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序章 夢実裁判、開廷

パッと思い付いたので書いてみました

序章が個人的には一番面白いのでは無いかと思ってます。つまり序章>2章以降です


 ― 目には目を、歯には歯を

私が一体何をしたというのだろう。

 ― それは当然の報い

私は何も知らない。知らないことは罪なのか。

 ― それは過度でなく、同等の罰

ならばなぜ私はこんな目に、残酷な刑に。

 ― それが貴女の犯した罪

こんな結末、認められるか


 * * * 

 

 カンカンカン

 窓も無く、中心を取り囲むように設置された席の数々、天から吊るされたシャンデリア、中心にいる人物より少し高い位地の前方に長い机が置かれた空間に木槌― ガベルの音が鳴り響く。

 静かに、強く響いたガベルの音でカッターシャツを着た栗色の長髪の女性は目を覚ます。

 

 「…え、ええ!?ど、どこ!?」

 「被告、神崎 葵さん、静粛に」

 「私職場にいたはずなのに…ここ、裁判所!?」

 「静粛に」

 「あ、あの!ここって…」

 

 カンとガベルが叩かれる。

女性― 神崎 葵は黙り混む。いや、正確にはその威圧に圧され、口を開けなかった。

 

 「では、これより夢実裁判を開廷します」

 

 葵は何が何だか解らなかった。

まず、ここはどこだろう?― 裁判所?

次になぜここに連れてこられたのだろう?

そして…夢実裁判とは何だろう。聞いたことがない

 

 「貴女は罪を犯しました。刑は既に決定しています。異議はありますか?」

 「ない!」

 「ありません!」

 「異議無し!」

 

 次々に声があがる。

否定では無く、全て肯定の声だった。

 葵は何とか声を絞り出し、質問をした。

 

 「は、判決は!?」

 

 先程までの疑問なんてどうでも良くなっていた。

刑が決定していて、処刑から始まる裁判などあり得はしない

つまり、己の保身を一番に考えた質問だった

 

 「既に下されました。貴女は、罪を犯しました。ですので、刑を執行します」

 

 返されてきた答えはおよそ氷よりも冷たい声だった。

葵は焦りを禁じ得なかった。

 自分には意識が無かった。連行されたにしても、寝ていた、気を失っていた。それでは拉致と変わらないでは無いか

こんな裁判ごっこに付き合っている訳には行かないが、逃げ出すことは無理そうだ。どうすればいい?

 およそそう言った考えが葵の脳内に渦巻いていた

 

 「そんなのおかしいですよ!裁判で寝るなんて前例が無いでしょうが…普通は判決を言い渡すのは被告が起きている時にするのでは無いですか!?」

 

 葵は裁判に詳しいわけではない。

だが裁判で悠長に寝る被告人なんて存在しないだろうが、だからこそそれに対する法が無いだろう。

だが、裁判で被告であっても人権は存在する。ならばそれはおかしいだろうと考えて叫んだ。

 

 「何を言っているのですか。貴女は…」

 「()()()起きていたではありませんか」

 

 返ってきた答えに葵は疑問を隠せなかった。

 意識が無かったのに起きていたなどと、意味不明な事を言う裁判官もいたものだと葵は半ば怒りを覚えていた。

 こんなふざけた物に付き合ってられないと思い、葵は踵を返してあるかも解らない出口を見た。

 

 「逃走は不許可です」

 「…っ!!」

 

 先程から話している黒いヴェールで顔を覆った裁判長らしき女性が言うと、葵の体は身動きが取れなくなっていた

その裁判長は、夢実裁判と呼ばれる裁判では、その空間における絶対的な力を持っていた

 

 「裁判長」

 

 葵は視線を戻すと不意に目の前にいた男性に身構えてしまう。

目まで伸ばした髪で目は見えなかったが、細い体で長身の男だった

 男は裁判長を見上げ、挙手をし、また口を開く

 

 「意見の許可を」

 「許可します。なんですか?検事」

 

 検事と呼ばれた男性は一度咳払いをし、チラリと葵を見て言い出す。

 葵は助けてくれるのかと思っていた。

 

