十六
お母さんはでんわを切ると「どうしてすぐにでんわ切らないのよ」と、ぼくに少しおこって言いました。ぼくはそのままつっ立ってなくのをがまんしていましたが、とうとう目からなみだがぼろぼろながれてしまいました。お母さんはそれを見て、少しあきれるようにがわらいをして「もう、なかなくてもいいでしょー」と言ってから、「まあ、でも、てっちゃんもよくがんばったわね」と言い、ぼくのかたをぽんぽんとたたきました。ぼくはそのあとも、しばらくそのままつっ立って、ぼーっとなっていました。でんわはもうかかってきませんでした。
そのあと、お父さんがしごとからかえってきて、みんなでばんごはんをたべているときに、おとうさんがぼくに「なんだ、てつじ。やけにげんきないなあ。なんかあったか」ときいてきました。ぼくはばんごはんのあいだ、ずっとだまったままでした。お母さんが「きょうはたいへんだったのよ」とこたえました。お父さんは「そういえば、きょうは、てつじがしょうひしゃセンターにはでんわするという話になっていたけど、それか」とききました。おかあさんは「それなんだけどね」と言ってから、その日、ぼくがしょうひしゃセンターにそうだんしてクーリングオフのてつづきをしたことや、そのことをでんわであいてにつたえたことも話しました。おねえさんがぼくにどなったときの話もしました。「それでさあ、その女なんだけどね、さいごすごかったのよ。スケバンみたいなくちょうで、てめーふざけんじゃねー、ってどなりながらあくたいついてきたのよね。いかにも、さいごのさいごにほんしょうをあらわしたってかんじだったわね」と、お母さんは言いました。お父さんはぼくのほうを見てにがわらいしながら「そりゃ、てつじもさいなんだったなあ」言いました。お母さんはおにいさんのことも話しました。「男のほうは男のほうで、いやらしい言いかたしてくるのよね。きみのじんせいがどうとかって言ってね、ネチネチせっきょうたれてくるのよ」とお母さんが言うと、お父さんはあきれて、「まったく、ろくでもないれんちゅうだなあ」と言ってから「で、てつじはどうしてた。言われっぱなしだったのか」と、ぼくのようすがどうだったかもききました。お母さんは「もう、この子ったらね、すぐになにも言えなくなっちゃうのよ。なんどもあいてに言いくるめられそうになるし、すいませんってなんどもあいてにあやまるのよ。こっちはなにもわるいことしてないのに。さいごだって、あいての女がどなりはじめたときに、はやくでんわ切りなさいって言っているのに、ぜんぜん切ろうとしないで、あいてに言われほうだいなのよね」とこたえました。そして、ぼくのほうを見て、「てっちゃん、あのとき、どうしてすぐに切らなかったの」ときいてきました。ぼくはなにも言えませんでした。すると、お父さんが「まあ、でも、ちゃんとしょうひしゃセンターにでんわして、クーリングオフのてつづきも一人でできたんだろ。てつじにしてはよくがんばったんじゃないのか」と言ってくれました。お母さんも「そうね。よくがんばったわね。お母さんもでんわでむりに話させるひつようはなかったわね。てっちゃんにはわるいことしたわ」と、あやまってくれました。ぼくはそれをきくと、またなきそうになりました。いっしょうけんめいにがまんしたけど、なみだがながれてきてしまいました。お父さんはぼくのようすを見てにがわらいをしながら「そんな、なくほどひどいこと言われたのか」と言って、あきれていました。
でんわのあと、ずっとおねえさんにどなって言われたわるぐちとか、おにいさんに言われたことばとかが、あたまの中をぐるぐるしていました。ごはんのあとも、ぼくはずっとだまったままで、お父さんもお母さんも少ししんぱいそうでした。お母さんは「あんな人たちの言うことなんて気にすることはないわよ。はやくわすれちゃいましょう」と言って、なぐさめてくれました。でも、夜ねるときも、まだ言われたことがあたまの中をぐるぐるしていました。とくに、おねえさんに言われたわるぐちが、ずっと耳にのこっていました。今にもこえになってきこえてきそうで、からだがブルブルふるえました。なみだもでてしまいました。それといっしょに、おねえさんのおっぱいのたにまや、おねえさんのふともものあいだから白いパンツが見えていたこともちょっと思い出しました。でも、ちんちんはぜんぜんかたくなりませんでした。