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3章 第二審

今伝えるべきでは無いでしょうが、序章が起、2章が承、3章が転、終章が結で丁度4つに分けてます

 「う…ん?」

 

 窓も無く、中心を取り囲むように設置された席の数々、天から吊るされたシャンデリア、中心にいる人物より少し高い位地の前方に長い机が置かれた空間で神崎 葵が目を覚ます。

 

カン

 「これより、夢実裁判を開廷します」

 

 女性の声と木槌― ガベルの音が葵の耳に届く。

視線を上げると黒いヴェールで顔を覆った女性、葵のすぐ隣の長机には前髪を目まで伸ばした検事の長身な男性が立っていた。

 

 「2度目の裁判と言うことで人定質問や起訴状朗読は省かせていただきます」

 

 葵は狂っているこの裁判に、もう何も言う気にならなくなっていた。

 

 「さて、神崎 葵くん。君が無実と証明してくれたまえよ」

 

 検事が皮肉ぎみにヘラヘラと笑いつつ挑発するように言う。

 

 「…その前に、死体の状況と死因、死亡推定時刻を教えてください」

 「…おや?あの部屋に死体は無かったのかい?」

 

 検事は顎に手を当てて悩む素振りをとり、意味ありげに質問を質問で返した。

 

 「どういうことですか」

 「ふむ。まあ良い、死体はここに写真がある。裁判長は許可を出しているから見るといい」

 

 葵は言われるがままに検事が指差した所へ歩み寄る。

 そこには無惨にも腹部を裂かれて中身を出されていた神田 春樹の死体が写っていた。

 

 「うっ…」

 

 葵はその残酷さに嘔吐えずき、口を押さえて目をそらす。

 それは最早人の死に方では無かった。

それは、刺殺だけならばマシだろうに、まるで肉を食べられたように腹部が抉られており、肉が無くなっていた。

 

 「おっと、ちょっとエグすぎたかい?まあ、気にするなよ。ただの死体だろ?」

 

 検事が笑いながら煽るように言うが、葵はそのペースに乗せられまいとグッと堪えた。

 ここで相手のペースに呑まれると敗北してしまう、そんな気がしたからだ。

 

 「死因は刺殺。推定時刻は丁度正午辺りだね、凶器は包丁…あれは確か牛刀だったかな?さて、どうやって無実の証明をする?」

 

 写真での状況と死因を知り、葵は小さく勝利を確信していた

 スーツに血は付着しておらず、人の腹部を包丁で斬って食べるほど力は無いからだ。

 

 「…私は女性が成人男性が人を刺殺できても腹部を裂くなんてできないと思います。それに、包丁でそこまでできますか?」

 「んー。できるんじゃないかな?ちなみに凶器には君の指紋が残っていたが…」

 「私以外の指紋は?」

 「彼自身のものがあるね。まさか自殺したとでも言う気かい?」

 

 それの方が馬鹿馬鹿しい。自殺するのなら、腹部を自分で裂くなんて絶対にできないからだ。

 

 「それはありません」

 「じゃあ、君以外に誰が殺したというんだ?」

 「そんな事をすれば少なからず返り血が服に付着していると思います。私のスーツにもシャツにも血は付着していませんでした」

 「別の誰かが殺したと?では包丁はどう説明する?」

 「手袋か何か指紋の付かない物を代用して…」

 「それを証明できるものは?」

 「…ッ!!」

 

 言ったは良かったが、証明できるものなどない、葵は墓穴を掘った。

 そして検事は葵の勢いが崩れたのを見逃さずに攻める

 

 「君がスーツ以外にも何か着ていた可能性は?他の誰かが別の凶器で殺したと仮定して、その凶器は?そもそも、そう仮定すると君と彼の指紋しか残っていない包丁の矛盾はどう解決する?犯人に心当たりは?それに、犯行時刻に何をしていたか証明できるものはあるかい?」

 「え…あ…」

 

 葵は完全に、ニヤニヤと不敵に笑みを浮かべ質問攻めする検事のペースに呑まれていた。

 葵はシフト表の写真を撮るなりシフト表を持ってくるなりすれば少しは答えられただろうと後悔する。

 

 「それに…これはどう言うことだい?」

 

 検事が指を鳴らすと暗闇から一人、女性が手に名札のような物を持って歩いてくる。

 目は虚ろだったが、その人物は

 

 「相沢さん!?」

 「この、血でコーティングされた名札には君の名前が書かれているが…これは何かな?」

 「そ、れは…」

 

 葵は眠る前も悩んでいたその物体にどうしようもなくなり戸惑う。

 何よりも相沢がこの裁判に出席していることが、それも敵側に属していることが彼女にとっての一番の驚きだった。

 

 「これこそ、君が別の服を着て、それで殺人を犯した証明になるのでは無いかね?ん?」

 

 検事はなかば嫌がらせのようにズイズイと葵の目前に名札を押し付ける。

 葵は圧倒的不利な状況に立たされ、最早なす術も無くその場に立ちすくんでいた。

 

