ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?
新作始めました。
目を開けると、無数のモンスターたちがそこら中にいた。
二本足で立っている巨大な蜥蜴。
所謂、リザードマン的なやつ。
中にはメスらしき個体がいるが見た目は人間っぽく、人間の体にトカゲっぽいデカイ尻尾とドラゴンっぽいぎらんとした角が生えている感じ。
そして何故かそのメスはメイド服を着ている。
ちなみにメイド服はレトロなロングスカートスタイルのやつではなく、メイド喫茶でよく見る感じのややファンシーなモコモコしててスカート丈の短いやつ。
尻尾がスカートを押し上げているので背後に回ればパンツが見えるのではないかとかなり気になるが、その時はその時でその事実を厳粛に受け止めたい。
何にしてもよく似合っている。
その隣にはこれもまた二本足で立っている巨大な鬼がいる。
色は赤い。額に角が二本。虎柄のパンツ。カテゴライズするなら間違いなく赤鬼である。
赤鬼はかなりゴツい。メスっぽいアマゾネス的な筋肉質のやつらもメイド服を着ている。
虎柄のパンツとブラジャーだと思っていたのに違っていて少々残念ではある。
けれどもメイド服はこいつらにも似合って……いる……のか……いないのか。
わからない。
まあたぶんどちらかと言えば、似合っているのだと思う。
筋肉メイド隊だ。でも率直に言うと俺の守備範囲内にはいないタイプだ。
更にその隣にはこれもまた二本足で立っている毛深い狼。
ワーウルフとでも言えばいいのか。
日本語だと人狼という単語が当て嵌りそうなのがいる。
オスは狼の顔で二足歩行する狼と言った風体。メスは人の顔で獣耳、尻尾も生えている。
そして彼女たちは皆メイド服を着ている。獣耳とメイド服の組み合わせは足し算ではなく乗算であるのだと初めて気が付いた。
このコスプレ感は堪らない。
素晴らしい。
生で拝めて感動した。
ありがとう。そしてありがとう。
今はただ、君たちに感謝を。
他には……馬の胴体に人の上半身がくっついているケンタウロス。
豊かな胸を持つメスはやはりメイド服を着ている。
ぱつんぱつんであり、ばるんばるんである。
窮屈そうでありながら自由である胸を目にすると、不自由と自由は表裏一体なのだという真理を染み染みと感じさせられた。
うむ。
これはこれで一つの在り方であるのは間違いない。
俺はこの在り方を肯定する。
ちなみにスカートは前掛けみたいになっており、これはいい発想だと非常に感心した。
手足が鳥、胴体と顔は人間のハーピー。
これもメスはメイド服を着ている。飛ぶとパンツが見えた。
白だった。いちご柄ではなかった。
つまりは正統派のようである。
こうも簡単にパンツが見えてしまうと、有り難みが薄れてしまうのだが、そうは言っても有難い。
大変有難うございます。俺はその光景を目に焼き付けた。
上半身は人間の女性で下半身は蛇のラミア。
これは全てメスのようでメイド服を着た者しかいない。
ケンタウロスと同じようにスカートを前掛けのようにして身に付けている。
大変いい心掛けである。
やはりスカートが無ければメイド服としての全体のバランスが悪くなるのは必定。
故に必要なのだ。スカートは。
スカートが 無ければいけぬ メイド服。
心の中で一句読んでみた。うん。我ながら良い句だと思う。
粘性の高そうな水で構成されたような人型のスライム。
着る必要なさそうなのに、というか一見しただけではオスとメスの区別があるかすらわからないが、メイド服を着ているやつはいる。
濡れて、肌? に張り付いていてとても扇情的に見える……わけもなく、あまりにもビショビショなので着替えた方がいいんじゃないかなぁと思うが……着替えても体が液体だったら結局ビショビショか。
だったらそこまで無理して着なくても……と思わないでもないが、そこまで無理して着ているという事実を考えると不思議と心が暖かくなった。
うん。そうだ。そうなのだ。
メイド服は無理をしてでも着るべきなのだ。
無理も道理もぶっ飛ばして着るのがメイド道なのだ。
たぶん。恐らく。いや、きっと。
……さて、ここまで散々メイド服に関しての感想ばかりが思い浮かんだが……とにかくそういう怪物たちが俺を見下ろしていた。
「……」
メイド服は……まあ、現実でも馴染みのある格好だ。
メイド喫茶とかでよく見るし。漫画やアニメとかでもよく見る。
なんなら好きな特撮作品のVシネでだって見る事もある。
だからメイド服というのは、俺の常識の想定の範囲内にあるのである。
しかし、それを着ているのはモンスターである。
一口にモンスターと言っても、様々な種類のものがいるが……とにかくそんな大勢のモンスターも、アニメ、漫画、ゲーム、特撮で馴染みがあるので想定の範囲内である……が、それが実際にアニメじゃなくて本当の事で目の前にいるとなると話しは別だ。
モンスターとはあくまでフィクションの中にいる存在である。
かつてはそんなのがいた。という伝説なんかは多く残っているが所詮は伝説に過ぎず、現代にはいない。
「怪物の死骸を発見!」とかいう大仰なニュースが流れても大抵は皮膚病に掛かった既存の動物かフェイク映像に過ぎない。
不思議な生物を巡っては大学教授と出版社の社長とかが熱い議論を毎年毎年繰り返しているが、現在に至るまで答えらしい答えが示された事はない。
そういうわけで。
そのいないはずのそれが目の前にいるというこの状況は有り得ないものであり、考えられないものであった。
故にこれは俺の常識の想定の範囲を大きく逸脱した状況であった。
「いつだって想定外など想定内!」とカッコよく啖呵を切りたいところではあったが、これは余裕で想定外な状況であった。
だから刹那に満たぬ瞬間に行われた服装への批評が終わり、状況に思考が追い付いてしまった俺の第一声が、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
という恐怖の叫びだったのは、まあ、仕方のない事では無いだろうか。
すごくどうでもいい余談〜魔族について〜
当たり前のようにケンタウロス、ハーピー、ラミアという怪物を登場させていますが、これらはギリシア神話に登場する怪物であり、ギリシア的世界観を持つ文化圏でしか発生し得ない名称です。だからこの怪物たちには「自分はケンタウロスです」というようなアイデンティティはありません。「自分は馬っぽい魔族です」というのならあります。
また鬼というのも難しい概念です。中国では死者の魂だったりします。今作では日本的なイメージをモチーフにしました。虎柄の衣服を着てそうなイメージというのは「鬼門が丑寅の方角にある=鬼は牛と虎が合体した生物=見た目をそんな感じにしたいけどどっかに虎っぽさいれたい。そうだ!服を虎柄にしよう!」という感じで生まれました。たぶん。
ワーウルフは狼男というとわかりやすいのではないでしょうか。様々な宗教、文化圏に登場しています。その生き物の力を得る為にその生き物になる(血を飲む。毛皮などを着る)といった概念で生まれた怪物だと思われますが、今作ではそこまで深い意味は持っておらず、見た目が狼人間っぽいだけという話です。月を見て変身するシーンも特にないと思われます。
リザードマン、スライムは神話の世界には登場しない人間が創作した怪物です。今ではかなりポピュラーで市民権を得ており、すごいです。特にスライムは様々な創作で大活躍していますね。今作に出てくるスライムは服を着ていますが、ガチれば溶かせます。服だけを。




