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幼馴染  作者: ボールペン
第五話 嫉妬
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水面下の相談

 ふとスマホに目をやると、いつもの相手から通知が届いていた。


——————突然ごめんなさい。

      今日の放課後って、時間ありませんか?


「・・・・・」


 切り出し方も、いつも通り。いつまで経っても他人行儀で、流石にうんざりする。


———いつものことじゃん笑

   ええばい、いつでも


「これでよし、と」


 無難極まりない返事に、我ながら情けなくなってくる。こういった場面において、学業における成績や偏差値などといったものはつくづく役に立たないと、そう改めて認識した。


 その時、スマホが不意にブルブルと震えた。


——————本当に?いつもごめんね。

      ありがとう、佐伯君。


「・・・!」


 ちょうどリアルタイムでスマホを扱っていたのか、存外に早く返信が来て、稜真は思わず息を詰まらせた。しかも本文を見ると、今まで一度だってなかった文体での返事だった。


「驚いたァ・・・。

 あの娘、文面でタメ口出来るんか・・・」


 我知らず口角を歪めながら、彼は独り呟いた。




 放課後。LINEで言った通りの時間に、彼女は現れた。


「ごめんね、佐伯君。

 毎回毎回無理を聞いてもらって」


「いやぁ、無理なんてそんなそんな。

 かわいい委員長さんの言うことなら何でもござれですよん」


 相変わらずの軽口を叩きながら、稜真は彼女を出迎えた。


「で、今日はどこでお話いたしましょうか? おぜうさま♪」


「佐伯くん! もう、からかわないでっていつも言ってるでしょ?」


「あら! こりゃ失敬!

 なにせ、委員長様がまるでお人形さんのように愛らしいものだから!」


「もう! 佐伯くん!」


 稜真は基本飄々としているのだが、こうして他人をいじって遊ぶこと自体はそう多くはなかった。例外的に、加納と優の二人は反応が面白いとのことで、こうして会うたびにいじってはその反応を見て面白がっていた。


「まあ冗談はさておき」


「・・・佐伯くんのいじわる」


「・・・と、とりあえず駅前の喫茶店にでも寄ろうや!」


 また、彼は普段相手を振り回してばかりで、自分のスタンスを滅多なことでは変えないのだが、たまにこうして、優の反応があまりに可愛らしいとペースを乱されてしまうのである。




「ほんで?

 今回は何ですか?」


「・・・うん、まあ、・・・いつもと同じ内容なんだけどね」


「えっへぇ、知ってましたとも、ええ!」

 いつ頃からだろうか。稜真は、優からとある相談を受け続けていた。


「最近、やっとLINE交換もできてようやくって感じになったとは思うんだけど、どうもやっぱり直接面と向かって話していると緊張しちゃって・・・・」


「はあ、左様ですか。

 まあ~、そりゃはがゆいねえ」


「うん・・・。

 ねえ、どうすればもっと自然に話せるかなあ?」


 優が稜真に事あるごとにしている相談事。それは、“加納 清”についての話だった。


「どうするも何も、普段一緒に登下校しとるんでしょ?

 その時に色々話しとるんやないと?」


「・・・そうなんだけど。

 ―――う~ん」


 顔をあからさまに紅潮させ、彼女はその頬を隠すように両手で覆い、もじもじしていた。ちょうどその時注文票に書かれた番号を呼ばれ、腰を上げた彼女を片手で制し、稜真はカウンターに向かいながら、その彼女の仕草を脳裏で反芻した。


「まあ、これも毎度のことやけどさ、君はほんっとに甘ったるそうなんばっか頼むよな」


「え、だめだった?

