歴史については……
「えーっと……歴史については……」
かつては身体能力の高い獣人の方が人間よりも立場が上だったらしいが、ある日、人間は魔法を手に入れ、獣人との戦いを始めた……争いを嫌った人間は獣人と契を結び、魔族となった。
一方で、何としても人間が優位に立つ世界を作らなければと考えた者達が集まり、人間だけの国を興した……。
耳長族はどちらもそれに不干渉だった……。
獣人の中にも、人と交わる道を拒んだ一族があった……。
そして世界は様々な国に別れて、争いが起きるようになり、その争いが現在まで続いている……。
「人間の下克上か……獣人の方が立場が上だったって事は、差別とか色々あって虐げられてたんだと思うけど……だからといって戦争を始めちゃうとはなぁ……」
争いで解決するのはやめた方がいいんじゃない?
他に方法があったんじゃない? という思いは、ある。
ただ、それ以外に解決法が無かったのだろう。とも思う。
「戦争、か……」
思うところはある。
だが、平和な国で暮らしていた俺には想像もつかない。
それがどのようなものなのか。
それがどうやって起きるのか。
それをどうやって終わらせるのか。
異世界と同じくらいに現実感が薄い。
「人間と魔族がずっと争っている世界なんて、なぁ……」
さっき、この争いは長い間続いている。という旨の事が書いてあった。
長い間……それは、一体どれくらい長い間なのだろう?
「歴史年表とかは……」
この時にこれが起こりました。今は何年です。時代の流れはこうなってます。みたいな。
そういうわかりやすい説明。
それを思い浮かべて、ノートの光った部分を開く。
しかし、そこには「我輩も気になって調べたが、詳しくはわからなかった。遥か昔は吸血鬼という種族が世界を支配していたという伝説も聞いたが、あくまで伝説だけだった。その時代の資料は見付からなかった。詳しい歴史の記録は人間の国にあるのかもしれない。機会があれば調べてみたい」という記述しかなかった。
「……まあ、わかったところで。という話しではあるけどなぁ」
むしろそういうのがわかってしまったら、潰されそうだ。
歴史の重みというか、そういうので、心理的に。
「はぁ……」
口はないのにため息が出た。
昨日よりも魔王という役職の持つ重圧で息が苦しい。息をしていないのに。
体が重い。
疲労感がある。
気分が優れない。
そういうものからは、解き放たれているはずなのに……。
「それもこれも、前の魔王が死んだせいだよなぁ……」
正直な感想を述べよう。
これは俺なんかに何とか出来るレベルの物事じゃ無い。
ゴレ子さんは戦闘の指揮をすると言っていたし、今も今で国境付近では戦闘が起こっているに違いない。
そんなとこに行って、俺に何が出来る?
俺は戦いになんか詳しくない。
戦場で命を懸けている魔族の皆に、指示なんて出せない。
他人を死地に行かせるような指示とか出せるわけがない。
無理だ。
俺自身は魔王だしそこそこ強いようだし、装甲もそれなりに使えそうだが、あれでどれだけ戦えるのか。
勇者とやらに勝てるのか?
魔族を守れるのか?
……自信が無い。
「何で死んでしまったのやら……魔王って最強クラスの力があるんだろ? 一体どんなミスしたら死ぬっていうんだよ……ううっ……」
胃のあたりが痛い。ような気がした。
痛く無いはずなのに。
社会に出た頃から、そうだった。
胃薬を飲んで会社に通っていた。
俺はプレッシャーに弱いのだ。
期待されるのには慣れてないし、期待されても困るだけ。応えられないんだから。と思っていた。
そのせいで毎日が憂鬱だった。
学生時代、のんびりと過ごしていた反動というやつなのかもしれない。
特に何も頑張らなかった。
部活もせず、かといって勉強も頑張らず。何事もそれなりにこなしてきた。
普通の人生。
でも普通だったのはそこまでで、就活には失敗し、困った事になった。
困った事になって今は、今までよりも遥かに困った事になっている。
こんな時はどうすればいいのか?
「自爆……するか?」
人間だった時は、自殺。という言葉にネガティブなものを感じていた。
なのに魔王になってしまった現在、自爆と声に出してみると、なんだかポジティブな感じがする。
ロボットアニメの見過ぎかもしれない。
でも全ての魔力を解放して跡形もなく爆散するのは、絵面としてはかっこいいような……まあ、動機は自分勝手で最低なのだが……。
「……まあ、あれだ。ちょっと一旦落ち着こう」
深呼吸を、一つ、二つ。
まだ心は沈んでいるが、少しは落ち着いた。
「自爆はいつでも出来るわけだし、その前に自分の体のことくらい知っておくか。このモヤモヤな体のこと、すごく気になるからなぁ」
相変わらず思考はマイナス。
だけども知的欲求はあるというアンバランス。
半端な気持ちでふらつきながら、俺は気になっている項目のページを開いた。
魔王についてのページを。
すごくどうでもいい余談。
日本の良いところは四季があること……という褒め言葉をよく聞くが、個人的には銃社会でないのが良いところだと思う。メキシコに遊びに行った友人は夜道で銃を突きつけられて金を奪われた。命まで奪われなかったからラッキーと笑って語っていた。別の友だちはメキシコ留学中にバスジャックに遭った。しかし言葉が通じないとわかると諦めて去っていた。メキシコではバスジャックがよく起こっており、多少の金品を渡せばすんなりとバスを降りるそうなので人々は普通に金を渡していた。友人を相手にしては時間が掛かり面倒だと判断して何もせずに降車したのだろう。ということだった。恐ろしい話である。また昨今はテロが多く、私が数年前に訪れた場所で銃の乱射が起こったというニュースを見る度に、もし今行ってたら巻き込まれていたのか……と背筋の凍る思いをよくする。私自身、韓国の釜山にある実弾射撃場に行き試射した経験があるが、引き金を引けば簡単に人を殺せる威力の攻撃が出来るというのはとても恐ろしいものだなぁと思った。合気道の達人である植芝盛平氏は銃弾を躱して相手を投げたりしたというが、そのレベルの達人でなければどうしようもないので、恐ろしいものだなぁと強く思うのである。