 「被告はどうやら混乱しているようです。裁判を円滑に進行できないのは、非常に残念ですが、ここで今一度、始め直すのはいかがかと」

 

 裁判長は少しの間沈黙する。

 

 「………解りました。特別にそうしましょう」

 

 裁判長は渋々了解する。

 周囲から無意味だ!今すぐ刑に処すべきだと叫びがあがるが、裁判長の「静粛に」という言葉とガベルの音で静まりを取り戻す

再審のようだがこのような事は許されるのだろうかと葵は悩む。だが、考えないことにした。

裁判には黙秘権がある。自分に不利になるような事を言わなくても良い権利だ。

これで下手に口出しして処刑されるのは勘弁だ、そう思い葵は口をつぐむ。

 

 「では…被告、貴女の名前は?」

 「…神崎 葵です」

 「年齢は?」

 「24です」

 「職業は?」

 「会社員です」

 「住所は?」

 「○県△市×町159-4です」

 「本籍は?」

 「●県▽市です」

 

 裁判長が始めたのは人定質問と呼ばれる裁判の最初に行われる質疑応答。

 葵は軽く深呼吸をして一旦冷静になり、答える

 

 「間違いありませんね。では検事、起訴状を」

 「はい」

 

 検事が紙を目前に掲げ、朗読を始める。

本来なら、ここで被告に起訴状を読んだか訊く筈だが、裁判長は急いでいた為に、その行程を省く

 

 「被告、神崎 葵は会社仲間である神田 春樹を殺害。よって我々は()()()()()被告を罰する事を決定しま…」

 「ま、待ってください!」

 

 葵はその言動に我慢できずに次の段階にいく前に叫んでしまう。

 そう、起訴状朗読には必要ない事、求刑ですら無く決定した事を検事が口走っていたからだ。

 

 「おかしいです!なぜ、検事に刑を決められなければいけないのですか!?これ、裁判ですよね!?それに、私が春樹さんを…彼の命を奪うなんて有り得ません!」

 「何を言ってるんだい?」

 

 検事はヘラヘラと笑いながら葵を見る。

肩をすくめてヤレヤレとでも言いたそうに

 

 「君は彼と恋人関係だったようだね?そして彼は人に恨まれるような質ではない。つまり、君が溜まったストレスでも発散する為に、彼をブスッとやったわけだろ?ほら、君が犯人じゃないか」

 「は、はぁ!?」

 

 検事は含み笑いをしながら言う。

 葵は怒りを通り越して呆れていた。

葵はそんな馬鹿げた推理で犯人に仕立てあげられる事に最早怒りすらわかなかった。

 

 「凶器の包丁には君の指紋がついていてねぇ…充分すぎる程の証拠だろう?さて、裁判長…」

 「ふざけないで!」

 「まだ文句があるのか君は。もう諦めたまえよ。犯人は確定したんだから」

 「そんな馬鹿げた推理で、こんなふざけた裁判があってたまるか!」

 「静粛に!」

 

 裁判長はまたもやガベルを鳴らす。

 すると検事はおろか、葵まで硬直してしまった。

 

 「…ふむ。ではこうしよう。君は何をしていた?」

 

 やっとまともな言葉が出た。そう葵は感じたが、数秒経って絶望を感じる。

 ― 私は何をしていたんだっけ?

 

 「……………」

 「おや、答えないのかい?」

 「えっと…」

 「ほぉら見ろ!やっぱり君が犯人なんじゃないか!」

 「違います!私はそんなことしません!」

 

 葵は何をしていたか解らなくとも、自分の愛人を殺すような人間では無かった。


 「…私が無実だって証明するために、証拠探しをしていいですか」

 「ふぅん。無駄だよ。犯人が何を言おうが…」

 「うるさい!貴方みたいなポンコツに任せていたら、裁判なんて無茶苦茶よ!」

 「ポ、ポンコツだって!?」

 

 葵は検事に対して不満と怒りを爆発させていた。

 すると裁判長が機械的に話を切り出した。

 

