一
先生あのね、ぼくはサギにあいました。夏休みのある日のことでした。ぼくはじっかにかえっていて、そこでひとりおるすばんをしていました。お父さんはかいしゃで、お母さんはパートづとめにでていました。夕方の四じくらいにでんわがかかってきました。ぼくがでんわに出ると、わかい女の人のこえがしました。ちょっとハスキーなこえでした。女の人は「てつじさんでらっしゃいますかー」ときいてきました。ぼくは「はいそうです」と言いました。すると、女の人はじこしょうかいをしてから「今ちょっとおじかんだいじょうぶですかー」ときいてきました。ぼくはなにもようじがなかったから「はい、だいじょうぶですけど」と言いました。それから、女の人は「今から会っていただけませんかー。お話したいことがあるんです」と言ってきました。ぼくは会うのは少しとつぜんすぎると思って、「今ですか。でんわでは話せないんですか」とききました。すると、女の人は「どうしてもてつじさんと会ってゆっくりお話ししたいんですよー」と言いました。ぼくは「なんのお話なんですか」とききました。女の人は「とてもだいじなお話なんです。てつじさんのしょうらいにもかんけいすることかもしれません。でんわではなかなか話しきれないことなので、ぜひ会ってお話ししたいんです。てつじさんにいろいろお見せしたいものもあるんですよー」と言いました。ぼくは少しかんがえてから「すいません。よくわからないのでいいです」と言いました。すると、女の人は「そんなこと言わないでくださいよー。けっしてあやしいものではないんですー。ほんとうに少し話をきいていただくだけでよくて、そうですねー、だいたい20分くらいですかねー」と言いました。ぼくは「ほんとうに20分くらいですか」とききました。女の人は「はい、ほんとうにすぐにすみます。それに、あたしとしてもぜひてつじさんにお会いしたいと思っているんです。今ちょっとてつじさんとお話しして、おこえがとてもやさしいので、きっとすてきな人なんだろうなーと思って」と言いました。ぼくは「いえいえ、ぜんぜんそんなことはないんですけどね」と言いました。ぼくはじぶんのこえを女の人にほめられたのは、はじめてでした。とてもうれしくなりました。ぼくも会いたいと思うようになりました。ぼくはちょっと会って話をきくくらいならいいと思いました。ぼくは「わかりました。ちょっとお話をきくだけならいいです」と言いました。すると、女の人はうれしそうなこえで「ほんとですかー。ありがとうございますー」と言いました。
それから、すぐに会うやくそくをしました。やくそくのじかんは、30分くらいあとになりました。このとき、女の人はぼくにハンコとみぶんしょうめいしょうと、できればお金も1万円もってきてほしいとたのんできました。ぼくはこれをきいて、やっぱりなんだかちょっとおかしいなあと思いました。でも、ぼくは女の人に会いたい気もちの方が、だいぶかってしまいました。ぼくはいそいでいくじゅんびをしました。