十三
ぼくは、もうどうしていいのかわからなくなってきていました。じぶんがうそをついているような気もしました。がんばれば、しゅうに二三かいくらいのかていきょうしはできる気がしました。ぼくはうそをつくのはいやでした。クーリングオフをすることがただしかったのかも少しわからなくなってきました。もし、あいてのしていることがサギじゃなかったら、ぼくのほうがわるいことをしているんじゃないかという気にもなってきて、なんだかこわくなってきました。
ぼくはとうとう「あのー、きのうおやにもそうだんしたんですが、はんたいされまして。ほんとうはクーリングオフするつもりはなかったんです」と言ってしまいました。ぼくがこう言ったとき、お母さんはおどろいたかおで「ちょっと、なに言ってんのよー」と言っていました。おにいさんは少しあきれたように「あのさー、きみのじんせいなんでしょう。おやに少しくらいなにか言われたからってかんたんにかんがえをかえるのは、あまりにもいしがよわすぎるんじゃないんですか。きみにはじぶんのいしってものがないんですか。いったい今いくつなんですかきみは」と言いました。お母さんはものすごくみけんにしわをよせながら、耳もとで「しょうひしゃセンターのことを言っちゃいなさいよ」と言いました。ぼくは思いきって「あのー、じつはですね。きょう、しょうひしゃセンターにいちおうそうだんしてみたんです。そしたらクーリングオフをすすめられたんです」と言いました。
おにいさんはこれには少しおどろいたようでした。いっしゅんだまっていました。それから、おにいさんは「しょうひしゃセンターにそうだんしたんですか」ときいてきました。「はい」とそれにぼくがこたえると、おにいさんは少しあいだをおいてから「そこでなに言われたかしりませんが、われわれは、べつにやましいことはしてないですからね。ほうりつのはんいないでやってますし。うったえてもらってもぜんぜんかまわないんですよ」と言いました。このとき、ぼくはおにいさんのこえが少しいきおいがなくなったと思いました。それでぼくはちょっとだけ気もちにいきおいがつきました。ぼくは「だからクーリングオフしようと思いました。これはしょうひしゃのだいじなけんりですから」と、しょうひしゃセンターのおばさんからおしえてもらったことを言いました。すると、おにいさんはまた少しおこったかんじのこえになって「いや、こっちだってそんなことくらいわかってますよ。でも、いくらけんりだからって、いきなりいっぽうてきにけいやくをかいじょするっていうのは、ちょっとみがってでらんぼうだと思いませんか」と言いました。ぼくが「それはもうしわけないと思っています」と言うと、おにいさんは「じゃあ、もういちどかんがえなおしてくれませんか。こっちだってね、じぜんじぎょうでやってるわけじゃないんですよ。だから、それなりにお金はもらいますよ。りえきをださないとかいしゃとしてなりたたないですからね。とうぜんのことですよ。でも、われわれはそのお金にみあったサービスはちゃんとていきょうしてますからね。これはじしんをもって言えることです。それをサギかなんかのようにあやしまれていっぽうてきにけいやくをかいじょされるのは、こっちとしてはずいぶんりふじんな話じゃないですか」と言いました。ぼくが「それはわるいと思っています」と言うと、おにいさんは「わかりました。じゃあ、もう、こうしませんか。クーリングオフのゆうこうきかんは8日でしたよね。今すぐけつろんをださなくてもいいでしょう。もう1日くらいよーくかんがえてみてください。けつろんはそれからでもいいんじゃないですか」と言いました。このとき、ぼくはクーリングオフのてつづきをもうしてしまっていることがちょっとあたまにあったけど、それよりもはやくおにいさんとの話をおわりにしたいと思いました。それで「じゃあ、分かりました。そうします」と言ってしまいました。すると、お母さんはあわてて耳もとで「ちょっとまって。てっちゃん、もうクーリングオフのしょるいをおくったんでしょ。そのことを言ったほうがいいんじゃないの」と言ったので、ぼくもやはりそうだと思って、いそいでそのことを言おうとしました。でも、ちょうどそのあいだにおにいさんは「じゃあ、またちょっとかわりますね」と言って、でんわをおねえさんにかわってしまいました。