 ・・・だって、甘いの好きだし」


「・・・・うんにゃ、別にええけどね」


 彼女の頼んだ、キャラメルシロップのかかった生クリームが存分に乗ったカフェラテを手渡しながら、彼は苦笑いを浮かべからかおうとした。しかし受け取る瞬間の彼女の、まるでクリスマスの朝にプレゼントを開けようとする子供のような、無邪気な笑顔を見て止めてしまった。


「優ちゃんはさ、アイツとは最終的にどうなりたいとよ?」


 優の向かい側の席に腰を下ろし、自分の注文したブラックコーヒーを一口、稜真は相談の核心へと切り込んだ。




「・・・・私、加納君のことが好きだから。

 告白して、もし付き合うことになったらなんて、その後のことなんて何も考えてないよ」




「・・・ふーん」


 すると、先ほどまでのふわふわした緩い雰囲気はどこへやら、優は微笑を浮かべながら、真っ直ぐに稜真の目を見据えそう宣言した。


「だから、私にとっての目標は、ひとまず彼に告白することなの。

 私の気持ちを、加納君に伝えることなの」


 見た目から気分が悪くなりそうなくらい甘ったるそうなコーヒーを一口、優には一切の迷いもなかった。


「・・・キヨは。

 ―――いや、キヨのどこがええとよ? 優ちゃんなら、もっとすごい人と付き合うこともできると思うけどなぁ」


「それこそ、いつも言ってるよ?」


 稜真の質問に、彼女は再びいつものふにゃっとした笑顔になった。


「加納君には、他の人には無いものがあるの。

 普段周りに流されているようで、その実自身の中に根強い芯を持ってるし、私のことがもし好きじゃなかったら、告白してもはっきりとNO!って言ってくれそうだもん」


「・・・まあな。

 確かに、そらそうやわ」


 幾度となく聞いた、優の思うところの加納の魅力。それは決して間違いや勘違いなどではなく、確かに彼に備わっているものだった。


実際に彼のそういった点に気づいている者が何人いるかは知らないが、そう多くもなさそうだった。つまりそれだけ彼はその部分を表出させないということなのだが、少ない交わりでそこまで感じ取った優も、かなり人を見る目があるということなのだろうか。


「それに、加納君がそんなだから佐伯くんも仲良くしてるんでしょ?」


「いや、単にアイツはいじったら反応がおもろいけよう話しとるだけやぞ」


「え! そうなの?」


「嘘やで」


「もう! 佐伯くん!」


しかし、こんなに真剣に話している彼女を見ていると、つい彼は再びからかってしまった。その反応が一回一回可愛くて、やめられないのである。




「・・・佐伯くんから見て、今加納君と私の関係ってどの程度だと思う?」


 各自飲み物が半分くらいまで飲んだあたりで、ふと優はそんなことを言いだした。


「ん~?

 ええんちゃう?」


「佐伯くん」


 しかし、質問が漠然としすぎていたのと、付属菓子であるクッキーを食べるのに夢中だったのとで、稜真は適当な返事を返した。すると、優は少しだけ声のトーンを低くして、彼の名を呼んだ。


「・・・何?」


「何じゃなくって・・・。

 その、真面目に答えてほしいの・・・」


 だが、少し彼が真顔で彼女の目を見つめ返すと、彼女はすぐにしょぼんとした様子で、一気に弱気になってしまった。


「ふふっ、ごめんて」


 するとその時、彼の脳裏を良からぬ考えがふとよぎった。


「・・・そうやなぁ、これぁ言っていいんか知らんけどなぁ」


「えっ、なに?

 なにかあったの?」


 少しほのめかすような口ぶりでそう言いかけたフリをすると、案の定優は水を得た魚のように食いついてきた。


「・・・いや、でもなぁ。

 やっぱなんでもないわ」


「えぇ~、なに? 何なの?

 気になるから言ってよ!」


 この時、半ば稜真は後悔していた。冗談でも、流石に酷なことをしてしまったと、引っ込みのつかなくなった状況を前にして反省した。


 しかし、反面いずれ彼女も知ることになるだろうし、そのことを考えるとやはり言うべきなのではないかという思いも浮かんできた。


「・・・実はさ、キヨの奴」


「うんうん」


 彼の言葉に頷く優は、きっと目を輝かせていたことだろう。そんな彼女に内心で謝りながら、稜真は決定的な言葉を紡いだ。




「なんか、好きな人がおるらしいばい」




 瞬間、ハッと息をのむ音が彼の鼓膜を打った。


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