勉強しなさいと言われると勉強する気がなくなってしまう小学生の精神性ではないけれど
「必要な記憶って……例えばどんなのがありますか?」
「魔王様の記憶がどの程度欠損しているかにもよりますが、そのお体の持つ特性、戦闘用の魔法。などの、魔王様ご自身に関するもの。勇者に関するものはもちろんですが、この世界の情勢についてや、人間、その他の種族、そして勿論魔族についても知っておいたほうがいいと思われます」
「……そうですね」
本当にその通りだった。
初日から鎧を改造しまくっている場合ではなかった。
息抜きとか言ってテスト前にゲームをしまくる少年のような行動をしてはいけなかった。
失敗した失敗した失敗した……。
「後は、約定についても……いえ、これはもう知る必要がありませんでした」
「約定?」
「少し前に、人間の王と魔王様とが交わした不戦の取り決めです」
「え? そんなのがあったんですか?」
「あったのです。具体的には、魔王様の命と復活の魔法の停止を見返りに停戦し、勇者は天界へと帰す。というものでした」
「そんな取り決めが……」
「あったのです。魔王様が命を落としたのも、その約定を結んだ為です」
「約定のせいで……俺は、死んだんですか……」
「はい。勇者の一撃をその身に受け、死亡しました。爆煙が周囲を覆い、閃光が天を衝く、極大な戦闘の終幕に相応しい凄まじい最期でした」
ゲームでよく見るような派手な必殺技でも喰らったのだろうか?
天を貫く閃光って、聞いただけでも凄い死に様だったのがわかるというものだ。
「……」
……それにしても、死亡、か……。
復活した俺にとっては現実感の無い言葉だが、前任者のヤマダさんは死んでいるわけだし……知らない人だけど、魔王ノートの記述を読んでるからか親近感が沸いていて、なんだか悲しい気持ちである。
「そうして、魔王様の命と復活の魔法に使用する棺の破壊によって、約定は結ばれ、戦争は終わりました。が、しかし、約定は破られました。人間は勇者を再び召喚し、戦を仕掛けてきています」
「なるほど」
それでこういう事に……人間と魔族とが再び争う事態になっている。というわけか。
こんな世界で一時は停戦した時期があったとは。
ヤマダさんは何気に凄い魔王だったんだなぁ……。
などと、一先ず納得して、質問を一つ。
「ちなみに、勇者についてですけど……天界ってなんですか?」
勇者を帰す。
その言葉が、気になった。
「こことは異なる別の世界の事です。勇者はそこから召喚されているのだそうです。詳しい事は、魔王ノートに書かれていると思います」
「魔王ノートに……」
別の世界。
するとそれは、俺のいた世界なのだろうか?
冥界と天界。
名前が違うので違うかもしれないが、何らかの関係はありそうだ。
それにしても、本当にこのノートは万能だ。
ヤマダさんの勤勉さ、後に来る者への心遣いが身に沁みる。
感謝しかない。
「とにかく、そういうわけです。約定は既に破られ、このような事態になっている次第です。故に、魔王様は一刻も早く記憶を取り戻す必要があるのです」
「……そうですね。はい。わかりました」
さっきまでは早く魔王ノートを読まなければ! と思っていたが、一刻も早く。とか言われると、ちょっと焦る。
勉強しなさいと言われると勉強する気がなくなってしまう小学生の精神性ではないけれど。
焦ると、良くないことを考えてしまう。
そもそも俺が色々と知ったところで、何が出来るというのか? とか。
俺は本当は魔王じゃなくて、ただの小市民なのに……。
期待されればされるほど自信がなくなる……。
根がネガティブなんだよなぁ俺は……。
余裕がなくなるとミスを連発するタイプなんですよ……。
だからやるならせめて自分のペースでやりたいんですけど……。
とかなんとか言い訳が頭を過るが、それでも、こんな時に本音を言えずに取り繕ってしまうのが、俺なのである。
「……じゃあ、ゴレ子さんは指揮をお願いします。俺はこれから記憶を取り戻しますので」
「はい。了解しました」
何にしても、一応頑張りますという姿勢を見せて、この場を切り上げた。
「それにしても、ですが」
「はい?」
会話は終わったのに不意にゴレ子さんが口を開いたので、何かまずいところがあったのか? と少し不安になったが、そういうものではなかった。
「私にさん付けとは、魔王様も変わりましたね」
「え?」
「いえ、何でもありません。以前は、ゴレ子殿と呼ばれていたので」
「は、はぁ……?」
逆に、殿ってなんだよ……? と尋ねそうになった。
これは魔王ノートに聞くべき案件なのだろうか?
「それでは、失礼いたします」
「あ、はい」
新たな疑問が浮かび、悩んでいたところ、ゴレ子さんは一礼し去って入った。
俺は私室に戻り、今度はベッドではなく椅子に腰を下ろした。
肉体的な疲れは無いので、立ち読みしてもいいのだが、読書は座ってしないと落ち着かない派である。
「とりあえず、色々調べてみないとな」
ゴレ子さんの呼び方とか、作った経緯とか、まだ完璧に改造が終わっていない鎧についても気になるが、そういうのは一先ずは置いておこう。
今日こそは、ちゃんと調べないと。
この世界で、魔王として生きていく……かどうするか、まだ決めかねているし、やる気も不十分ではあるけども。
それでも、知っておいたほうがいいだろう。
と言うか、知りたいことは多い。単純に興味があるから。
そう思い、俺は魔王ノートを手に取り、光を放っているページを開いた。
すごくどうでもいい余談。
「俺は平成のラストサムライなんじゃ」が中学生の頃の私の口癖だった。「俺はサムライじゃけん。英語は勉強せん。鎖国じゃ。日本からは出らん」英語の先生に常にこのようなわけのわからないことを言って、真面目に授業を受けなかった。そんな俺が数年後に「ちょっくら海外行ってくるわw」などと軽い調子でバックパッカーとして海外をぶらぶらしたのだから、人生わからないものである。大学で勉強し直し中学生より少し上等程度のレベルの英語力を身に付けた。中学生の頃真面目に勉強していたらこんなに苦労しなかったのになぁ……と思わないでもなかったが、それはそれである。勉強しなかったから仕方がない。この作品の読者が中学生や高校生ならば、これから真面目に勉強して基礎的な学力を高めていた方が後々色々楽しめますよ。とアドバイスしてあげたい。中学高校の勉強は全ての基本である。やればやる程に基礎が固まるので後に応用する時に楽しくなる。まあ、楽しい授業が出来る人がいないというのが今の教育環境の問題だろうから、楽しみは自分で見つけるしかなく、それは結構大変だと思うが、頑張ってほしい。大学生や社会人の読者の方には、今から中学高校レベルの勉強したら理解力が上がってるせいかわかりやすいところあるので、結構面白いですよ。と教えてあげたい。自分はこうやって小説を書いてるからか、最近は世界史や日本史の資料を読むのが楽しくて堪らない。特に日本史は勉強してなかったので、中学生レベルの教本を読んでも面白い。こんな風に歳を取る程に勉強するのが面白くなるので、若い頃から勉強してるともっと楽しいぞ!と現在色々苦労している先達としては助言したいところである。




