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おくびょうもの(3)

 螺旋階段の終わりには広い踊り場のようなスペースがあり、四人が横に並んで通れるサイズの扉が開け放たれている。

 その先のがらんどうな空間には、塔の屋上に繋がる折り返し式の長い階段と横に長く伸びた楕円形の窓が幾つかあり、傍には木製のイスが一つずつ。


「マコハルはここでユタカを見つけたんだよねぇー」


 屋上への階段を上る途中、カズミが嬉しそうに言った。優が、え? と聞き返すと、ハルが応える。


「あーそうそう。双眼鏡そーがんきょーで見張りしてたからねー。優が街からの坂を下りてくるあたりから気づいてたよー」

双眼鏡そうがんきょう……?」

「うん。双眼鏡そーがんきょーって言ってね、遠くのものが近くに見えるものなんだな。ここに来る前に街から拾ってきたやつね」


 マコハルに説明されなくとも、双眼鏡が何たるかは知っている。優が聞き返したのは、自分が認識している双眼鏡と同一だと確信できないから。


「街が光ったの、優も見たよねー?」

「あ、はい。なんか、青く……」

「それで気づいたんだー。光ってなかったら、見つけてないかもー。そしたら優は今ごろ、凝固してるだろなー」


 サラリと怖いことを言うマコをハルが小突いていたが、優の頭は双眼鏡のことでいっぱいだった。双眼鏡は正しい名前で認識されてるみたいだけど、近くに説明書でもあったのかな。でも、説明書にフリガナなんてあったかな、と。

 

「マコハルはエラいんだよー、みんなが嫌がる見張りを二人でずっとやってきたんだからっ」


 自分がやっていることではないのにどこか誇らしげに語るカズミだったが、マコハルが急に真剣な顔になっているのを見て、舌を出して目を伏せた。


「優、階段の先は屋上で、みんなが集まってるー。優のことはシノヅカさんが伝えてるはずー。たぶん、塔長からいろんなことを聞かれると思うけど、応えてあげてねー」

「うんうん、そうだね。まずは自己紹介から入らなきゃ、なんだな」


 紹介してくれるのはありがたいけど……と、優は不安を覚えていた。

 とんとん拍子に事態が進んでいくけど、このまま流れに身を任せていいのかな……見ず知らずで、どこから来たのかもわからない人をそんなに簡単に受け入れるものなんだろうか。

 それを判断するために、これから質問を受けるのかな。でも僕は、ミケを見つけて元の世界に帰りたいだけだから……


「ーー優! 大丈夫ー?」


 マコの言葉にハッとなり、優はぶんぶんと顔を縦に振った。マコハルはお互いの顔をしばらく見つめたあと、マコが優、ハルがカズミの手をとり、一気に階段を駆け上っていく。

 階段の終わりから差し込む蒼い光が強くなるにつれ、夜冷えした空気を肌で感じるようになってきた。

 優はここでも新しい事実に気づく。この冷たさなら寒いと感じてもおかしくないのに、そうならない。汗も出ないし、体温も関係なくなってるんだ。

 開け放たれた扉の先に進むと、蒼い光が洪水のように溢れ、フラッシュのように感じた優は眩しさに目を閉じる。

 目をしょぼつかせている優の背中をマコハルがぐいと押すと、万雷の拍手が。

 あまりに驚き、眩しさも忘れた優が目を開けば、百や二百はゆうに超えた数の塔民たちが自分のほうを見ていた。

 二度めの拍手が響く。今度はマコハルへの賛辞が混ざり、優は思わずアメリカ大統領選挙の候補者演説を想起。

 興奮醒めやらぬ、といった感じの塔民たちは思い思いの言葉を投げ続け、喧噪はしばらく続いていたが、


「えー、おほん」


 屋上の奥からの咳払いでぴたりと止まった。勢いに圧倒されていた優もその空気の変化にのまれ、塔民が振り返る先、咳払いをした青年を見る。


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