけない、なんてことになったら最悪だぞ…。

 軽い後悔をかみしめながら、幽太郎は仕方なく椅子に座りなおす。

 そして幽太郎のその予想は、早くも当たることとなる。

「うーんと、見たところいい感じに座ってくれているから丁度二人組のペアが組めそうですね。今期はこの二人組のペアでグループワークなんかも進めていきますから、先ずはお互いに自己紹介なんかをお願いします。まあ、初回なので、ゆるくいきましょうね。ちなみに私はこのフランス語基礎1の授業を担当します中山と申します。」


 うわー、どうしよう。この講義捨てたいなあ。でも必修だしなあ。

 そんなことを考えながら幽太郎はとなりの変態らしき人物に向き直ると、自己紹介を始める。

「は、はじめまして。引寄 幽太郎って言います。歳は今年で19になります。趣味は、えーっと、読書とか…? とりあえずよろしくお願いします」

 スマホを見ていた変態(仮)の目が初めて幽太郎の方に向けられる。

 変態(仮)らしからぬ真っ黒でまっすぐな目。いや、変態(仮)だからこんなにもまっすぐな目をしているんだろうか。

 変態(仮)は至極失礼なことを考えながら、恐る恐る相手のリアクションを待つ。

「なんかあれだな、ヒ〇アカだったら幽霊を呼び寄せる個性持ってそうな名前だな」

 これまた非常に失礼な変態(仮)のリアクションに対して、幽太郎は怒るでもなくあきれるでもなく、非常にどぎまぎしていた。

 なぜなら、目の前の変態(仮)が言ったことはあながち間違いではないからである。

 事実幽太郎は、霊視や霊触が可能であるし、自分や自分のまわりの人間のもとに怪異や怪奇現象を呼び寄せる特異体質なのだった。

「ひ、ヒ〇アカ読んだことないからあんまよくわかんないけど…」

 こんな変態(仮)そうなやつに自分の特異体質を言い当てられた動揺で、幽太郎の声は上ずっていた。

「えっちなコスしたヒーローなんかもいっぱい出てくるからおすすめの作品だ」

「そ、そうなんだ…」

 恥ずかしげもなくそんなことを言う変態に、幽太郎はそう返すしかなかった。

 後ろの席の女子からの冷ややかな視線が痛い。ていうかちっさい声で「うわキモ…」って聞こえてきた気がする。気のせいじゃなければだけど。

「で、自己紹介すんだっけ?」

「そ、そう」

「名前は絵呂山えろやま みだら。今年で21歳になる。趣味はソープ通い!」

 明らかに付近のグループから視線が集中しているのが幽太郎にはわかった。

 入学早々この変態のせいで僕まで悪目立ちするのは避けなければいけない。なんとかして話題を変えなければ。

「こ、今年で21歳ってことはもしかして再履の先輩だとかそいういうことだったりしますか? 授業前もやけに落ち着いてたし…」

「いや、普通に二浪しただけだけど」

「あっ…、そうなんですか…。確かにうちの大学、浪人の人も結構多いって聞きますもんね。この大学でどうしても勉強したいこととかあったからですか?」

「そういうわけじゃないけどな、バイトしながらだと中々勉強時間も取れなくてさ。結局二浪もしちゃったんだよな」

「すごいですね! 学費稼ぎながら勉強だなんて」

 そう返す幽太郎を遮るようにして、みだらはチッチッチと指を横に振る。

「俺がバイトしてたのは風俗代を稼ぐためだ!」

 ワ〇ピースで出てくるみたいなドンッ! という効果音が聞こえてくるほどの堂々とした回答に、幽太郎は勘違いしてちょっとすごいと思ってしまった自分を恥じるしかなかった。

「いやーめっちゃなついわ。俺住んでるところ地方だからさ、わざわざソープ行くためだけに吉原遠征なんかもしたんだよな」

 もはや幽太郎には、「あ、へえ…」と返事をする選択肢以外は与えられていないのだった。


 その後の自己紹介の時間も、エロの話題からなんとか引き離そうとする幽太郎の涙ぐましい努力は続いたが、それはすべて徒労に終わるのだった。

 なんでフランス語を選択したのかを聞いてみれば、フランス人は巨乳が多そうだからと返ってくるし、サークルは入らないのかと聞けば、もちろんやりさーに入りたいと返ってくるどころか、お前もぜひ一緒に入ろうと幽太郎まで誘われる始末だし、好きな食べ物は何だと聞けば、牡蠣でそれは精力がつくし何より昔媚薬として使われていたからだと謎のエロ豆知識を披露される有様だった。

 そして諦めて幽太郎が口をつぐめば、なぜかみだらの方から彼女は居るのかとか、彼女のカップ数は何だとか、普段どんなプレイをしていて性癖はどんなのだとか、完全に倫理観が死んでしまってるとしか思えない質問の数々が飛んでくるため、結局幽太郎は嫌でも何かしら質問するしかなかったのだった。


 この大学生活初日の初授業にて、すでにみだらのせいで悪目立ちしてしまった幽太郎は、あこがれていた大学生活が音を立てながら崩れていくのを感じていた。

 そしてやっとの思いで乗り切った大学初授業の後、幽太郎はみだらの提案で、なぜか一緒に学食を食べに行く羽目になるのだった。


 これはそんな(幽太郎にとっては)最悪な出会いから始まる、ちょっと変わった二人の青年が紡いでいく物語である。

 


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