これは魔王ノートです
「お、おはよう……?」
ロボットじゃん!!!
ロボットじゃん!!!
という感動と困惑混じりに俺は挨拶を返した。
疑問がまた浮かんできた。
何故女教師風のロボットなのか?
モンスターはメイドで、ロボットは女教師。
これは何故なのか?
そこには、どのような意味が込められているのか?
恐らくこれは、この世界の根本(この夢を見ている俺の深層心理的な部分)に関わることであり、考えれば必ず答えが出てきそうなものなのだが(俺が潜在的にメイドと女教師を求めている……などという単純なものではなく、もっと深い何かしらの理由があるはずだと思うのだが)、しかし残念ながらそんな暇は俺には与えられなかった。
女教師ロボットが口を開いた。
「確認の為に質問致します。魔王様は、私の事を覚えておいでですか?」
「い、いや……覚えてないです。誰ですか?」
素直に答えて、尋ねた。
わからないことはわからないという。
そして教えてもらう。
社会人生活の常識である。
まあ実際の職場ではあまり役に立たなかったが、ここはなんかあれだ。
魔界っぽいところで、現実とは違う。
それに俺の夢なら俺の深層心理が影響しているはずだから尋ねれば答えてくれる……はず。
そう願っていると、果たしてこの願いが届いたのかどうかわからないがロボットが口を開いた。
「……そうですか。覚えておられませんか。しかし規則に則り、これより確認フェーズに移行します。まずは名乗らさせていただきます。私はゴレ子と申します。魔王様に作られたゴーレムです」
「ゴーレムの、ゴレ子……」
ロボットではなくゴーレムだったとは……まさか本当に最初に思った通りゴーレムだったとは……。
いやまあ世界観というかモンスターに混じっているんだからそう呼ぶ方が正しいというか場の雰囲気には合っているのだろうけど……どう見てもロボットにしか見えない……それに、何というか……あまりにもテキトーなネーミングに驚かざるをえない……。
「私の名前に聞き覚えはありますか?」
「ないです」
これには即答出来た。
そんなけったいな名前のやつが知り合いにいたら絶対に忘れない自信がある。
俺の記憶には全く存在しない名前だ。間違いない。
自己紹介は有難いが、覚えているも何も無い。
そもそも皆は俺のことを魔王と呼んでいるが、そこからしてわからないのだ。
わかっていることは、ここにはモンスターがいて自分の体は真っ黒。眼の前の女教師はゴーレムのゴレ子という点だけだ。
これはもはやむしろわかっていないに等しい。
なので俺は困惑しっぱなしだったのだが、しかしそこは流石の女教師風なロボット、もといゴーレムだった。
俺の発した短い否定の言葉で全てを察したらしい。
「フェイズ1、自己紹介。効果なし。記憶の想起には至らず。魔王様の記憶の消失を確認。それでは、魔王様記憶喪失時のマニュアルに従い、フェイズ2に移行します。魔王様、これを」
「……これは?」
差し出されたのは、古めかしく分厚い、一冊の黒い本。
見るからに怪しい本だが……。
「これは魔王ノートです」
「魔王ノート?」
本ではなくノートだった。
だが見た目だけでなく名称も怪しいことこの上無い代物である。
名前を書くだけで相手を殺せそうな雰囲気すらある。
「魔王ノートって……何ですか?」
「名前を書くと相手を殺せるノートです」
「え!?」
それあれじゃん! 漫画で読んだやつじゃん!
「書いた名前を消しゴムで消すと死んだ相手も生き返ります」
「えぇ!?」
それ読み切りの時の設定じゃん!
「嘘です」
「え……?」
いきなり壁にぶち当たった感じだった。
俺のワクワクを返して欲しい。
心に傷を負った俺を意に介さず、ゴレ子は言った。
「このノートには、魔王様に関しての記録が記されております」
「記憶……?」
これまでの。と言われてもそのこれまでが俺には無いので、相も変わらず何の事なのかさっぱりなのだが……。
「そのノートには、全てが記載されていると聞いております」
「全てが……」
全てとは……。
これを読めば今の自分が置かれている状況について何かわかるのだろうか?
ここがどこなのか?
このモンスターたちは何故メイド服を着ているのか?
何故ゴレ子という名のゴーレムだけ女教師然としたスーツ姿なのか?
さっきモンスターたちが言っていた復活とはどういう意味なのか?
そして、俺はどうして黒一色なのか?
いくつも疑問はある。
これらの問いに対する答えが全てこのノートの中にある……のだろうか?
「……」
疑念はある。
それでもとにかく今は、藁にもすがる思いで俺は本みたいなノートを受け取った。
……すると、
「ん?」
ノートが……いや、これは……ページか?
全体ではなく、一部分が淡い光を放っている。
「な、何だ? この光は……?」
「魔王ノートには自動検索機能が搭載されていると聞いております。魔王様が疑問に思った事に対しての答えが、その光っているページに記載されているはずです」
「答えが、ここに……」
「はい。そこに答えがあります」
ゴレ子は確信に満ちた口調でそう言った。
俺はその言葉と光に導かれるままにノートを開いた。
まずは一ページ目から。
いくつも疑問があったので他にも光っている部分はあったのだが、やはりこういうものは最初から読むべきだろう。
そう思いながらノートに視線を落とすと……そこには日本語が書かれており、
「こ、これは……!」
答えがあった。
すごくどうでもいい余談。
『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』というPS2のゲームがある。これに出てくるADAというAIがそれはもうとても素晴らしい。このエイダとの会話で私がAI萌えに目覚めたのは間違いない。攻撃や防御の時にあれこれ言ってくれてプレイ中大変楽しいのだが、特に良かったのが「ベクターキャノン」というなんか凄いエネルギー砲を撃つ時の台詞である。装備の設置から状況、エネルギー率、カウントダウン……これらが淡々と読み上げられた後に撃つビームというのは……快・感。という他あるまい。これだけでもこのゲームをプレイする価値があると思うが、通常のビーム兵器も多段ロックであり、大勢の雑魚敵を一度にロックオンして無数の追尾レーザーを撃てるのだから最高である。まだプレイしたことがないロボット好きは是非ともプレイして頂きたい名作ゲームである。




