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……なんかすみません

「えーっと……ですね。あのー、その、盛り上がっているところ、大変申し訳ないのですが、冥界から帰ってきたばかりで……疲れています、ので……えー、少しばかり、休ませて欲しいのですが……」


 周囲を見回しながら、俺はノートに書かれている文字を読み上げた。


 モンスターたちはどうしたものかと顔を見合わせあっていたが「それもそうだよなぁ」「冥界帰りだもんなぁ」とか納得したり「オツカーレさまでした〜」「オヤスミィ〜ですぅ」「とってもとってもお疲れ様でした!」「ゆっくり休んでくださいね」などと労いの言葉を掛けてくれたりした。


 そんな言葉をかけ続けられる中、ゴレ子が「それでは、私室にご案内いたします」とガッシャンガッシャン歩き始めたので俺も慌てて後を追い、見送ってくれるモンスターたちの視線から逃げるように、いそいそとその場を後にした。


 広間の外は石造りの廊下だった。

 深い赤い色の絨毯が敷かれており、両サイドには等間隔に設置された松明があり、辺りを照らしている。


 ゲームで何回も目にしたような如何にも魔王の城っぽい廊下。

 そこを歩いている。

 真っ黒で体重なんてなさそうだが足の裏が地面に触れている感覚はあるので、浮いているのではなく歩いている。という方がしっくりくる。


 ただ、自分の足音はしない。

 響くのはゴレ子の機械音だけである。


 ガッシャン、ガッシャン。


 ガッシャン、ガッシャン。


 魔王ノートによるとここは異世界の魔王城との事だったが……機械音が響き渡る魔王城というのは何だか不思議なものだ。


 まあ不思議といえばさっきのモンスターたちとか俺のこの体とかも不思議なのだけれども……。


「あ……」


 そういう思いが頭を過ると、魔王ノートに光が灯った。


 不思議。

 疑念が浮かぶと答えをくれるようである。


 このノートもまた不思議なアイテムだ。


 作成者は先代の魔王、ヤマダ。


 どこにでもいそうな日本人的な名前の魔王。


 ノートの記述からして先代の魔王も俺と同じような境遇だったようだが……。


「魔王様、私室に到着いたしました」


 ウィ、ウィーン、ガシャン。と、ゴレ子が扉の前で一礼した。


 示された先には、木造りの古めかしい扉。

 この先にあるのが魔王の私室らしい。


「大変お疲れ様でした。今宵はどうぞごゆるりとお休みくださいませ」


「あ、ああ……はい……どうもありがとうございます」


「何かご用があればいつ如何なる時でも連絡をくださいませ。私は魔王様に造られたゴーレムです。疲れを知らず、ワープしてすぐに駆けつけます」


「え? ワープ?」


「はい。私には魔法によって空間を湾曲しワープ移動出来る機能が搭載されております。短距離移動や戦闘時に使用するブースターも付いております。ブースターは両足と両肘にあり、移動速度を上げるだけでなく、打撃を加速させる事で破壊力を向上させる効果もあります。更には戦闘時の余剰熱を排出する事で限定的ですが空中で多角的な移動も可能にしております」


「……へぇ、へぇ〜」


 何だそれは……凄い……。


「ついでに申し上げますが、他にも様々な機能が付いています。掌の真ん中にあるこの丸い所からは衝撃派のようなビームが出ます。眼鏡を外せば目からも出せます。魔法で造られた非実体型ミサイルが両肘と両膝に。実体型ミサイルが両胸とお腹に搭載されております。私の全身は衝撃を吸収して任意のタイミングで放出可能な特殊合金で造られております。手の甲の付近からは同様の特殊合金製の鋭利な爪も出せます。つまり全身が武器と言っても過言ではないのですが、盾や弓、ハンマー等の扱いも得意です」


「そ、そうですかぁ……」


 めっちゃ能力盛ってるじゃないですかぁ……。

 一体どれだけ過激な戦闘を想定して前の魔王はゴレ子を作ったのか。

 世界が終わるくらいの戦いでも充分通用しそうなスペックだ。

 

「一キロ先に落ちた針の音を聞きつける事も出来ます。魔力感知、動体感知、熱源探知、空間認識能力に長けており、索敵も得意です。更にそれらを総合し、状況を多角的に分析する事で擬似的に第六感を再現した超感覚も備えております。自爆機能も搭載されております」


「いや自爆はダメですよ」


「自爆は男のロマンなんだよぉぉぉぉ! と叫び私にその機能を搭載したのは魔王様なのですが。どうやらその辺りの記憶も失っておられるようですね」


「……なんかすみません」


「謝罪する必要などございません。冥界行きにより記憶を失うのは仕方が無い事ですので」


「……」


 本当になんかすみません。

 その失ったと思っている記憶すら俺には無くて。

 俺は申し訳ないようなでも俺のせいじゃないんだし別に謝らなくてもいいんじゃないかなぁというようなけどやっぱり何となく申し訳ないようなぁという気がしないでもない複雑な気持ちになった。


すごくどうでもいい余談。

学生の頃は外国人の方が多い環境にいたのだが、そこで「お疲れ様でした〜」というと「What's オツカレサマ?」と問われた。英語が堪能な人によると「お疲れ様」は「Good job」に相当するとのことだが、私個人の感覚からすると「グッジョブ!」とは「よくやった!」であり、どうもしっくりこない。外国の方もそう思われていたようで「グッジョブはなんか違う気がするんだよなぁ〜」という反応。ならばこれは日本の言葉として扱うしかなく「お疲れ様」は「オツカレサマ」と言うより他無し。という結論に至り、皆「オツカレサマ」と言うようになったのであった。「お疲れ様」は当たり前のように日々使っているが中々に難しい単語であると思う。

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