勇者について
〈勇者について〉
最強の名を冠する戦士。
他の人間を超越する驚異的な身体能力と、魔力の持ち主。
汚れなき、高潔なる精神を宿す者。
天界より遣わされた、平和の使者。
超絶美少女。
それが、勇者である。
天界という言葉が示す通り、勇者はこの世界の住人では無い。
人が魔法の力の全てを結集して作成した、特殊な魔法陣を用いて召喚される。との事である。
恐らく、復活し続ける魔王に対抗する為に生み出された魔法なのだろう。
天界人だからなのかその戦闘能力は非常に高く、魔王である我輩に匹敵する。
強敵である。
君がこの世界で生きていくのならば、避けては通れない敵である。
しかし、案ずるな。
攻略法はある。
能力が高いと言っても、召喚されたばかりの勇者は戦闘に関しての経験が浅い。
天界は極めて平和なところなのだろう。
戦闘能力は高いが、戦術、戦略的には甘い部分が目立つ。
故に、搦め手を用いれば打倒は難しくはない。
魔法による長距離狙撃。ダンジョン全体に張り巡らせた罠。毒や暗闇などの状態異常を引き起こす魔法の連発。数の暴力……などなど、倒す方法はいくらでもある。
事実、我輩は幾度となく勇者を打倒した。
こう聞くと君は我輩の事を、情け容赦の無い残酷な魔王だ。と思ってしまうだろうが、勘違いしないで欲しい。
我輩は幾度となく勇者を倒した。倒しただけである。殺してはいないのである。
何故か?
理由は単純だ。
勇者が、超絶美少女だったからである。
彼女の名前は、アリス。
アリスちゃんである。
あまりにも可愛かったので、つい見逃してしまったのだ。何度も……何度も……。
「今のお前は我輩が手を下すまでも無い……」とか。
「この程度では倒す価値も無い……」とか。
「クックックッ……今はまだその時では無い……」とか。
「これからの成長が楽しみだ……」とか。
何度も何度も意味深な態度を見せて、毎回毎回見逃していたのだ。
勇者に殺された魔族の皆に対しては、本当に申し訳ないと思う。
この場を借りて謝罪する。でもちゃんと時間を戻して生き返らせたので許して欲しい。
それに勇者との戦闘は毎回我輩が律儀にきちんと対応していたし、魔族に実質的な被害は出ていないのだから、よしとしてくれ。
そう言えばこの時に、あまりにも他の魔族の方々に対して申し訳なくなったので、勇者の相手は魔王が直々に行う。という規則を作ったのだった。
そういう事なので、もし我輩に何かあれば、勇者の相手は次の魔王である君にも担当して貰う事になると思う。
大変だが、勇者の容姿次第では楽しいし、やり甲斐はあるはずだ。
だから、頑張ってくれ。
……勇者については、今のところ以上だ。
〈追記〉
勇者が可愛いのでお友達になりたい。
何度も見逃しているので、そろそろ我輩の事が気になり始めているのではないだろうか?
「あいつ、また私をわざと見逃した……一体、何の為に? ……いけない。私、またあいつのこと考えてる……」
みたいな。
そういうのって、あると思うのである。
いや、あってくれ。
頼む。
頼む……。
本当にそういう風に思っていてくださいお願いします。
〈更に追記〉
我輩の願いが通じたのか、アリスたんが心を開き始めた。
まあ、今のところは我輩への暴言だけだが……。
「この卑怯者! 正々堂々戦いなさい!」とか。
「くっ……! 一思いに殺しなさいっ!」とか。
そういうのだが……しかし、口を聞いてくれるだけマシか。
一歩前進という事にしておこう。
嬉しい。
すごくどうでもいい余談。
学生の頃、先輩の彼女がかなりの美少女だった。自分が美少女であるということを自覚しているタイプの美少女で、なにかと美少女ムーブをすることが多かった。美少女は美少女であるだけで美少女なんだなぁと思わされた。そんな中で、今でも記憶に強く残っている出来事がある。ある日偶然学内ですれ違った時に「ちょっと待って!」と呼び止められた私は「なんすか?」と振り返った。美少女は「え? わからない?」という。私は「わかりません」と応える。すると美少女はバーンとポーズを取り「このTシャツジョジョだよ? 彼氏から貰ったやつだけど」と言うではないか。私は「な、なんだってー!?」と驚いた。全くジョジョTであると気付かなかったからである。着こなし一つでこうも印象が変わるのか。やっぱ美少女って凄い。可愛いは正義なんだなぁと思わずにはいられなかった懐かしい出来事である。




