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ハナコ・プランバーゴ  作者: ノコギリマン
42/53

41:遅い夕食

 あらかた構内を物色し、地下階で得た記録映像以上の収穫は望めないと判断したハナコたちは、秘密研究施設をあとにし、携帯電話の電波状態が良好な場所――秘密研究施設付近のカムフラージュされた電波塔の付近――まで移動して、マクブライトがレーダーマッキーに送った映像の解析の結果を待ちながら、ほとんど夜食といっても差し支えのない、遅い夕食をとることにしていた。


 食事は、缶詰やフリーズドライ食品やレーションなどの味気ないものばかりだったが、それでも疲れきった身体は喜んでいるようで、咀嚼(そしゃく)された食べ物が滑り落ちてくるたびに、胃袋が無邪気に小躍りしているのをハナコは感じた。


 だが旅に出てからほとんど口をきかなかったアリスは、秘密研究施設で行われていた、人倫に(もと)るおぞましい研究を知ったショックからだろう、今までに輪を掛けて口を真一文字にかたく引き結び、枯れた向日葵のようにうなだれたまま、出された食事にはいっさい手をつけようともしなかった。


「大丈夫か?」


 訊いて、すぐにその言葉の白々さを後悔する。


 大丈夫なわけがない。


 言わずもがな、だ。


「気持ちは分かるけど、少しでも食べておいたほうがいいよ」


 トキオの優しい声音にも、アリスは無反応のままだった。


 アウトドア用の、傘のように開閉可能な、円錐を逆さまにした小さなコーヒーメーカーでコーヒーを淹れたマクブライトが、使い込まれたステンレス製のマグカップから立ちのぼる湯気をいちど鼻で(たしな)んでから、アリスの前に置いた。


 それでもやはり、膝をかかえて縮こまるアリスは、魂がその儚く小さな身体から抜け出てしまったかのように、虚ろな目を地べたへと落とし、視線の先のチスイアゲハの亡骸に自らを重ね合わせているかのように、無言を貫いていた。


 この旅をはじめてから何度目かの、重い雰囲気に耐えきれなくなって思わず立ち上がったハナコは、自らまねいた無聊(ぶりょう)をごまかすために両腕をあげて取って付けたかのような伸びをした。


 あばらが、痛む。


 九番を出てこのアンバ山へと辿り着くまでのあいだに、一体、どれほどの()()()()を負ってしまったのだろうか? 


 いや、自分ばかりではなく、トキオやマクブライトにしても、身体のいたる箇所を負傷している。


 だがやはり、いま最も傷ついているのはアリスに間違いない。


 かけてやる言葉が見つかるはずもなく、相棒と護送屋もともに同じ気持ちを顔に浮かべて押し黙っていた。


 山を包みこむ闇の静寂(しじま)が、あばらに貼りつく疼痛(とうつう)を、より深いものへと塗り替えてゆく。


 と、突然、携帯電話の着信音が静寂の暗幕を揺らし、出ると、レーダーマッキーからだった。


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