魔王ノートの記述〜魔王と成った者へ〜
自己紹介をしておこう。
我輩の名はヤマダ。
先代の魔王であり、万が一次の魔王となる者が現れた時に備えてこのノートを作成した者である。
最初に誰もが思う事について記しておく。
夢だと思っただろうが、これは夢では無い。
現実だ。
ここは君がいた世界とは異なる世界。
つまりは異世界である。
異世界の魔族が統治する国の、その最奥にある魔王城の復活の間に君はいる……はずである。たぶん。確証はないが、それを前提として続きを記す。
真っ先に抱く疑問。それは、ここはどこなのか? ではないだろうか?
それが解消されたのならば次に浮かんでくるのは、何故ここに自分はいるのか? ではないか?
答えよう。
君が死んだから、だ。
正確には、君の魂がこちら側に連れてこられた。という事になるが、あちらの世界で君の肉体は魂を失い生命活動を停止したはずなので、死んだと表現してもおかしくはないだろう。
では君は何故死んだのか? という疑問が出てくるが、これにも答えよう。
復活の魔法によるものである。
今君が入っているであろうその棺が復活の魔法に必要な物なのだが、説明するととても長くなるので復活の魔法についてはそのページを参照にされたし。
今知るべきは復活の魔法についてでは無い。
話しを戻そう。
全く状況が掴めず色々と驚いていると思う。
気持ちはよくわかる。
我輩もそうだった。
今、君の目の前には大勢の半人半獣のモンスター達がいて大騒ぎをしているはずだ。
初めは愉快に。
そしてすぐに彼らは哀しみ沈む。
わけがわからない。と思っただろうか?
安心して欲しい。我輩もそうだった。
記憶が無い。と言われ残念がられただろうか?
安心して欲しい。我輩も残念がられた。当然ながら魔王に関しての記憶など全くなかったからである。
はっきりとここに記しておく。
この世界に関しての記憶など、我々は持っていない。
君に無いように我輩にも無かった。魔王の記憶などというものは……。
けれどそれでも彼らは、今の君に魔王を重ねている。
酷な話だが、君は彼らの想いに応えなければならない。
我輩がそうだったように。
君も魔王にならなければならない。
故に、今はこう言え。
「冥界から帰ったばかりで疲れているから、少し休ませて欲しい」と。
我輩の時はそう言ってモンスターの中の一人に部屋まで案内して貰った。
君の場合はゴレ子が魔王の私室まで連れて行ってくれる手筈になっている。
一応、このノートの内容は魔法によって魔王以外には読めないようにされているが、皆の前だと流石に落ち着かないのではないかな?
まだまだ知りたい事は山程あるはずだ。
移動して落ち着いたら問いかけてくれ。
この魔王ノートに。
そうすればこの世界に関する知識を——我輩が知る限りのものだが——君は得る事が出来る。
だから、さあ。
まずは魔王の私室へ向かえ。
続きを読むのはそれからだ。
すごくどうでもいい余談。
山田というのはよく聞く名字であり名字ランキングでは上位に入っている……と思われがちだが、ランキングでは12位というトップテンにすら入っていない名字である。トップテンに入っていれば良いというわけではないが、よく聞く割には意外な順位である。ちなみに一位は佐藤である。実際学校ではクラスに二、三人は佐藤がいた気がする。一方で山田は一人いたかどうか……記憶の糸を辿ると案外山田というのはトップクラスにメジャーな名字ではないような気がしてきた。とはいえ都道府県別に見ると特定の地域では三〜五位にランクインしたりしているので、やはり山田はメジャーな名字なのだろう。ちなみにもっとも山田が少ないのは高知県らしい。不思議である。名字というのは近代になって庶民が獲得したものなので、その由来を追うことで地域性が明らかになったりする。気になった人は調べてみるのもまた一興というものであろう。