 「それが夢実裁判です」

 「…え?」

 「検事の調べは確実で、無罪であろうと有罪であろうと判決は下され、検事が刑を決定し、私がそれを執行する許可を与える。被告は必ず裁かれるのがこの裁判です」

 

 葵はその狂宴に最早何も言えなかった。

狂っていた。検事も、裁判長も、周りの聴衆も。

 

 「よって本来は被告の証言、証拠など意味を持たないのですが…貴女は異例です。特別に許可を与えましょう」

 「…ありがとうございます」

 

 何はともあれ結果オーライだ、葵は心の中で静かにガッツポーズをする。

 

 「これにて、夢実裁判を閉廷します」

 

 カンとガベルが叩かれ、緊張の糸がほどけた様に葵は崩れ、疲れからか瞼を重く閉ざした。

 

 * * *

 

 「…はっ!」

 

 静まりかえった一室で、女性が目を覚ます。

 彼女 ― 神崎 葵はまた目を覚ました。今度は普通の職場で

 

 「あれ?」

 

 机に突っ伏すように寝ていた葵は自分の服の違和感を感じた。

 いつも着ていたスーツが無かった。

部屋は蒸し風呂のように暑く、脱いだのかも知れないが、見る限りではどこかに置いたわけでは無さそうであった

 

 「うぅーん。私、寝てたのか。仕事…は?」

 

 葵は席に置かれたPCの画面を睨む。

― 道化師は愚かな覆面を被る

 赤い文字でそう書かれていた紙が貼られていた。誰かの悪戯だろうかと葵は考えた。

だが、周りには、少なくともこの部屋に人はいない。犯人特定は難しいだろう

 

 「…そう言えば、春樹さんが…。」

 

 あの狂宴を、裁判の事を思い出す。

葵は考えるより先に動いていた。

 本当に彼が死んでしまったのかを確かめるために。

葵はスーツをも探さず事を急ぐ。

スーツが無いおかげでのおかげで暑さを少し和らげていた。

 部屋を出ると廊下だった。すぐとなりにはめ殺しの窓が、前には階段があった。

ビルに居ることを理解させられた。

出た部屋の隣にあるめ殺しの窓の先に広がる空は晴れていた。

 だが、同時に空は泣いていた。

人の表情で表すとすれば、泣き笑いとでも言えるのだろう、軽く雨が降ってはいるが、空自体は晴れている

 

 「天気雨か…」

 

 昼下がりの鋭い陽光が窓から廊下へ射し込み、降っていた雨はその光に当てられキラキラと宝石のように輝いており、葵は一瞬心を奪われる

 

 「…はっ!見とれてる場合じゃない。只の自然現象だから、珍しくもない」

 

 無理矢理結論付けて一呼吸おき、廊下を駆ける。

 自然現象だから珍しくもないと結論付けて言い放つが、心の中はそうではなかった。

 葵は見て思ったのだ。まるで喜劇と悲劇が同時に起きている、表裏一体の証明だと。

なんて美しいのだろう。だが、どこか寂しい感じがする。そうも思っていた

 

 「まずは…ここ!」

 

 葵は先程の部屋よりも少し奥にある扉を開き、中に突進するように勢いよく入室する

 部屋は窓に暗幕でもかけられているのだろう、夜のように暗い闇で覆われており、同時に何やら異臭を漂わせていた。

 

 「暗い…この臭いは、何?」

 

 葵は室外の光を取り入れるために扉を大きく開き固定する。

 

 「この部屋…確か映写室だっけ?とりあえず窓開けよう」

 

 葵は不快な臭気を消すための換気も兼ねてそうしようとした。

 窓へ向かって前へと歩みだす。

少し歩くと葵は何かにつまずいて転倒する。

葵は机にばかり気をとられ、床にまで注意がいっていなかった

 

 「いたたた…何?」

 

 葵は目を凝らして躓いた箇所を睨むように凝視する。

 そこには誰かのおびただしい量の血痕と…人形に貼られた白いテープがあった。

どうだったでしょうか?厚かましいと思いますが、よければ評価や感想をお願い致します

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