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あ、あ、あぁ……。ああぁ……魔王様……やはり、ご記憶が……うっ、うぅ……うぅ……!

 正直かなりショックだった。

 全然カッコよくない。

 全っっっ然っっっカッコよくないじゃないか……。


 夢なのに。

 折角の夢なのに。

 自分の容姿はぱっとしないどころか、黒一色。

 ゲームで例えるならバグ。

 ただ今調整中です。と表記されていそうな適当さ……。


 もっとこう……マッシブでメカニカルな……いや魔王だからモンスターの王者というか真実の王者というか悲しみの王子ではなく炎の王子的な如何にも強そうな姿を想像していたのに……こんなデザインのやつゲームとかの敵にもいねぇよ……。


「はぁ……」


 気落ちしてため息が出た。

 でも口は無いので、本当に出たかどうかわからない。

 

 口だけではなく目も無いし耳も無いし鼻も無い。

 

 足元に目をやると足の指はなく、靴を履いているように楕円形になっていた。

 

 こうなってくると、指はちゃんと五本あることが不思議である。

 

 一体どういう理由があるのか……考えてみようとしたが夢なので無駄に頭を使うのも嫌だな。と思い、考えるのはやめた。


「……」


 しかし考えるのをやめるとなんだか周りの馬鹿騒ぎが気になってきた。


「……」


 ちらりと横目でモンスターたちを見る。

 凄まじく楽しそうに踊ったり、談笑したり、笑いあったりしてはしゃいでいる。


 一方で俺は自分の姿に絶望している。

 自分と周りにはかなり大きな落差がある。


「ちょっと静かにしてくれませんか……?」と言いたいところだがあんまりにも楽しそうなので口を挟むのも憚られる。


 そもそも現実でも俺は怒ったことなど無いのだ。

 嫌なことはいつも受け流してきた。

 ヘラヘラと愛想よく笑ったり。

 怒っても仕方が無いと自分に言い聞かせてみたり。

 何度も深呼吸したり。

 全集中の呼吸したり。

 車の中で大声で歌を歌ってみたり。


 そうやって、誰かに怒りをぶつけることを避けてきた。

 だからここでも、楽しそうな怪物たちに怒りをぶつけるなんて俺には出来なかった。


 例えこれが夢とはいえ、そういうキャラじゃないのだ、俺は。


 なので、普通に尋ねてみることにした。


「え、え〜っと……あ、あの〜……あのですね。あの、ちょっといいですか?」


 上半身を起こして、近くで「わーい! わーい!」バンザイしていた獣耳の女の子——ワーウルフのメスだろう——に声を掛けた。


 女の子はびっくりしたのかその場で飛び跳ねたが、すぐに「にゃにゃにゃにゃんでございましょうか!? 魔王様!?」と居住まいを正してキラキラとしたまっすぐな視線をこちらに向けてくれた。


 純真な瞳だった。

 聞けば何でも正直に答えてくれそうな雰囲気だ。

 これ幸いである。


「あー、えー……その、ですね……ここは、どこですか?」


 辺りをキョロキョロと見回しながら聞いてみた。

 ここは……大広間とでも言えばいいのか?

 ゲームとか漫画とかでよくある感じの、見るからにラスボスが待っていそうな無駄に広くて荘厳な場所っぽいのはわかるが、わかるのはそんな風に自分が受け取った印象だけだ。


 ここは一体どこなのか?

 

 夢でも一応現状を把握しておかなければ。

 と思っての質問だったが、これに獣耳の女の子はぶるりとその身を震わせ……そして、


「あ、あ、あぁ……。ああぁ……魔王様……やはり、ご記憶が……うっ、うぅ……うぅ……!」


 大粒の涙を、その瞳から流したのだった。


すごくどうでもいい余談。

魔王と言うと私の原初の魔王体験は恐らくシューベルトの「魔王」なのだと思う。子供ながらに「なんで魔王が子供一人攫いにくんねん。わけわからへんわ」(どうでもいいが私は関西出身ではないのでこの大阪弁?は適当である)と思っていたのだが、その後なんとなく調べてみてもなんとなく調べただけなのでやっぱりよくわからない。どうやら様々な解釈や意見があるようだが……それはそれとして元ネタがゲーテの詩であるというのも最近知ったくらいである。幼少期なんとなくで流していたものを調べるのは楽しいもので、まだまだ勉強しなければなぁと思う今日このごろである。

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