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ならば相手をして貰おうか

 何となくノリで飛び上がってしまってふと思った。

 先にシズカさんだけを行かせてその後ワープを使えばよかったなぁ。そしたら楽だったなぁ。でもあの流れで「あ、俺は後でワープで行きます」とは言いづらいよなぁ。何事も気分だよなぁ。うん。うん。気分だ。俺に足りないところはそういうノリに乗るところなんだから、ここは練習として乗っておくのも悪くないよなぁ。

 などと考えている間に王宮に到着していた。

 

 そこで待っていたのは、人、人、人。

 人の群れだった。

 王宮らしき豪奢な建物の手前の、手入れの行き届いた庭みたいな所に無数の人が集結している。

 皆が皆、わーわー大騒ぎをしている。

 まるで祭りだ。

 田舎出身の俺からすれば人が大勢集まっているところは祭りにしか見えない。

 けれどこれはもっと政治的な集まり……なのだろう。謀反なんだし。

 集まっている人々も戦を望んでいるような鋭い面構えの人ばかりで、祭りみたいな楽しげな要素はほぼゼロだ。

 その証拠に、鎧を付けたり槍とか剣を振りかざしている人ばかりで、剣呑な雰囲気だ。

 貴族階級に属するという者たちが、王を助ける為に手勢を率いてきたわけだ。

 シズカさんを、勇者を倒す為に。


「結構がっちり武装してますね」


「私が勇者になって王をしばき倒してからまだ数日しか経っていないのだが……これは……魔族との戦争中だったという事もあるが、軍備だけはしっかりと整えていたようだな」


「どうします?」


「魔王はこのままここにいてくれ。まずは私が話す」


 言うや否や、シズカさんは空中から一気に急降下し、ドーン! とスーパーヒーローみたいに派手に着地した。

 話すと言っておきながらのこの登場。

 完全に威圧である。

 実際、いきなりのシズカさんの登場に人々はどよめいて驚き、結構後退っていた。倒れて気絶した者もいた。

 そりゃあまあびっくりするよ。

 結構勢いよかったもん。

 気絶してしまうのも仕方がない。


「この騒ぎは一体何だ?」


 開口一番、ドスを利かせた恐ろしく低い声を発したシズカさん。

 シズカさんってあんな声も出せたんだぁ〜なんて呑気に思っている間に、庭がしんと静まり返った。

 人々が静かになるまで五秒とかからなかった。

 流石は勇者である。


「こちらの話し合いが終わるまで何もするな。私は貴様らにそう命じたはずだが?」


 シズカさんの声には圧力がある。

 それは攻撃力と言ってもいい。ばたばたと泡を吹いて倒れる人がいるくらいだ。

 凄まじい意志力の強さというか、何というか。

 英雄とかが持ってそうな風格……すげぇ覇気を感じる。

 この人の話しを聞かなければならない。と思わせると同時に、この人の命令に逆らってはならない。と思わせる威力がある。


「先に言っておくぞ。もしも貴様らが王の解放を望むなら、それは却下する。やつは屑だ。私欲を貪るばかりで、とてもこの国の政治など任せておけない」


 どよめきが奔る。

 ざわ……ざわ……。

 ざざざ……。

 けれど反論はない。


「ここに集まっているのは貴族階級に属する者だな? もう一つはっきり言っておこう。貴様らも屑だ。腑抜けた王に従い甘い汁を吸ってきた途方もない馬鹿者共め。私が王の座に付いた際に、貴様らには勤労の義務を課したはずだが……やれやれ。仕事をサボってこのような事をするとは。一応予想はしていたが、実際に目の当たりにすると呆れたぞ」


 どよ……どよ……。

 空気がピリつく。

 馬鹿と言われて黙っていられる男はいない。

 チキンとか言われるとキレちまうやつはいる。

 ここにいる者たちもそんなやつらばかり……のはずだが、彼らは全く動かない。

 

 何故か?


 その理由はただ一つ。


 シズカさんを恐れているからである。

 彼女の、勇者としての力を。

 だから、なのか。


「どうした? 私のやり方に文句がある者は掛かってこい。一対一だ。一人ずつ相手にしてやる。腕っぷしでも、議論でも、何でもいい。もう一度言うぞ。文句のある者は掛かってこい。今すぐ」


 シズカさんは強気だ。

 まさしく、負ける気がしねぇっ! という感じ。

 輝いていなくとも、眩しい。

 煌めく瞳は人々の体をその場に縫い付けて動かさず、発する言葉には重みがある。

 国を救う者としての熱い気概を感じる。

 俺なんかとは全然違う。

 いきなり召喚されたはずなのに、勇者としての自覚がある。

 正しき事を為し、他者を導く者としての、圧倒的なオーラがある。

 もしも俺が彼女の前にいたら、きっと何も出来なかっただろう。

 魔王としての力を持っていても、心は小市民だ。

 びびって何も出来ないに違いない。

 圧力に押し潰されて気絶してしまう。

 そしたら代わりにマキシマムマイティデュラハンダブルエックスがオート戦闘機能を駆使して戦ってくれるだろうけど、果たして勝てるかどうか……。

 

 それ程の相手だ。

 シズカさんという勇者は。

 ——だというのに、


「ならば相手をして貰おうか」

 

 渋い声と共に、歩み出た者がいた。

 漆黒の厳しい鎧を纏い、肩に一振りの大剣を背負った、見ればわかる強いやつ的な。

 如何にも強者風な戦士だった。


すごくどうでもいい余談。

日本ではデモやストライキで社会機能が麻痺しないので正直感心する。かつて私がモンゴルを旅行した時、泊まっていたところのエレベーター会社がストライキを起こしたとかなんとかでエレベーターが停止し、五階まで階段で歩かなければならず結構大変な思いをした。都市部ではなんらかのデモらしき集会も見た。人が路上で取っ組み合いを始め、投げ飛ばされているところも目にした。相撲が国技なだけあって投げっぷりが凄かった。すげぇ国だなぁと思った。フランスに留学していた友達はしょっちゅう「毎日のようにストとかデモとかがあって電車とかバスとかが止まる。学校に遅刻するから大変」とぼやいていた。今のところ日本でそんな目に遭ったことはない。この国民性はすごいと思う。すごい真面目だ。日常を維持してくれている人々にいつも感謝している。でもハロウィンではめちゃくちゃ暴れるから不思議だ。魔が差すというか、悪霊に憑依されているとしか思えない。真面目と言えば、モンゴルで本屋に行ったら店員が紙ヒコーキを飛ばして遊んでいた。あの光景にはとてつもなくびっくりした。店員がそんなことしてていいのか!?と、とにかく驚いた。モンゴルはどこもそんな感じだった。どこの店でも店員は遊んでいた。すげぇ国だなぁと思った。そんなわけで、様々な国に行ったが今でもモンゴルの旅は強く記憶に残っている。

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