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十四

 おねえさんはでんわにかわると「もしもし。ねえ、どうしちゃったのー。なにがあったのー」ときいてきました。ぼくは「べつになにもないです」と言いました。すると、おねえさんは「なんかさー、てつじさん、きょうつめたくない。きのうはすごくやさしかったのにー」と言いました。ぼくはおねえさんのこのことばをきくと、なんだかこいびとにわかれ話をしているようなへんな気もちになってきました。ぼくが「そうですかねー」ときくと、おねえさんは「なんかつめたいよー。でも、まだクーリングオフするってきめたわけじゃないんでしょー。かんがえなおしてくれるんだよねー」ときいてきました。ぼくが「いやー、それはちょっとむつかしいかもしれません」と言うと、おねえさんは「えー、なんでなのー。きのう、あたしもはじめてのえいぎょうですごくふあんだったんだけど、てつじさんがやさしそうな人でほんとうにほっとしたし、けいやくしてくれたのがすごくうれしかったんだからー。やくそくもしたでしょー。これからまた話もできると思ってたのしみにしてたのにー」と言いました。おねえさんは、このあと思いだしたように「そうそう、さっき言おうと思って言えなかったんだけどさー、あたしきのうアイスコーヒーだいはらわないでかえっちゃったでしょー。てつじんさんはらってくれたのー」ときいてきました。「ええ、まあ」とぼくがこたえると、「やっぱりそうなんだ。ごめんねー。きのうずっときんちょうしてたから、かえるときすっかりわすれてたー」と言いました。ぼくが「ぜんぜんかまいませんよ」と言うと「ごめんねー。こんどそのおれいもさせてほしいなー」と言いました。「いえいえ、ほんとうにだいじょうぶですから」と、ぼくは言いました。お母さんはそのあいだも「はやく言いなさい」と、ぼくをせかしていました。

 ぼくはおねえさんと話していると、クーリングオフをしたことをこうかいする気もちがだいぶつよくなってきました。やはり、おねえさんをうらぎってしまうことだと思ったし、きずつけてしまうと思いました。あと、ぼくはおねえさんをうらぎったら、もうおねえさんとなかよくできなくなって、おっぱいにもさわれなくなると思いました。今からかんがえるとバカみたいだけど、ぼくはけいやくをするとおねえさんといろいろいやらしいこともできるかもしれないというスケベな気もちがありました。そして、ほんとうのことを言うと、それがもうできなくなってしまうことがいちばんざんねんだと思いました。でも、ぼくはもうクーリングオフのしょるいをおくってしまったし、あともどりはできないと思いました。ぼくはそのことをおねえさんに言わなければいけませんでした。

 ぼくは思いきって「あのー、ほんとうにもうしわけないのですが、じつを言うと、もうクーリングオフのてつづきをしてしまったんです。ほんとうにごめんなさい」と言いました。おねえさんはまた少しおどろいていたようでした。おねえさんは少しあいだをおいてから「それまじなのー」ときいてきました。ぼくは「はい。きょう、しょうひしゃセンターでそのやりかたをおしておもらって、さっきそのしょるいをおくったところなんです」と言いました。おねえさんは「えー、まじでー。じゃあ、もうかんがえなおしてくれることはないってことー。今からそれをとりけすとかできないのー」ときいてきました。そのとき、おかあさんを見ると、しぶいかおをしてダメだダメだとなんどもくびをよこにふっていました。ぼくは「そうですね。ちょっとむりですね。ほんとうに、すいません」と言いました。すると、おねえさん少しあいだをおいてからひくいこえで「わかった」と言ってから、でんわから少しはなれたようでした。

 このとき、おねえさんはでんわのほりゅうボタンをおさなかったようで、おねえさんとおにいさんがなにか話しているこえが少しとおくからきこえるようになっていました。なにを話しているのかよくわからなかったけど、おにいさんが言った「まじかよ。じゃあ、もういいや」ということばだけはなんとなくわかりました。このとき、お母さんは、なんども小さくうなずいて「これでもうだいじょうぶそうね」と言いました。ぼくもだまってうなずきました。でも、ぼくはこれでおねえさんとおわかれと思うと、やっぱりさみしいし、なんかわるいことしてしまったようなうしろめたい気もちになりました。

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