 「勝負アリですね。被告、貴女に弁護士は存在しません。やはり貴女はどう足掻こうが裁かれる定めなのです。大人しく受け入れなさい」

 

 氷よりも冷たく、とても鋭く重い裁判長の威圧的な声が葵の心を更に追い込む。

 葵がそんなの不平等だと言っても無駄だろう。

これは夢実裁判、狂った役者たちの人形劇、常識なんて通用するか、そもそも意味をなすのかさえも夢のように不明瞭だ

 

 「…あ」

 

 葵はこれが夢であると思った瞬間、脳裏にある黒い考えが色濃く浮かぶ。まるでその思想に慣れているように

 ― 夢なんだから全員殺しても問題ない

 だが、その思想は見知った女性の姿を見てその根を枯らせた。

 

 「相沢さん…」

 

 相沢は生命の概念があるのか不明な程直立不動で、その虚ろな目をまばたきすらしていないと思えるほどに、今の彼女は人形のような存在だった。

 葵は彼女が本当に相沢か、などとは疑う余地も無く、ただ困惑しているだけだった。

 

 「あ、相沢さん!?返事して…」

 「罪人が何と言おうと無駄だよ」

 

 検事が相沢と葵の間に割って入り、無情な声で言い切る。

 

 「改めまして被告、いや死刑囚。君の敗けだ。さて、刑の方だが…神田春樹の死因とあの写真から何をされるか、理解してくれるかな?」

 

 検事が歪んだ笑みを浮かべて葵を壁際へ追い込んでいく。

 葵は必死に抵抗しようとしたが、力が入らなかった。これから死ぬと言う恐怖に、腐った運命の末路に絶望して。

 

 「さて、ここでヒントだ。ハンムラビ法典って知ってるかい?」

 「…目には目を、歯には歯をって事ですか」

 「ビューティフル!その通りだよ。さて、君はどうなるでしょう?」

 

 検事は感情のこもっていない声で褒め、パチパチと拍手を送る。

 葵は裁判所内で行われるはずのない死刑が行われ、自分が刺されて抉られて食べられると察した。

 

 「それでは検事、執行してください」

 「い、嫌!来ないでください!」

 

 葵は必死になって定まった死の運命の歯車から抜け出そうと走り逃げる。

 だが、味方が一人として存在しないこの狂宴で逃げ切ることなど、可能性は0に等しいわけではなく0そのもので、不可能だった。

 

 「目には目を、歯には歯を♪」

 

 検事が楽しそうに口ずさみながらステップ気味に葵を追いかける

 

 「私が…一体何をしたというのでしょうか!?」

 「それは当然の報い♪」

 

 葵の訴えを無視し、一人愉快に口ずさみながら葵を追う。

 その様子は、さながら猫とネズミだった

 

 「私は何も知らない…知らないことは罪になるのか!」

 「それは過度でなく、同等の罰♪」

 

 過度でなく、同等の罰と一思いに言えども、果たして同等なのだろうか。

裁かれる罪人が無罪だとしたら、同等では無いと葵は涙を浮かべつつ未だ逃げ惑う。

なぜ私はこんな目に、残酷な刑に…誰か助けてと懇願しても差し伸べられる手はなく、ただ突き刺さるように睨み付ける視線だけが周りから差し伸べられる。

 

 「それが貴女の犯した罪♪」

 「私は、何もしていない!こんな結末、認められるか!」

 

 ついに追い詰められた葵は力一杯叫ぶ。

助けを望む訳でも無く、ただ自分の命運に呆れて叫んだ。

 

 「往生際の悪い被告だ。裁判長は最初に言ったろう?被告が必ず裁かれる裁判がコレだと。呼ばれた時点で終わりだよ」

 

 葵は検事を威圧するように睨む。

憎い、憎い、憎い、殺せ、殺せ、殺せ!…葵の中にどす黒い感情が泉のようにわき出てくる。

 

 「あー怖い怖い。さて、ここで私こと検事からの被告人質問だ」

 

 検事はニタリと笑って葵を見下し正当な裁判で行われる事を口走る。

 

 「なぜ、君は笑っているのかな?」

 「…え?」

 

 だが、次に口から放たれた質問は、決して正常なものではなかった。

 葵は自分の口元に手をやると、微かに口頭が上へ歪んでいるのが解った。

 葵はなぜだか皆目見当もつかなかった。

 

 「どうやら、貴女はもう一度自分の真実に今度は()()()()()()見るべきですね」

 「宜しいのですか裁判長?」

 「はい。どうやら彼女は…眠っているようですから」

 

 わけも解らぬまま葵は意識を保てなくなる。

 葵の視界が歪み、声がゆっくりと捻れて耳に届く。

 これが夢だと言うのなら現実に戻るのだろうが、もし夢でないとしたら、一体どこに行くのだろうか

さて、圧倒的に不利な状況へ陥った主人公を待つ結末とはどのようなものでしょうか?

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