第9話 究極の超軽量マシン
25kmを過ぎたあたり。やや体が重いような感じがした。エネルギー補給が必要かな、と考え、給水所ではスポーツドリンクだけでなく、給食のおにぎり、アンパン、チョコレートを全部立ち止まって食べ、塩飴を口に放り込んでカロンコロンと舐めながら走り始めた。
よし、ちょっとは元気が出た、と思ったけれども、30kmのチェックポイントを通過した瞬間、それは突然やってきた。
ズドーン。ほんとにそんな感じだった。
なんと言えばいいのだろう。
痛い、という表現でもなく、疲れた、というのともちょっと違う。
太腿と骨盤の境目辺りが、セメントで固められたような感じ。付け根が固定されてしまったようになり、動かそうとすると確実に体力が削られるのが分かる。
一旦、歩こう。わたしは即座に判断した。
その前に立ち止まり、「走る体をつくる」のストレッチの一部をする。足をリフレッシュし、腕が振れるように肩甲骨もストレッチする。
「よし」
腕をきちんと振ってのウォーキングから徐々に走り始める。
いける、と思ったけれども、200mほどでまた足の付け根が固まってくる。たまらず、また歩く。
「水がほしい」
のどが渇いている訳じゃないのに、水を飲めば何か体が楽になるんじゃないかという暗示を自分にかけて給水所を目指す。
「あともうちょっとで給水所だよー」
沿道の応援の女性がそう教えてくれる。それを信じて歩いたり走ったりしながら前に進むけれども、まだ着かない。今の弱り切ったわたしにとっては彼女の言うもうちょっとがもうちょっとではない。
ようやく300mほど進んで給水所にたどり着き、そこに置かれてあるものを全部飲み、食べる。ストレッチもする。
でも、駄目。50mほど進んだだけで、全ての効果が消えるみたい。
そんなとき、わたしの横を、年輩、というよりは、はっきりと、'おじいさん'ランナーが追い抜いていく。本当に、ヒタヒタという堅実なマイペースの走り。
よく考えたら、このおじいさんの枯れた(ごめん!)身体は、脂肪やら人生の垢やら余分なものをそぎ落とした究極の超軽量マシンなのかもしれない。
これがマラソンなんだ、としみじみと胸に刻み込まれる。
でも、やっぱり、女子高生のわたしが、おじいさんに抜かれるのはショックだ。