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4つならべて。

 翌日リョウヤはまずラピのいる岩場へ行った。そこでエイタとヒデトと待ち合わせをしている。そして自分たちの作戦をラピに報告し、それからヒデトの家で作業を始める流れだ。抜け出せない蜃気楼の中を歩いて、リョウヤはいつもの岩場までやって来た。リョウヤが着てしばらくすると、ラピが海面に顔を出した。

「リョウヤ!ちょっぴり久しぶりね」

 リョウヤもにこりとした。

「やあラピ。久しぶりだね。ちょっぴり」

 リョウヤが岩場に腰かけて足を海へ投げ出すと、ラピがするすると近寄ってきた。

「おーい!」

 ヒデトとエイタが岩場の上からやって来た。ヒデトは片手にスーパーの袋を持っていた。途中転びそうになりながら岩場を下って来て、リョウヤとラピの前まで来るとヒデトはいつもの通りに、にかっと笑った。

「人間の王子さまから、スペシャルなお土産だぜ、人魚姫!」

 ラピの顔には岩場の影が落ちていたにもかかわらず、真っ赤になったのにその場にいた全員が気づいた。

「ばか!」

 ラピは顔半分まで海に潜ってそう叫んだが、隠しきれない好奇心が瞳を通してヒデトのスーパーの袋を直視していた。ヒデトはまんざらでもなさそうに胸を張ると、もったいぶって中身を出した。お土産とは、アイスだった。ヒデトは四つのアイスを岩場に並べてひとつひとつ指をさして説明した。

「これはソーダ味。緑色で綺麗だぜ。こっちはバニラ。白いけど、たまに黒い粒粒がある。しかしそれはバニラビーンズというもので、品質上の問題はないのだ!んで、こっちはチョコな。これはちょっと苦いけど、まあ、アイスだし基本は甘いわな。それからこれは桃!他にもいろいろ果物の味があったんだけどさ、ほら、ラピの鱗と同じ色じゃん、なんか喜ぶかなーって」

 ラピはヒデトの説明に頷きながら、目の前に置かれたアイスたちを興味津々に観察していた。

「ラピ、好きなの選んでいいぜ。あ、でも全部は無しだかんな。俺たちも食いたいから」

 ヒデトがそう言うと、ラピは頬を膨らませて、わかっているわよ、と言ったがどれにするかなかなか決められないようだった。そのうちアイスが溶けてしまうんじゃないかしらと、その場にいたラピ以外全員が不安になった。しびれを切らしたヒデトがラピを催促しようと口を開きかけたちょうどその時、ラピが一番端のアイスを選んだ。

「これ!」

 エメラルドのような色をしたそのアイスは、ヒデトが最初に紹介したソーダ味だった。桃味のアイスを選ばなかったのが意外だったらしく、ヒデトが聞いた。

「なんだ、どうして桃味選ばなかったの?ラピの鱗とおんなじなのに」

 するとラピは螺鈿の瞳を嬉しそうに輝かせて、少し頬を赤らめながら答えた。

「おんなじだから、選んだのよ」

 ヒデトはまだ納得していないようだったが、アイスが溶ける前に胃に納める方を優先した。ヒデトはバニラの、エイタはチョコの、リョウヤは桃のアイスを手に取った。

「いただきまーす」

 四人で声を揃えてアイスを食べた。一口食べたラピのその表情に、リョウヤもヒデトもエイタも笑った。冷たくて驚いて目を見開いていたが、その瞳は感動で輝いていたのだ。

「最高の食べ物!」

 ラピはそう言ってにこにこしながらソーダ味のアイスに再びかじりついた。

「ねえ、これもう一本もらえないかしら。持って帰りたいわ!」

 あっという間に半分ほどたいらげたラピがヒデトにそう言った。けれどヒデトは眉をひそめた。

「あー。いや、別にあげるのはいいんだけどさ、アイスって、すぐ溶けるんだよね」

「溶ける?」

 ラピが首をかしげると、ちょうどリョウヤの桃味のアイスが棒から外れて岩場に落ちた。べちゃっと絶望の音がした。

「あ」

「あ」

「あ」

「あ」

 四人全員が同じ平仮名を選ぶと、ヒデトが肩をすくめて、こういうこと、という仕草をした。ラピは少し驚いた顔のまま、海の中に少し沈んだ。

「なんだ。溶けてしまうのね。素敵な食べ物なのに、あっけないわ」

 ラピはそう言うと自分の残りが溶けて海に落ちてしまわないうちにと、急いで口に押し込んで、頭を叩いた。どうやら人間も人魚も冷たいものをかき込むと同じような反応をするらしいとリョウヤは秘かに心に記録しておきながら、足元に落ちた桃色のアイスの残骸を眺めた。満潮になれば、きっと海に溶けてしまうのだろう。


 アイスを食べ終えたリョウヤ達は、昨日描いたスケッチブックをラピに見せた。ラピは、自分はこんなに髪は長くないと主張したが、そこはさほどの問題ではないのでリョウヤは適当にあしらった。今日はラピが入るにはどのくらいの桶を用意すればいいのかを話し合うのが第一なのだから。

「まあ、桶は桶でも手桶ってわけにはいかねーよな。味噌造る時のあのでっかい桶はでかすぎるし。その中間くらいの桶がオッケーてか?」

 ヒデトが食べ終えたアイスの棒を口にくわえながらそう言ったが、残りの三人のうち誰も反応しなかった。

「ラピはどういう態勢でいるのがいいと思う?万華鏡山まで僕らの手で台車を押したら一時間はかかると思うんだ。その間座っているか、立っているか、寝ているか。寝るんだったら桶というより、たらいのような形の方がいいかもしれないし」

 リョウヤがそう言いながらたらいの形を簡単にスケッチブックの端に描いてみせた。ラピは顎に手を添えてうーんと唸った。

「そうねえ。でも今こうしているのを考えると、立っているのが一番楽なのかもしれないわ。座るのはあまり好きじゃないのよ。鱗に変なクセがつくんだもの」

「じゃあ決まり。桶のままでいこう。高さはどうしようか。どの辺まで水があってほしい?」

 リョウヤの問いに、ラピはすぐさま答えた。

「そりゃもちろん頭まで全部あってほしいわ。でも無理だっていうんなら、そうね、肩まででも我慢できるわ。時々水に顔をつけないといけないだろうけれど」

「なんとか頭まで水が入れるぐらいの高さにするよ」

 リョウヤはそう言いながらスケッチブックにメモを取った。それから巻き尺でラピの身長を測り(ラピの身長は小柄なエイタとほぼ同じだった)、木の厚さや光の入り具合など、できる限りラピが居心地よくいられるよう考えた。しばらく質問攻めにあったラピがしまいには呆れるほどだった。

「ねえ、リョウヤ。私、確かにあなたに出会った時は倒れていたけれど、そんなにヤワじゃないのよ?多少居心地が悪くても悪条件でも、死にはしないわよ」

「でも万が一ってことも考えないと・・・。脈拍とか血圧を把握する術も考えないと。心肺蘇生って、人魚も人間も同じかな・・・」

 リョウヤがぶつぶつそう言い続けるのでラピはいよいよ目をぐるりと回し、ヒデトがリョウヤの肩を小突いた。

「お前は医者かよ。小学生らしくどーんとやれ、少年!」

「ヒデトも同じ年でしょ」

 ラピがくすくすと笑い、その笑顔を見てリョウヤもすっと肩の力が抜けた。


 それからリョウヤ達はラピと別れ、ヒデトの家に向かった。


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